婚配機密
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婚配機密が執行されている戴冠礼儀中に撮影された写真。新郎新婦は冠を頭上に掲げられ、ミトラをかぶりフェロンを着用した司祭が、新郎新婦のつながれた手にエピタラヒリを乗せようとしている場面。(プラハチェコ共和国アレクサンドル3世(当時ロシア皇太子)とマリア・フョードロヴナの婚配機密中、戴冠礼儀の中でアナロイの周りを回る皇太子・皇太子妃と司祭を描いた絵画。かつての皇族のみならず、現代の一般の新郎新婦も同様に行う。

婚配機密(こんぱいきみつ、ギリシア語: Γ?μο?[1], ロシア語: Брак (венчание), ルーマニア語: Cununie, 英語: Marriage)とは、婚姻結婚)、および子を生み養育する事を成聖する恩寵が与えられるように祈願する、正教会における機密の一つ[2]

儀礼・結婚式としては、聘定式(へいていしき)と呼ばれる結婚指輪の交換を中心とする奉神礼と、新郎新婦が戴冠を行う戴冠礼儀(たいかんれいぎ)と呼ばれる奉神礼で構成される[3]結婚式としての式典については婚配式(こんぱいしき)とも呼ばれる。

正教徒のみが与ることが出来るため、結婚を機会に洗礼もしくは帰正を経て正教徒になる者もいる[4]。婚配機密に正教徒のみが与るのは、正教において結婚と夫婦は、福音によって一体となって生き、ハリストス(キリスト)における永遠の結合となるものとして理解されること[5]、婚配において新しい家庭が正教会という共同体に迎え入れられる意義があることなどが理由として挙げられる[6]
意義グルジア正教会での婚配機密(ムツヘタグルジア

婚配機密は、婚姻、および子を生み養育する事を成聖する恩寵が与えられるように祈願する正教会機密である[2]

洗礼機密傅膏機密聖体機密は全ての人々のために設けられたものであり、痛悔機密聖傅機密は霊・体の病の癒しのために全ての正教徒のために設けられたものである。しかしながらこれらとは異なり、婚配機密・神品機密は、全ての人にとって必要なものでもなければ、遵守すべきものでもない(修道士は結婚しないし、神品とならない男性一般信徒と女性信徒は、神品機密には与らない)。しかし全教会の存続と繁栄に欠かせないものである[7]

正教において、「キリスト教では婚姻は忌避されるが、『肉欲と言う病への寛大さ』によってのみ『許される』」といった通俗的誤解は否定される。4世紀パタラの聖メトディオスは、創世記1章28節に「生めよ、増えよ」とあることを引いて、造物主の指示に背いてはならないとし、さらに婚姻および男女の性関係の結果としての出産に神学的根拠を与え、「人が父母を離れ、同時に突然すべてを忘れて愛の抱擁により妻と結ばれ、自ら子の父となるべく、造物主に自らの肋骨を預けて造物の一翼を担うという行為はまったく正しいのである。」「男性が女性の器官に種を植えると、その種が神の創造力の働きを受ける。」と述べた。19世紀ロシア正教会の妻帯司祭、アレクサンドル・イェリチャニノフは、「婚姻とは、完全な人の変容、人格の広がり、新たな視点、新たな人生観、新たな世界への生まれ変わりをもたらすある種の『機密』」だと述べている[8]
神立の所以

婚配機密は正教会における他の機密と同様、神が立てたものとされる[7]

創世記1:27 - 28に「神乃己の像に從ひて人を造り、神の像に從ひて之を造れり、之を男女に造れり。神彼等を祝して曰へり、生めよ、殖えよ、地に充てよ、之を治めよ、又海の魚と獸と、天空の鳥と、家畜と、全地と、地に葡ふ所の諸の昆蟲とを宰れ。」、創世記2:23 - 24に「アダム曰へり。是れ乃我が骨の骨、我が肉の肉なり、此れは女と名づけられん、男より取られしを以てなり。是の故に人は其父母を離れ、其妻に着きて、二の者一體と爲らん。」とあるが、これらの記述(男女の創造、出産の祝福、一体となる男女の関係の祝福)は、男女の婚配が神の制定によるものであり、男女の婚配が人が神に創造された時に由来するものであるとされる。これらの男女の祝福に係る文言は、人の陥罪以前に起きていることであり、結婚が罪の結果行われるものではないことを示しているとされる[7][9]

ノイ(ノア)とその家族が救い出された洪水の後、人類は罪の結果に服する状態にあったが、それでも創世の時のように、神はノイの家族と子孫繁栄を祝福している(創世記9:1)[7]

モイセイ(モーセ)に与えられた律法においても、婚配の結合を守る条項が設けられている(レビ記20:10、申命記7:14、22:22、28:11)[7]

男女の愛を歌う雅歌は、聖師父達によって比喩的・神秘的に解釈され続けてきたが、文字通りの意味も失ってはいない[8]


新約においては、イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)が創世記を引用し、夫婦が一体となることに言及している(マトフェイ福音(マタイ福音)19:4 - 6)。またガリラヤのカナにおける婚宴で、水を葡萄酒に変える奇蹟を起こしたと書かれている(イオアン福音(ヨハネ福音)2:1以下)[7]

神が婚配を定めた理由として正教会では以下が挙げられる[7]

人類を増殖保護するため(神の教会のため子を生み養育することも含まれる)(創世記1:27 - 28)

互いに助け合うため(創世記2:18)

人の陥罪の後には、以下の理由が付け加わった。

情欲を節制するため(コリンフ(コリント)前書7:1 - 2、7:8 - 9)

以上のように、婚配は自ら聖であり潔いものであるが、陥罪の影響により情欲に溺れた人によってその意義が損なわれたことにより、イイスス・ハリストスは婚配を聖にし高尚にし堅くするため、教会に婚配機密を定めたとされる[7]
儀礼の外形とその意義

婚配機密は、儀礼としては聘定式(へいていしき)と呼ばれる結婚指輪の交換を中心とする奉神礼と、新郎新婦が戴冠を行う戴冠礼儀(たいかんれいぎ)と呼ばれる奉神礼で構成される[3]

古くは聘定式と戴冠礼儀は日にちを分けて行う別々の式典であったが、現代では同日に連続して合わせて行われるのが一般的である[10]

なお正教会の婚配機密には、西方教会で一般的な「○○よ(中略)貴方は生涯□□を愛することを誓いますか」といった「誓い」に関する質疑(結婚を新郎新婦の契約と看做す傾向の強いラテン式の見方の反映)は無い。正教会の婚配機密においては、二人の同意は機密の真の中心ではなく、戴冠の意味は、教会におけるハリストス(キリスト)の愛の機密の内に、二人が結ばれることにある[11]
聘定式と結婚指輪
意義

聘定式(へいていしき)は互いに結婚を誓い合う新郎新婦による結婚の契約の儀式である。聖堂の後部(啓蒙所)で行われる[10]

正教会において、婚約に始まる結婚生活の最終目標は、失われた神との交わりの回復、真の完全への生活改善である。しかし愛による人間性の回復は、神の約束に対する深い信頼なしに不可能である。神への深い信頼は聘定式のテーマの一つである。婚約・結婚は単なる新郎新婦間の法的合意ではなく、神を含む契約である[10]

これらのことは結婚指輪を象徴としても明らかにされる[10]
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