定冠詞
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ヨーロッパ周辺の冠詞の分布 .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  前置不定冠詞と前置定冠詞   前置定冠詞のみ   前置不定冠詞と後置定冠詞   後置定冠詞のみ   冠詞なし

冠詞(かんし、article)とは、名詞と結びついて、その名詞を主要部とする名詞句定性(聞き手が指示対象を同定できるかどうか)や特定性(特定の対象を指示しているかどうか)を示す要素である。
概要

名詞の前と後ろのどちらに置かれるかは言語によって異なる。

結びつく名詞の素性(など)によって変化することもある。

指示語ともに限定詞という品詞を構成することもある(英語など)。一方、指示詞と冠詞は別々の位置を占めることもある。たとえばカナ語では、定冠詞は名詞の前、指示詞は名詞の後ろに置かれ、同時に用いることができる。

しばしば接語であり、また直後の語の発音によって変化することがある。たとえば、次の語の語頭が母音であるときに、次が子音であるときに比べ、母音を省略したり子音を補ったりすることがよく行われる。英語の定冠詞は、次が子音であるときに弱形の発音を持つ。

一部の言語では、接置詞と隣接するとき、前置詞と冠詞の縮約となることがある。フランス語では縮約形を持つ組み合わせの時には、必ず縮約形を使わなければならない(例: de + le → du)が、ドイツ語では意味の違いで使い分ける(例: 通常は von + dem → vom だが指示的な場合は von dem のままとする)など、言語によって様々である。

なお、ロマンス諸語の元となったラテン語には冠詞がなく、ロシア語や多くのスラブ語派、そしてペルシア語のように、インド・ヨーロッパ語族に属する言語にも冠詞のないものもある。冠詞の用法は最近数百年間に北西ヨーロッパで急激に発達している。
冠詞の種類

冠詞は、結びつく名詞を主要部とする名詞句が定または特定の対象を指すことを表す定冠詞(ていかんし、definite article)と、不定の対象を指すことを表す不定冠詞(ふていかんし、indefinite article)に大別できる。

指示語とは別に定冠詞を持つ言語は、主に、西ヨーロッパ、アフリカ中部、太平洋、メソアメリカなどによく見られる。アジア、南アメリカ、西海岸を除く北アメリカには比較的少ない( ⇒地図)。

不定冠詞を持つ言語は、ヨーロッパ、アフリカ中部・南部、中東からミャンマーにかけて、ニューギニア東部と太平洋、中央アメリカによく見られる。北米・南米、オーストラリア、北アジアには少ない( ⇒地図
定冠詞

定(文脈上、同定できるもの)を表す名詞の前に置く。

既出のもの。それ。

一つしかないと一般に認知されているもの。太陽(
英語 the sun, ドイツ語 die Sonne, フランス語 le soleil)など。

その名詞が表すもの総体。…というもの。

固有名詞の前で使われることがある。英語では普通名詞を固有名詞として用いる場合(例:合衆国 the United States)、複数形の固有名詞の前(例:バハマ The Bahamas)。フランス語では国や川の名前の前、また特定の人名、都市名(例:ル・コルビュジエ Le Corbusier)。

形容詞を名詞化する。例えば、英語で the rich は rich people を表す。

様態の付与を行う。例えば"The Nancy I know is really hearty."という文章では「私の知っているナンシーはとても心優しい」というようにあるものに対する話者の様態の意識を示している。

後置定冠詞

冠詞は単語の前に独立して付けられる言語が多いが、言語によっては、定冠詞は名詞の後ろに付いて、曲用語尾のように見える。このような定冠詞を後置定冠詞 (postposed article)[1]と呼ぶ。語尾定冠詞[2]、定形語尾 (definite suffix)[3]ともいう。北ゲルマン語群の他、バルカン言語連合ルーマニア語ブルガリア語マケドニア語アルバニア語アルメニア語に見られる。
不定冠詞・部分冠詞

不定冠詞は、不定の名詞(文脈に新たに導入されたものを指す名詞)の前に置く。単数形の不定冠詞しかない言語と、単複両形がある言語があり、単数形には一般に、数の 1 を表す単語が用いられる。前者の場合(英語の a/an、ドイツ語の ein とその変化形、オランダ語の een 等)は、不定の単数の可算名詞の前にのみ置かれて、名詞が複数の場合や不可算名詞の場合には、不定のものを表す名詞の前でも置かれない。後者の場合、例えばフランス語では、単数の可算名詞の前には単数形 un/une、複数の可算名詞の前には複数形 des が置かれる。

スペイン語ポルトガル語には、@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}不定冠詞の単数形からアナロジーにより派生した[要出典]不定冠詞の複数形が存在する。

部分冠詞は、フランス語、イタリア語などに独特の冠詞で、不可算名詞のための不定冠詞と考えられる。起源的には、部分の属格から発生したもので、そのため属格の前置詞と定冠詞が合わさった形をしている。これは不定冠詞の複数形でも同様である。フランス語の場合は、属格の前置詞 de を用いて、不定冠詞の複数形(男女同形)は de + les → des、部分冠詞は男性形 de + le → du、女性形 de la となる。イタリア語の場合は、属格の前置詞 di を用い、不定冠詞の複数形は部分冠詞として扱われる。

これらの言語では、不定冠詞の複数形 + 名詞(複数形)または部分冠詞 + 不可算名詞の形で総称を表現することはできない。例えば、「私はりんごが好きだ」に対応する文は、英語ではりんごを無冠詞の名詞の複数形にする。

I like apples.

しかしフランス語では、不定冠詞 + 名詞(複数形)では総称にはならず、定冠詞 + 名詞(複数形)にしなければならない。

*J'aime des pommes. (誤り)

J'aime les pommes.

これは、不定冠詞の複数形が部分冠詞と同じく部分の属格に発しているため、不定冠詞の複数形 + 名詞(複数形)の形だと「全てではなくいくつかのりんご」の意味になるからである。同様に、「私はパンが好きだ」に対応する文は、英語ではパンを無冠詞の不可算名詞とする。

I like bread.

しかしフランス語では、部分冠詞 + 不可算名詞では総称にはならず、定冠詞 + 不可算名詞にしなければならない。

*J'aime du pain. (誤り)

J'aime le pain.

冠詞の機能

冠詞の機能は二つある[4]。一つは、名詞句の定不定を規定することで、これを談話機能という。定には定冠詞、不定には不定冠詞を用いる。現在の生成文法では、冠詞を含む限定詞こそがいわゆる名詞句の主要部であるという DP 仮説(DP: Determiner Phrase、限定詞句)がある[5]。また冠詞に名詞が付くのであって、名詞に冠詞を付けるのではないという母語話者の内省報告もある[6]

もう一つは、名詞を可算名詞として用いているか不可算名詞として用いているかを規定することで、これを認知機能という。以下に英語とフランス語の不定の例を示す。

英語フランス語意味
可算an appleune pomme数えられる物としての単数のりんご
applesdes pommes数えられる物としての複数のりんご
不可算applede la pommeすりりんごなどの物質としてのりんご

英語では複数および不可算では無冠詞となる。これをゼロ冠詞と見なしても良い。複数名詞は複数形の語尾 -s を持つ。

フランス語では不定冠詞に単複があり、また不可算には部分冠詞を用いる。名詞は単複の違いはなく同音であり、正書法でのみ書き分ける。したがって聞き取りにおいて冠詞が単複の区別の手がかりとなる。
総称表現と冠詞

冠詞は、総称表現と密接な関係がある。例えば、日本語で「ライオンは危険な動物である」と言った場合、特殊な文脈でない限り、『ライオンは総じて危険である』という意味をなし、(どの1頭かは特定されないが)あるライオン(だけ)が危険だとか、特定のライオンだけが危険だということは意味しない。ここで、ライオンは可算名詞である。これに対応する文は、不定冠詞の複数形や部分冠詞のない英語では、
A lion is a dangerous animal. (不定冠詞・単数: 下二つの中間的な表現)

Lions are dangerous animals. (無冠詞・複数: 会話的で一般的な表現)

The lion is a dangerous animal. (定冠詞・単数: 文章的な堅い表現)

*The lions are dangerous animals. (定冠詞・複数: 総称的表現としては誤り)

である。この場合、 1 においては多数から代表個体を抽出するという性質から「あるライオンですら一頭の危険な動物である」、 2 においては全体を集合個体と見なすという性質から「あるライオンたちは一群の危険な動物である」、 3 においては定冠詞の抽象性の付与によるある個体と他の個体の間の境界を策定するという性質から「ライオンというものは一種の危険な動物である」となり、それぞれに総称的意味が現出する。しかし 4 では総称的表現として解釈すると「*『ライオンというもの』たちは一群の危険な動物である」というように概念としてのライオンが複数あるような表現になってしまい不適となる(「そのライオンたちは一群の危険な動物である」という個別的表現としてならば解釈可能である)。

一方、不定冠詞の複数形や部分冠詞のあるフランス語では、
Un lion est un animal dangereux. (不定冠詞・単数: 例外を許さない強い総称的表現)

*Des lions sont des animaux dangereux. (不定冠詞・複数: 総称的表現としては誤り)

Le lion est un animal dangereux. (定冠詞・単数: 一般的概念としてのライオン)

Les lions sont des animaux dangereux. (定冠詞・複数: 自然な集合としてのライオン全体)

である[7]。上記の各組の文はいずれも補語の「危険な動物」は不定であり、主語の単数・複数と一致している。この場合、1 においては多数から代表個体を抽出するという性質を更に推し進めて「どのライオンであろうと一頭の危険な動物である」、3 においては定冠詞の抽象性の付与によるある個体と他の個体の間の境界を策定するという性質から「ライオンというものは一種の危険な動物である」、4 においては定冠詞の抽象性の付与と全体を集合個体と見なすという性質から「ライオンという種は一群の危険な動物である」となり、それぞれに総称的意味が現出する。しかし 2 では総称的表現として解釈すると「*『あるライオンたち』ですら一群の危険な動物である」というように代表個体が複数例に割り振られることで概念が曖昧になってしまい不適となる(「あるライオンたちは一群の危険な動物である」という個別的表現としてならば解釈可能である)。


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