女子柔道強化選手への暴力問題
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女子柔道強化選手への暴力問題(じょしじゅうどうきょうかせんしゅへのぼうりょくもんだい)は、2013年に発覚した女子柔道の国際試合強化選手への指導陣による慢性的な暴力行為パワーハラスメントの問題である。

日本の柔道界の体質問題や、更には助成金の不正受給にまで拡大し全日本柔道連盟の首脳陣の総退陣にまで至った。
概要
問題の発生とその経緯

2012年9月下旬に、ある選手が合宿中に監督の園田隆二に暴力を振るわれたことを全日本柔道連盟(以下、全柔連と記す)に訴えた[1]。全柔連が園田と当該選手に事情聴取した結果、事実と判明した。この際に園田は「二度と暴力行為はしない」と約束したという[2]

しかし、10月下旬にブラジルのサルヴァドールで開催された世界団体の際に、園田はこの選手に対して「余計なことを言いふらしているらしいな」と厳しく責めたてたともいう[3]。このような状況の中、11月5日に全柔連は園田の2016年リオデジャネイロオリンピックまでの監督続投を決定した。11月10日に園田は全柔連に始末書を提出して厳重注意を受けると、11月28日には当該選手に謝罪した[4]。しかし、被害選手に高圧的な態度を取った園田に怒りを増幅させたロンドンオリンピック代表を含む女子の国際試合強化選手15名(引退した選手を含む)は、暴力の実態を把握しながら園田の続投を決定した全柔連には自浄能力がないと判断して、11月11日に園田らによる暴力やパワハラを訴える告発文書を作成すると、12月4日に日本オリンピック委員会(以下、JOCと記す)に提出した[5]。さらに、12月25日には人事の見直しや、問題が解決されるまでの合宿の凍結、第三者による調査を求めるメールをJOC女性スポーツ専門部会に送付した[6][7]

2013年1月にJOCは告発者数名との面談を試みると、「怖かった」、「(園田監督の)顔は笑っていたんですが不安だった」との話を聞きだした[8][9]。また、JOCからこの訴えを知らされた全柔連も再調査を試みた結果、2010年8月から2012年2月までの期間に暴力行為を5件確認することになった[10]

暴力の内容としては、竹刀で背中や尻を叩いたり、頭部にゲンコツ、顔面に平手打ちを食らわせたという。さらに、髪の毛を鷲づかみにしながら「お前なんか柔道やってなかったら、ただのブタだ」、「死ね」などといった暴言も合わせて浴びせていたという[11]。さらに、5件の暴力は1選手に対するものであり、実際は他の選手たちにもっと多くの暴力が振るわれていた可能性も指摘されている[12]。さらに、怪我を抱えたオリンピック代表候補選手2名に対してそれを考慮することなく2011年11月の講道館杯に、「出ないなら代表に選ばない。負けてでも出ろ。」と出場を強要した。1人は足をひきずりながら出場するも、途中で敗れてケガを悪化させた。もう1人は世界ランキング1位ということもあって、敢えて治療を優先して出場を断ると、翌月のグランドスラム・東京の代表メンバーから外されただけでなく、年越し強化合宿のメンバーからも除外されるという制裁を受けることになった[13][14]

これを受けて1月19日に全柔連の倫理推進部会は、暴力行為に関わった園田と男性のコーチ2名及び、連帯責任としてコーチ4名の計6名の女子強化スタッフに文書による戒告処分を科した。また、この間の経緯を強化合宿中の選手に説明することにもなった[15][16]。1月20日になると、告発選手側は園田らが軽い処分で終わったことに納得できず、弁護士の辻口信良に相談を持ちかけた。その数日後に辻口は東京で告発選手15名のうち12名と直接対面して、代理人を引き受けることにしたという[17]。1月25日に全柔連は事実経過や改善点をJOCに説明した[18]。だが、1月27日には9選手が改めて被害を訴えにJOCに直接赴いた[19]
問題の発覚と園田の監督辞任

1月29日になってこの問題が報道されて公になると、1月30日には全柔連専務理事の小野沢弘史が会見を開いて、体罰問題の経緯と園田を始めとしたコーチ陣への処分を公表して、園田監督やコーチを辞めさせる意向はないと述べた[20]。また、全柔連会長の上村春樹も同様の見解を示した[21]。同日には園田の勤務先である警視庁がこの問題で本人に事情を聞くと、場合によっては厳正な処分もありえるとの見解を示した[22]

しかし、1月31日になると記者会見に出席した園田は「これ以上強化に携わっていくことは難しい」と辞任を表明して、謝罪することになった。また、暴力に関しても、「選手に手を上げることを必ずしも暴力とは感じていなかった」との認識を示す一方で、「全日本の合宿で自分以外のコーチが暴力を振るっているのを見たことがなく、自分が特殊だった」とも述べた[23]

2月1日には全柔連に提出した進退伺いが受理されて正式に監督を辞任することになった。強化委員長の斉藤仁は暴力行為を知りながら園田の続投を決定したことに反省の言葉を述べた[24]

後任として、当面は日体大の重量級担当コーチ・田辺勝が監督代行を務めることに決まった[25]。さらに園田の辞任を受けて、上村全柔連会長はJOC選手強化本部長を辞任した[26]

また、国際柔道連盟(以下、IJFと記す)は柔道の創始者である嘉納治五郎の柔道精神と理念を引き合いに出して、今回の一件を非難する声明を出した[27][28]
「緊急調査対策プロジェクト」の立ち上げと告発選手による声明文公表

一方JOCは、「緊急調査対策プロジェクト」を立ち上げて被害を訴えた選手への聞き取りを全柔連の立会いなしで実施することに決めた[29][30][31]

2月4日には選手側の代理人を務める弁護士の辻口信良と岡村英祐が記者会見を開いて、「全日本女子ナショナルチーム 国際試合強化選手15名」名義の声明文を代読した[32]

全文は以下のとおり[33]。皆さまへ

このたび、私たち15名の行動により、皆さまをお騒がせする結果となっておりますこと、また2020年東京オリンピック招致活動に少なからず影響を生じさせておりますこと、まずもって、おわび申し上げます。私たちが、JOC(日本オリンピック委員会)に対して園田前監督の暴力行為やハラスメントの被害実態を告発した経過について、述べさせていただきます。

私たちは、これまで全日本柔道連盟(全柔連)の一員として、所属先の学校や企業における指導のもと、全柔連をはじめ柔道関係者の皆さまの支援を頂きながら、柔道を続けてきました。このような立場にありながら、私たちが全柔連やJOCに対して訴え出ざるを得なくなったのは、憧れであったナショナルチームの状況への失望と怒りが原因でした。

指導の名の下に、または指導とは程遠い形で、園田前監督によって行われた暴力行為やハラスメントにより、私たちは心身ともに深く傷つきました。


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