宇宙食(うちゅうしょく)とは、宇宙において栄養素を摂取できるように料理、もしくは加工された食品である。
概要ISSの宇宙食(2003年撮影)
宇宙食は、主に宇宙船の中で宇宙飛行士が食べる食物をさす。有人宇宙船の内部は無重量状態であり、人間が生活するための空間も狭い。そのため、食事に必要な環境と設備に制約が生じる。これらの制約を回避し、宇宙飛行士が効率よく栄養素を摂取するための食品として、宇宙食が開発された。 宇宙食が満たすべき要素は大きく分けて次のとおりである。 このうち軽量性については、スペースシャトルでは燃料電池を用いており発電の際に副生成物として水が発生することから、この水を加温して調理に用いるのが最も効率的である。そのため加水調理に適しており保存性・栄養・食感の面でも優れたフリーズドライ食品は、多くの宇宙食に採用されている。フリーズドライなどの技術は民生技術としてインスタント食品に広く用いられるようになった。宇宙への輸送コストが、現状ではスペースシャトルでも1キログラムあたり約8,800ドル程度掛かることも、軽量性が重視される一因である。 臭気については、魚などは今も嫌忌される傾向にある。また安全性に関しては、宇宙船内で供給される湯はやけどの危険が生じないようにするため、スペースシャトルでは摂氏70度、国際宇宙ステーション(ISS)では摂氏80度止まりという事情があるため、インスタント食品でもこの温度の湯で美味しく調理できるものが求められる。 水分の多い料理は粘り気を持たせて飛び散らないようになっており、またスープやジュースはパックからストローで直接飲むようになっている。現在では宇宙船内で電気オーブンレンジが利用できるため、レトルト食品等はこれを使って温めることができる。しかし電子レンジは缶詰やアルミ包装のレトルト食品に使用できないほか、電磁波の各種機器への影響も懸念されるため、採用されていない[2]。 地上では宇宙関連の博物館で土産物になる程度の、市場規模が現時点であまり期待できない宇宙食にこれだけの研究開発が行われている背景には、宇宙ステーションでの長期滞在や火星への有人宇宙探査が現実味を帯びている中で、骨粗鬆症など宇宙空間で起こる深刻な健康上の問題に対応する必要性、またある意味単調な生活の中で食事が非常に重要な気分転換となることがある。このため味の面での改良や、デザート等の充実も図られている。 この他にも国際宇宙ステーション計画では様々な国の様々なクルーが生活することから、各国の料理に関連した宇宙食が開発されている。 初期の宇宙食は「喉に食べ物がつまるのではないか」との不安から、チューブに入ったものやトレイに充填されたペースト状のものが多く、離乳食に近いものでもあったため、宇宙飛行士からの評判も悪かった。その後、ヒトは無重量状態でも問題なく食べ物を飲み込め、消化できることがわかり、現在の宇宙食は種類も豊富になり、その種類は1000種ほどもある。
基準
ISS(国際宇宙ステーション)での基準
ISSで使用できる調理機器(加温器、注水・注湯器)を使用するのにも規格が必要。
ISS FOOD PLAN(ISS宇宙食供給の基準文書)
宇宙日本食認証基準[1]
宇宙食が満たすべき要素
長期保存が可能であること。地上から宇宙船へ頻繁に物資を運ぶことができない。従って、宇宙船の内部に食品を保存する必要がある。
できるだけ軽量であること。宇宙船に積載する貨物の重量は限られているため。
強い臭気を伴わないこと。船内は密閉されており、換気ができない。また脱臭装置の能力にも限界があるため。
飛散しない。宇宙船の内部には、宇宙での活動や生命維持に必要不可欠な機器が数多く設置されている。容易に砕けたり液体が飛び散るような食品は、それらの機器を破損させる恐れがある。また、後片付けに費やす時間と手間が増えて、他の活動を妨げる可能性もある。従って、食品が飛散しないよう加工する必要がある。
栄養価が優れていること。宇宙食のみを飲食することになるため、栄養のバランスに注意が払われる。また狭い船内でストレスを被らないよう、デザート等の娯楽要素も求められる。
温度変化や衝撃に耐えること。
特別な調理器具を必要としないこと。
宇宙食の歴史
流動食から普通の食事へ絞り出し可能なチューブに入ったソ連の初期の宇宙食(ペースト状ボルシチ)。1970年代にはフリーズドライ製法のボルシチに置き換えられたスカイラブ計画地上訓練中の宇宙食を使った食事風景(1973年)ロシアの宇宙食
ソビエト・ヴォストーク1号(1961年4月12日):人類初の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンは、地球を一周する間に、アルミニウムのチューブに入った牛肉と肝臓のペースト、同様の形式でデザートのチョコレートソースを食した[3]。