学校における働き方改革
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学校における働き方改革(がっこうにおけるはたらきかたかいかく)とは、問題が複雑化・多様化する現状と教師の長時間勤務が課題となる日本の学校における、新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のために、教師のこれまでの働き方を見直す働き方改革である[1][2][3][4]

2013年OECDによる国際教員指導環境調査(TALIS)で参加国34か国のうち日本は、教師の勤務時間が最長で、かつ授業時間が短く、学業以外の事務・会議・部活動などでの時間が長いことがわかった[5]2016年(平成28)の文部科学省調査により、教師の勤務実態が明らかとなり、改革に取り組むこととなった[6]。平成18年度に文部科学省が実施した教員の勤務実態に関する調査結果においても、教員の一月当たりの平均残業時間は平日・休日を合わせて約42時間となり、昭和41年度調査と比較すると約5倍に増大していた[1]。また処遇面でもOECDは2023年9月に日本の教員給与がOECD平均を下回ることを報告し、待遇面への戦略的投資によって教職の魅力を高めるべきだと指摘している[7]

第4次安倍内閣2018年(平成30年)に働き方改革関連法を成立させ、2019年(平成31年)4月1日施行、日本の労働慣行は大きな転換点を迎えた[8][9]。平成31年(2019年)1月、中央教育審議会が答申を取りまとめ[10]、文部科学省は、学校における働き方改革の取組を進め、各自治体でも教職員の勤務時間短縮と学校業務改革についての実施計画が策定されている。神奈川県では教員の働き方改革、岐阜県では教職員の働き方改革など、地域によって若干呼び方が異なる。経済産業省においても、効果的な教育活動のためBusiness Process Re-engineering(BPR)の手法でコンサルタントの活用を交えつつ学校現場の実態把握と改善推進を実施している[11][12]。2022年度文部科学省の教員勤務実態調査では、国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教員が、中学校で77.1%、小学校では64.5%で依然として長時間勤務が常態化しており、文部科学省は教員の処遇の改善や働き方改革を進めるとしている[13]。教員免許更新制度が廃止されるなど現職教員の負担軽減に国が努めるも、教員採用試験の受験者数が減少傾向にあり、年度内に増えた教員のニーズを満たせない状況も多い[14]。1971年に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)による「定額働かせ放題」の実態や、部活動の地域移行の遅滞が改革を阻むとの見解もある[15][16]。2023年12月文科省公表では精神疾患で病気休職した教職員数6,539人で過去最多になり、メンタルヘルス対策不足も指摘されている[17]。2024年、給特法上乗せ分を4%から10%に変更する改革案を中教審部会が提出している[18]。現場からは教職離れの抜本解決にならないとの声がある[19]
教員の長時間労働とその原因・背景

中教審教員養成部会は2019年11月、教員免許更新制の教員の負担軽減策を検討したが、教育新聞の読者投票では77%が更新制度の見直しを望んでいる[20]。多くの時間を費やし費用も自己負担であることで不満が募り、また現職に失効者がでる問題もある[21]。このほか、日常的には、対象教員が全員受講しなければならない悉皆研修も教員の多忙化に拍車をかける場合があり、研修回数を減らす、開催時期をアンケートで意見を聞く[22] などの努力をする取り組みをする市教育委員会もある[23]。また業務時間前の立哨指導については、退職した小学校長は業務時間外に行うほどの教育効果が得られたか自戒を込めて反省している[24]。現職教員からは就業時間前の7時半に校門が開き教員が早出勤を強いられる状況を「スタッフ出勤前に開いているレストラン」になぞらえている[25]。他方で、合理的運営を行っている小学校では校務システムを利用したスケジュール共有による職員朝会議の時間内開催や出欠確認後の体調不良者のみの健康観察の保健室集約、職員会議は年4回限定や99%の保護者メール周知と学校現場での働き方改革を学校単位で成し遂げた校長もいる。ただし、研究授業については良さも認めつつ、時間がかかりすぎることから方向性の改善を提案している[26]。保護者配布物のデジタル化[27]、職員会議ややらされ行事の廃止で残業時間を削減に成功した学校もある[28]

ところで教育多忙の要因は、平成26年11月の文部科学省調査では「国や教育委員会からの調査等への対応」を筆頭に、「研修会や教育研究のレポート作成」、「児童・生徒・保護者アンケートの実施・集計」、「保護者・地域からの要望・苦情等への対応」に多くの時間が費やされ、多忙感を増大させているとの結果となっている[29]。またその対策としては、財務省の見解では教員増ではなく、例えば精神科医や臨床心理士の資格を持つカウンセラー、社会福祉士などのソーシャルワーカー、外国語を教えることができる人材やICTの専門家、不登校児等を専門に扱うNPO・フリースクール、部活動指導ができるコーチ、事務作業の経験者などの学校の周りにいる専門家や専門機関、あるいはシルバー人材や元教員等の地域ボランティアなど、多様な協力者の参画を促すべきと示している[30]。東京都教育庁は学習指導や部活動指導などの学校教育活動を支援する者の情報を、東京都の公立学校に提供する人材バンク事業を行っている[31]

2015年電通の女性社員(24)が過労自殺したが、死亡前に月130時間を超える残業を行っていた。文部科学省「教員勤務実態調査」(2016年実施)の分析により、月120時間以上残業(週65時間以上勤務、持ち帰り残業も考慮)という、過労死ラインをはるかに超えて働く教員は小学校17.1%、中学校40.7%にも上るため、多くの教員が前述の女性社員に匹敵またはより長時間の就労に従事していると指摘されている[32]

このほか、学校現場では、いじめの重大事態や児童虐待相談対応件数が過去最多(2019年4月現在)、障害のある児童生徒、不登校児童生徒、外国人児童生徒等の増加といった複数の課題への対応が日々迫られている[33]

学校でのICT機器の活用は、「アクティブ・ラーニング」や「個別最適化された教材」という効率的な学習を子供に与えると共に教員の業務の効率化にもつながる。大阪市では校務支援システム」で年間約170時間の業務時間を削減できた。評価が困難なアクティブラーニングやグループ学習では、児童や生徒の発言を“可視化”するためのソリューションとしての協働学習支援サービスを活用し、教員の指導や評価を援助する仕組みも始まっている。学習用タブレットの学習ログ、学力テストの結果、児童や生徒から取ったアンケート結果などを統合的に分析し、児童や生徒に個別最適化した指導方法の策定、教員、児童や生徒、保護者に対するフィードバックも可能な「未来型教育 京都モデル実証事業」が京都市と京都大学共同で行われている。新型コロナウイルスによる臨時休校といった事態に対処するため、国、教科書の出版社、端末メーカーやソフトウェアベンダーなどが小中学校へのICT導入が推進されている[34]

学校における働き方改革も関係し長期休業中の世話、病気の時の費用負担、子供のアレルギー問題への対応などから、学校内のうさぎ・ニワトリなどの飼育動物が減少しているという余波も起こっている[35]

教育新聞調査では、公立学校教員の96.6%が少人数学級の実現を求めていた。教員の多忙の問題の抜本的な解決に向けた基本的な対応として、学級規模の見直しが迅速に進めることが求められているとの意見がある[36]
人材不足(労働者人口減少の影響を含む)、採用試験競争率の低下


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