安全保障貿易管理
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輸出管理(ゆしゅつかんり、: Export control)は、国際的な平和と安全の維持を妨げるおそれがある場合などに、貨物の輸出・技術の提供に際して、当局の許可を要求することをいう[1]

一般的には、各国の法律に基づき、規制品目の潜在的な輸出者が当局に許可を申請し、当該当局が輸出の可否を評価し、必要に応じてライセンスを与えるか否かを決定する手続が規定されている。

輸出管理は、安全保障貿易管理(後述)とそれ以外の規制に区分できる[2]
歴史

輸出管理はアメリカではアメリカ合衆国の独立の頃から行われてきたが、現代の輸出管理体制は1917年のアメリカの対敵通商法、1939年のイギリスの輸出入関税権(防衛)法にまで遡ることができる[3]。重要な法律は1940年のアメリカ輸出管理法(英語版)で、特に戦前の日本への資源の出荷制限を目的としていた。
安全保障貿易管理
安全保障貿易管理の概要

武器や軍事転用可能な貨物・技術の輸出規制など安全保障に関する分野における輸出管理を安全保障貿易管理または安全保障輸出管理(: Security trade control)と呼ぶ[4]

国際的な平和および安全の維持の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を防止するために、国際的な輸出管理の枠組み(レジーム)や関係条約に基づき、自国内の法令をもって、厳格な輸出管理を行うものである[5]

概念としては、自国または同盟諸国の安全保障上の利益を確保するために、国家間の同意事項として、敵対勢力への利敵行為となりうる民間貿易(輸出)を管理する、という考えであり、これは冷戦下のココム規制(対共産圏輸出統制委員会)に端を発する。

敵対勢力や利敵行為の定義や規制品項目は、国家間のパワーバランスや国際情勢により随時変更するため、国の政策によって輸出管理の内容や罰則についての規定には差異がある。
国際輸出管理レジーム

大量破壊兵器の開発や製造を意図する国家やテロリストに対しては、必要な材料や技術の提供を妨害することが安全保障上一定の効果を有する。そのため、大量破壊兵器原料や関連技術の供給能力を持つ国々が不拡散の目的を達するために協力する国際的な紳士協定が国際輸出管理レジーム(MECR)である[6]。詳細は「国際輸出管理レジーム」を参照
関係条約

核不拡散条約

生物兵器禁止条約

化学兵器禁止条約

安全保障貿易管理の基本概念
貨物・技術の分類

規制の対象となる貨物・技術は、各国がそれぞれリストを作成している。

例えば、アメリカにおいては輸出規制品目分類番号(ECCN)[7] やインドのSCOMETリスト[8]、日本においては経済産業省(METI)のリスト[9] などがある。

一部の品目は「軍事用に設計または改造されたもの」、一部の品目は「デュアルユース」(民生品として設計されているが軍事転用も可能なもの[10])とみなされ、一部の品目は輸出規制の対象外となる[11]

いくつかの法域では、分類では貨物、設備、材料、ソフトウェア、技術を考慮することになる。ソフトウェア、技術は、しばしば無形のものとみなされる。また、分類は、暗号化技術レーザー装置、拷問装置など、目的地での用途別になることもある。
輸出先

それぞれの輸出国は、国際関係により他国とは異なる関係を持つ。場合によっては、他の国のグループと貿易協定(英語版)や取り決めを結んでいる国もあり、この協定は特定の物品にはライセンスが不要なことを意味する。例えば、EU内では、他の加盟国への民間製品の輸送にはライセンスは必要ないが[12]、規制された軍事製品には必要である[13]

どの輸出国でも、仕向国によっては、制裁を受けている国、ライセンスが必要な国、記録保持(OGELを使う等)が必要な国、制限がない国などがある。

物品の最終消費者、または「ブローカー」は一般的に公表され、同様の制限が国にも適用される

商品のエンドユーザーまたは一部の「ブローカー」が通常、公開され、国についても同様の制限が適用される。

一部の個人または事業体が記載されている場合があり、通常はライセンスなしでその国に商品を送ることができたとしても、その個人または事業体には追加の制限が適用される[14]
ライセンス(輸出許可)

輸出見込みの品目については、通常、「ライセンス不要(NLR)」や「ライセンス必要」などのように、輸出先ごとに異なる扱いになる[11]

ライセンスが必要な場合は、通常、エンドユーザーからの申告が必要となる。これは、EUU[15]、EUS[16]、または最終用途証明書である。これらの最終用途証明書には、通常、使用目的が記載され、例えば、ミサイルに使用しないことなど商品の用途を保証する[17]

その後、ライセンスは輸出者の管轄区域にある適切な政府部門から取得できる。
日本の安全保障貿易管理

日本の安全保障貿易管理については、経済産業省貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易管理課が所管する。
日本の安全保障貿易管理の法源

日本においては、国際輸出管理レジーム (MECR) や各種条約・国際会議等における国際的な取り決めに基づいて、外国為替及び外国貿易法(外為法)を根幹として国内における法体系を構築している[18]

外為法およびその下位法令の関係は以下のとおりである。

外為法第48条:貨物に関する輸出管理制度の根拠規定。

輸出貿易管理令(輸出令):貨物に関する安全保障貿易管理制度の詳細を規定する。貨物に関するリスト規制・キャッチオール規制等を定める。


外為法第25条:技術に関する輸出管理制度の根拠規定。

外国為替令(外為令、がいためれい):技術に関するリスト規制・キャッチオール規制等を定める。

その他、詳細な解釈が必要となる部分につき必要に応じて政省令が制定されているほか、実務の運用や提出すべき書面の様式等に関する通達も発出されている。
規制の対象と種類
貨物の輸出と技術の提供の意義
貨物の輸出


外為法上は「輸出」の明確な定義はないが、日本から船積みし外国へ実際に貨物が輸出される場合に規制対象となると扱われている
[18]刑事事件としての外為法違反罪の既遂時期も船積み時点とされており、船積みが完了していれば外国への陸揚げを果たさなくとも密輸出の既遂となる[19]

外為法第48条第1項の規制の客体である「輸出をしようとする者」は、自ら輸出行為をしようとする者に限られず、その「関与者」も含むとするのが判例である。ただし、実務的には、大量の輸出許可申請を迅速に処理する必要性から、輸出契約の名義人が許可申請をするべき者として扱われている[20]

技術の提供
技術に関しては貨物の場合と異なり提供方法の幅が広く、以下のような場合も規制対象となる[18]

研修生や留学生を受け入れ技術指導を行うこと

技術資料を持ち出すこと

商品のサンプルの海外送付に伴って技術資料を提供すること

リスト規制

リスト規制とは、兵器そのもの、および軍事転用可能なデュアルユース品につき、国際輸出管理レジームで合意された一定以上の性能・仕様を有する貨物・技術をリストアップし、該当する貨物を輸出し、または関連技術を提供しようとする場合に、経済産業大臣の許可を取得することを義務付ける規制である[21]。あくまで許可制であり、輸出禁止を意味するわけではない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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