この項目では、植物における気孔について説明しています。その他の用法については「気孔 (材料工学)」をご覧ください。
トマトの葉の気孔。走査型電子顕微鏡により撮影
植物における気孔(きこう、Stoma、pl Stomata)とは、葉の表皮に存在する小さな穴(開口部)のこと。2つの細胞(孔辺細胞)が唇型に向かい合った構造になっており、2つの孔辺細胞の形が変化することによって、孔の大きさが調節される。主に光合成、呼吸および蒸散のために、外部と気体の交換を行う目的で使用される。
概要蛍光用共焦点顕微鏡により撮影されたシロイヌナズナの気孔。(赤)葉緑体の自家蛍光、(緑)GFPの蛍光(細胞質)
光合成の基質の一つである二酸化炭素は、空気中から主に気孔を通じて供給される。さらに、葉の内部(葉肉)で行われた光合成により生じた酸素も気孔より排出されるほか、蒸散による空気中への水蒸気の放出も同様に、主に気孔を通じて行われる。気孔の開閉を調節する要素としては、光や水ポテンシャルなどが知られている。例えば、植物は水不足に晒されたとき、気孔を閉じることで蒸散を抑え、体内の水分減少を遅らせることが知られている。一方で、気孔は内部組織へと通じているために、病原体の有力な感染経路となっている可能性も考えられている。また、多くの植物において、孔辺細胞は他の表皮細胞にはほとんど見られない葉緑体を持っていることも特徴の一つであるが、この葉緑体の機能については議論がなされているところである[1][2]。
気孔は、苔類を除く全ての陸上植物の、胞子体世代に存在する。気孔の分布と数(密度)は種によって異なるだけでなく、環境の影響を受けるため一概に述べることはできない。一般的な傾向として、双子葉植物の木本では葉の裏側にのみ分布、草本では通常、葉の表側よりも裏側に多く見られる。単子葉植物では、表側に多いもの、裏側に多いもの、表裏の気孔の数がほぼ同じものなど多様であるが、環境の影響による変動が大きい[3][4]。水面に浮かぶ葉(葉状体)を持つ植物(ウキクサなど)においては、表側の表皮にのみ気孔が見られ、水草の水中葉においては気孔は全く見られない。
なお、英語表記で気孔は stoma であるが、これは、古代ギリシャ語で「口」を意味する στ?μα
(stoma)が語源となっている。光合成の基質である二酸化炭素(CO2)の大気中濃度は、2008年3月現在、約384ppmである。多くの植物は、日中に気孔を開いており、夜間には閉鎖するといった、日周性を持つことが知られている。これは、光のあたる日中に、光合成に必要な二酸化炭素を多く取り込むためであると考えられるが、一方で、気孔が開かれることにより葉からの蒸散量は増加することになる。
なお2013年には気孔の開閉をコントロールするPATROL1という遺伝子が発見されている。これを活性化することで人為的に気孔を開き二酸化炭素の吸収を促進することに成功している。[5]
C3植物二酸化炭素のリブロース-1,5-ビスリン酸(RuBP)への固定は、リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(ルビスコ)と呼ばれる酵素によって行われる(カルビン - ベンソン回路)。この炭素固定は、空気に直接晒された葉肉細胞(気孔の内側)で主に行われると考えられている。このことは、二酸化炭素の取り込みと葉の水分量のトレードオフの関係を促進する原因となる。なぜなら、比較的分子活性の低いルビスコは、炭素固定を効率良く行うのに高い二酸化炭素濃度を必要とするため、必然的に気孔の開度を高くしなければならず、その分蒸散量も増すからである。このように、カルビン-ベンソン回路のみで炭素固定を行う植物は、C3植物と呼ばれる。(ルビスコ項も参照されたい)
C4植物カルビン-ベンソン回路に加え、二酸化炭素濃縮のためのC4経路を持つ植物はC4植物と呼ばれる。C4植物は、二酸化炭素との親和性が高いホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)により、効率よく二酸化炭素を取り込むことができる。C4経路により取り込まれた二酸化炭素は、その後、カルビン-ベンソン回路に取り込まれる。C4植物においては、カルビン-ベンソン回路の酵素は主に維管束鞘細胞
植物は、水不足に晒されて水ポテンシャルが低下すると、体内の水分を維持するため、気孔を閉じて蒸散量を制限することが知られている。