安楽死
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この項目では、人間に対する安楽死について説明しています。動物の安楽死については「殺処分」をご覧ください。
世界の安楽死の現状:(医師による自殺幇助は除く) .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  本人が希望し、医師が関与した積極的安楽死が合法   消極的安楽死が合法   安楽死が一律違法   不明医師による自殺幇助の現状:   合法   憲法裁判所によって合法(または犯罪ではない)と判断されているが、法制化されていない   非合法

安楽死(あんらくし、英語: euthanasia)とは、または動物に苦痛を与えずにに至らせることである。一般的に、終末期患者に対する医療上の処遇を意味して表現される。

安楽死に至る方法として、医師の助けを借りて死に至る積極的安楽死(せっきょくてきあんらくし、英語: positive euthanasia, active euthanasia)と、治療を行わないことによって死に至る消極的安楽死(しょうきょくてきあんらくし、英語: negative euthanasia, passive euthanasia)の2種類がある。

また、安楽死の別表現として、尊厳死(そんげんし、英語: dignified death, death with dignity)という言葉がある。これは、積極的安楽死と消極的安楽死の両方を表現する場合と、安楽死を本人の事前の希望に限定して尊厳死と表現する場合があるが、世界保健機関、世界医師会、国際連合人権理事会、国家の法律、医療行政機関、医師会などの公共機関による、明確または統一的な定義は確認されておらず、尊厳死と安楽死の区別は、国によって判断が様々である。

耐えがたい苦しみに襲われている患者や、助かる見込みのない末期患者本人が尊厳ある死を希望した際に、積極的安楽死も合法化している国には、1940年代に法律を整備した先駆的な国であるスイス、2000年代にかけてはアメリカのいくつかの州、オランダベルギールクセンブルク、2010年代にはコロンビアカナダオーストラリア、2020年代にはスペインニュージーランドオーストリアポルトガルがある[1]
積極的安楽死(処方による安楽死)・合法化国

積極的安楽死(せっきょくてきあんらくし、英語: positive euthanasia, active euthanasia)とは、致死性の薬物の服用または投与により、死に至らせる行為である。医療上の積極的安楽死の場合は、耐えがたい苦しみに襲われている患者や、助かる見込みのない末期患者の自発的意思に基づき、医師が致死性の薬物を注射する。または医師が処方した致死薬を患者が自身の意思で服用する医師による自殺幇助(Physician-Assisted Suicide/ PAS)を指す。医師の助けを得つつ、致死薬等で死を選ぶ安楽死が積極的安楽死と呼ばれる[2]。国によっては、医師による自殺幇助と安楽死は明確に区別される。欧州では、本人が望んだ場合にベルギーオランダルクセンブルクスペインポルトガルが安楽死を合法化している。キリスト教国で自殺を罪としているコロンビアでも1997年に南米初の尊厳死、末期疾患本人の意思による自殺ほう助を非犯罪化した。さらに2021年7月には高等裁判所が「尊厳ある死の権利」を末期疾患の患者以外にも適用を拡大することを認めた。コロンビアは国民のほとんどがカトリック教徒で、教会は安楽死にも自殺ほう助にも断固反対しているが、 南米初であった[3]
安楽死と国内主流宗教との関係

安楽死・尊厳死の問題は生命倫理死生観と密接に関連するため、その国で主流の宗教による影響がある。
キリスト教

キリスト教においては意見が分かれており、積極的安楽死を法的に認めている国はプロテスタントの影響が強い国が多く、逆にカトリック積極的安楽死に強く反対している。そのため、スイス、ベルギー、オランダなどプロテスタント国が一定条件下で安楽死合法化している中で、フランスのように法制化を求める意見が多くとも、国内カトリック教会からの圧力で実現していない国もある[4][5]。2024年3月には同国紙リベラシオンのインタビューにて、マクロン大統領が末期がんなどで余命診断成人に限って安楽死や自殺ほう助を法律で認めることを支持すると初表明した。同国内では自殺幇助の合法化の是非について、2023年時点で76%が賛成であった[5]
カトリックの合法化国

カトリック国として、スペインやコロンビアが耐えがたい苦しみに襲われている患者や助かる見込みのない末期患者にも積極的安楽死を合法化している[3][1]。カトリック総本山のイタリアでも、「希望者へ安楽死を認めないこと」は憲法違反とされ、2022年6月に同国初の安楽死が行われた[6]
イスラーム教

イスラームではカトリック同様に自殺を固く禁じている教義であり、積極的安楽死は殺人とされている。

ただしカトリックやイスラームにおいても、死期が迫る患者に対して苦痛を伴う延命治療を中止するという消極的安楽死には必ずしも反対していない[7]
ユダヤ教

ユダヤ教において積極的安楽死は違法とされているが、法的、倫理的、神学的、精神的な観点から明確な合意が得られず、その可否について議論されている[8]
日本

日本では他人による積極的安楽死は法律で明確に容認されていないので、本人の意思による積極的安楽死に加担した(未遂も含む)場合さえも刑法嘱託殺人罪等の対象となる。ただし、名古屋安楽死事件や、東海大学病院安楽死事件の判例では、下記の厳格な条件を全て満たす場合には違法性は無いために阻却される(刑事責任の対象にならず有罪にならない)と述べている。

一般的に他人(一般的には医師)が行う場合は下記の4条件を全て満たす場合に容認される(違法性を阻却され刑事責任の対象にならない)。

患者本人の明確な意思表示がある(意思表示能力を喪失する以前の自筆署名文書による事前意思表示も含む)。

死に至る回復不可能な病気・障害の終末期で死が目前に迫っている。

心身に耐えがたい重大な苦痛がある。

死を回避する手段も、苦痛を緩和する方法も存在しない。

名古屋安楽死事件の判例「名古屋安楽死事件」も参照

1962年(昭和37年)の名古屋高等裁判所の判例では、以下の6つの条件(違法性阻却条件)を満たさない場合は、違法行為となると認定している。
回復の見込みがない病気の終末期で死期の直前である。

患者の心身に著しい苦痛・耐えがたい苦痛がある。

患者の心身の苦痛からの解放が目的である。

患者の意識が明瞭・意思表示能力があり、自発的意思で安楽死を要求している。

医師が行う。

倫理的にも妥当な方法である。

本件においては、(5)(6)が欠けているため、被告人は刑法 202 条により嘱託殺人だとされ、懲役 1 年執行猶予 3 年の判決が下された[9]
東海大学病院安楽死事件の判例「東海大学安楽死事件」も参照

1995年(平成7年)の横浜地方裁判所の判例では、下記の4つの条件(違法性阻却条件)を満たさない場合は、違法行為となると認定している。
患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいる。

患者の病気は回復の見込みがなく、死期の直前である。

患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために可能なあらゆる方法で取り組み、その他の代替手段がない。

患者が自発的意思表示により、寿命の短縮、今すぐの死を要求している。

本件において被告人は、刑法 199 条により殺人罪とされ、懲役 2 年執行猶予 2 年の有罪判決が下された。
動物に対する安楽死動物一般の安楽死については「殺処分」を、競走馬については「予後不良_(競馬)」を参照
本人が希望した際に積極的安楽死を法律で容認している国・地域の一覧

 
スイス- 1942年[10]

 アメリカ合衆国

オレゴン州 - 1994年「尊厳死法 (Death with Dignity Act)」成立

ワシントン州 ? 2009年

モンタナ州 - 2009年

バーモント州 - 2013年

ニューメキシコ州 - 2014年

カリフォルニア州 - 2015年[11]


 コロンビア - 1997年に自殺ほう助を非犯罪化。しかし、コロンビアは国民のほとんどがカトリック教徒で、カトリック教会は安楽死にも自殺ほう助にも断固反対していた。正式に立法化されたのは2014年である。さらに2021年7月に高等裁判所が「尊厳ある死の権利」を末期疾患の患者以外にも適用を拡大することを認めた[3]

 オランダ - 2001年「安楽死法」可決。

 ベルギー - 2002年「安楽死法」可決。

 ルクセンブルク - 2008年「安楽死法」可決。

 カナダ - 2016年[12]。初めのうちは安楽死がされたのは重大な病を抱える終末期の人物に限られていたが非終末期の人物にも議会で拡大をミトメル改正がされ、精神疾患を抱える人物も安楽死が許容された。プレジデントオンラインで児玉真美が報じたところによれば、カナダでは社会保障の申請をするよりも安楽死の申請をする方が、より申請が簡単で認可されやすく、社会保障を断られた人物が生活苦から安楽死を選択せざるを得なくなっているという[13]

 オーストラリア - 2022年5月までに全州で可決[14]

ビクトリア州 - 2017年[15][16] 

ニューサウスウェールズ州 - 2022年5月に最後の州として可決[14]


 イタリア - 2019年の憲法裁判所の最高判決。2地域の保健当局による承認が必要で、初のケースは2021年11月に許可を獲得した12年前に交通事故に遭い、生前「生きるために最善を尽くしたが、精神的にも身体的にも限界だ」と話していた身体麻痺を抱えた44歳の男性である。2022年6月16日、特別な機械を使って自分で薬品を投与した後、家族が見守る中で安楽死した[6]。 

 ドイツ - 2020年に憲法裁判所は、ビジネスとしての自殺幇助を禁止する法律を違憲と判断し、死の自己決定権を認めた[17]。これを受け2021年には350人が幇助自死を遂げたと報じられている[18][19]。同年、ドイツ医師会は、職業規範から自殺幇助の禁止を削除することを決定した[18]

 スペイン - 2021年6月[20]。自殺をタブーとしているカトリック教国であるものの、過半数が賛成した[14]

 ニュージーランド - 2021年11月に安楽死を合法化する法律が施行予定[21]

 オーストリア - 2022年1月に自殺幇助が合法化。

 ポルトガル - 2023年5月に合法化法案が可決。

日本では、積極的安楽死を法律で容認するかについて議論されているが、法律で明示的に容認していない。
オーストラリア

オーストラリアでは北部準州で積極的安楽死と自殺幇助が1996年7月から合法化され、4人が安楽死したが、連邦政府は9ヶ月後に法律を無効化した[22]。20年後の2017年11月にオーストラリア南東部のビクトリア州上院で安楽死の合法化法案が可決され、2019年6月から施行された[16][15]。この法律では安楽死が認められるのは18歳以上で、余命6か月以内の場合に限られる[15]

安楽死推進団体に所属し、2018年に104歳で安楽死したオーストラリアの環境学・植物学者デイビット・グッドールは、積極的安楽死を「ふさわしい時に死を選ぶ自由」と定義している[23][24]。グッドールは重い病を罹患していなかったが、老化で体が不自由になるなど生活の質が低下していたと述べ、スイスバーゼルでの安楽死前日の会見で「スイスの品位ある死を選べる制度」に感謝を示し、「全ての国はスイスに遅れを取っていて、自国のオーストラリアでは老化による生活の質の低下を理由に安楽死を合法化していないのは残念だ」と語った[23][24]


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