女のみづうみ
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この項目では、川端康成の小説について説明しています。原義については「」を、その他の用法については「みずうみ (曖昧さ回避)」をご覧ください。

みづうみ
訳題The Lake
作者川端康成
日本
言語日本語
ジャンル長編小説
発表形態雑誌連載
初出情報
初出『新潮1954年 1月号(第51巻第1号) - 12月号(第51巻第12号)(全12回)
刊本情報
出版元新潮社
出版年月日1955年4月15日
装幀徳岡神泉
題簽:町春草
総ページ数207
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『みづうみ』は、川端康成長編小説。川端の日本的鎮魂歌路線とは異質で、発表当初、好悪の分れる衝撃的な作品として受け取られ[1]、〈魔界〉のテーマが本格的に盛り込まれ始めた小説である[2][3][4]。気に入った美しい女を見かけると、その後を追ってしまう奇行癖のある男が、ある聖少女の美しい黒い目の中のみずうみを裸で泳ぎたいと願う物語。様々な女性への秘めた情念を、回顧、現実、妄想、幻想などの微妙な連想を織り交ぜた「意識の流れ」で描写し、「永遠の憧れの姿」に象徴化させている[1]現代仮名遣いでは『みずうみ』表記だが、原題のまま論じられることが多い[5]

1966年(昭和41年)に、本作を原案とした映画『女のみづうみ』が岡田茉莉子主演で制作された[6][7]
発表経過

1954年(昭和29年)、雑誌『新潮』1月号(第51巻第1号)から12月号(第51巻第12号)に連載された(全12回)[8][6]

単行本は、翌1955年(昭和30年)4月15日に新潮社より刊行された[9][6][5]。その際に大幅な加筆訂正がなされ、連載第11回の後半と第12回の全文が削除された[6]。この時に川端は当時の編集担当者へ未完作である旨を伝えたとされる[6]。削除された回の章は、新潮社より刊行の『川端康成全集第18巻 小説18』(1980年3月)の「解題」中に掲載されている[6]

翻訳版は月村麗子訳の英語(英題:“The Lake”)のほか、スペイン語(西題:El lago)、韓国語(韓題:湖水)、フランス語(仏題:Le lac)など世界各国で出版されている[10]
あらすじ

桃井銀平は或る女の魔性に惹かれて後をつけ、その女が銀平から逃げる間際に落としていったハンドバッグから金を盗んでしまい、いたたまれなくなり東京から信州へ逃げた。夏の終りの軽井沢トルコ風呂へやって来た銀平は、湯女マッサージを受けながら、高校教師だった頃に初めて後をつけた教え子・玉木久子のことや、母方の従姉・やよいへの少年時代の初恋を回顧する。

銀平の母親は湖近くの名家の出で美しかったが、銀平は父親ゆずりののような甲の皮が厚い醜い足だった。父がその湖で変死して以来、母の親類は銀平の一家を忌み嫌い、やよいも露骨に銀平を見下した。

玉木久子と銀平は、生徒と教師の間柄で密会し、そのことが原因で銀平は教職を追われ、久子は別の学校へ転校した。その後も2人は関係を続けて、久子の部屋に忍び込んだことが家人に見つかったこともあったが、結局2人は別れを決めた。

銀平に後をつけられハンドバッグを落とした水木宮子は、元は良家の娘だったが敗戦で家の財産がなくなり、金持の有田老人の愛人をして暮らしている。美貌の宮子はよく見知らぬ男たちにつけられた。落としたバッグの中には通帳とおろしたばかりの大金があったが、パトロンの有田や女中には金を引き出したことは内緒だったので警察には届けなかった。

宮子には大学に入学する弟・啓助がいて、そのための資金だった。啓助と同級の友人・水野には、15歳の恋人・町枝がいた。町枝は両親に水野との交際を反対されていたため、犬の散歩の時に土手で2人は会っていたが、ある日そこへ向う坂道で、町枝は不審な男(銀平)に後をつけられ、声をかけられた。

銀平は我を忘れて、犬を散歩させている可憐な色白の少女(町枝)を追跡していた。その少女は古里のやよいや、元教え子の玉木久子よりも美しかった。銀平は声をかけたが、少女は何も答えず相手にしなかった。少女のその美しい目の「黒いみずうみに裸で泳ぎたい」という奇妙な憧憬と絶望を銀平は覚えた。

恋人らしき学生(水野)と芝生の上で談笑する少女を呪わしく見つめながら、銀平は父親を殺した犯人を見つけて仇討ちを誓った頃のことを思い出す。少女が帰った後、学生にからんだ銀平は土手から突き飛ばされた。銀平は突っ伏しながら、やよいや玉木久子のことを回想する。

6月に堀で催された狩りに少女(町枝)が現われた。必ずそこへ来ると見込んでいた銀平は天女のような少女を見つめ、来世は自分が美しい足の若者に生まれ変って、2人で白のバレエを踊りましょうと、独り言を言った。銀平は帰りの坂道で土手を登るとき、戦時中に自分と関係した娼婦が産んだ捨て子の赤ん坊の幽霊が土手の土の中を這うのを見る。

銀平は、玉木久子が別れの時に、いつかどうしても先生に会いたくなったら、上野の地下道に先生がいても会いに行くと言った言葉を思い出し上野駅に向った。駅を出ると、ゴム長靴をはいた醜い女が、自分に目くばせしたと言ってついて来たので、一緒におでん屋で飲んだ。店を出ると女はしなだれかかり、銀平も自分に似合いの女だと調子を合わせた。

おそらく不恰好で醜いであろう女の長靴の中の足を見たいと銀平は思ったが、それが自分の醜い足を並んでいるところを想像すると嘔吐を催して、安宿へ導こうとする女の腕を振り解いて逃げた。女に小石をぶつけられ、情けない気持でアパートに戻った銀平は靴下を脱ぎ、くるぶしが薄赤くなっているのを見た。
登場人物
桃井銀平
34歳。元高校の国語教師。甲が厚くて黒ずみ、土踏まずに皺が多く、節立った長い指の、猿のような醜い足に劣等感を持つ。元
学徒兵。犬嫌い。美しい女の後を追跡する奇癖がある。裏日本の海辺の生まれ。子供の頃、両親と祖父母と、出戻りの叔母(父の姉)と住んでいた。母は名家の出だったが格の違う醜い父と結婚した。11歳の時に父が、母の古里の村ので頭に傷を負った溺死体で発見されるという自殺か他殺か判らない奇怪な死を遂げる。母は銀平が東京で苦学している頃に胸を患い死去。この世の果てまで後をつけるというのは、その女を殺してしまうしかないことだと考えている。
湯女
20歳前くらいの娘。軽井沢のトルコ風呂の湯女。ミス・トルコと呼ばれている。天女のようなきれいな声。新潟県出身。
玉木久子
銀平の元教え子。銀平がはじめて後をつけた女。家は戦後に建てた豪華な洋館。浅黒い肌。銀平に身をまかし、山の手の焼け跡となっている久子の元の屋敷の塀の中〈草葉のかげ〉で密会する。のちに〈草葉のかげ〉に建つ家は、結婚した久子の新居になる。
恩田信子
玉木久子の同級生で親友。久子と教師の銀平との関係を、校長と久子の父に告発し、秘密を漏らす。成績は良いが自我も強い。
久子の両親
娘と銀平との仲を知り、娘を転校させる。空襲で家が焼けたが、戦後すぐに立派な洋館を建てられた金持ち。父親が秘密の裏の仕事をしているらしい。銀平は、久子の部屋で密会しているのを見つかった時、ピストルで久子と親を殺し、自分も死ぬ妄想を抱く。
ストリート・ガール
街娼。銀平が久子の後をつけ、門前から逃げた後、盛り場で声をかけてきた女。自称・女子学生。
やよい
銀平の従姉(母の兄の娘)。銀平よりも2歳年上。12、3歳の頃の銀平の初恋。湖のほとりを2人でよく歩いた。銀平の母は実家の兄に、嫁ぎ先の生活の不満を訴えていた。やよいは、銀平の父は殺害されたと銀平に言う。やよいは海軍士官と結婚した後、未亡人となる。
水木宮子
25歳。美貌の女。見た目は歳より若い。銀平に後をつけられ、ハンドバッグで追い払い、それを落として逃げる。老人の愛人をしながら、屋敷町に居住。裕福な家庭で育ったが、敗戦で宮子の一家は財産を失い、初恋の人も戦死した。銀平にすれ違いざま、同じ〈魔界の住人〉と思われる。
有田音二
70歳間近の老人。会社社長。水木宮子のパトロン。自宅にも家政婦という名目の30代の美人の愛人・梅子がいる。梅子も宮子もお互い、それを承知している。有田が30代の時に、妻は嫉妬で自殺。有田はよく悪夢にうなされる。有田の秘書は、銀平の学生時代の友人で、有田の演説代作の仕事を銀平に廻している。有田は玉木久子の父親と知り合いで、久子の転向先の女学校の理事長


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