奉神礼
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現在のコンスタンディヌーポリ総主教座聖堂である聖ゲオルギオス大聖堂の内観。奉神礼時の光景。詠隊が歌っている。左側に至聖所イコノスタシスが写っている。神品による奉神礼の光景。イコノスタシスの向こう側の至聖所宝座手前で水色の祭服を着用し、宝冠を被って奉事に当たっているのが主教。左手前に大きく写っている濃い緑色の祭服を着用した人物と、至聖所の奥に小さく写っている人物が司祭。白地に金色の刺繍を施された祭服を着ている二人が輔祭である。正教会では祭日ごとに祭服の色を統一して用いるのが一般的であり、このように諸神品が別々の色の祭服を用いるケースはそれほど多くは無い。また、祭服をこのように完装するのは写真撮影などの特別な場合を除いて奉神礼の場面に限られている。

奉神礼(ほうしんれい、ギリシア語: λειτουργ?α[1], ロシア語: Богослуже?ние, 英語: Liturgy)は、正教会における奉事・祈りの総称。日本ハリストス正教会の訳語。カトリック教会における典礼に相当する。

公祈祷(時と場所を定めて行われる公的な祈祷)と私祈祷(日々の生活の場や私室等において行う祈祷や臨時祈祷等)のいずれも含む。公に行う狭義の奉神礼を指す事を特に示したい場合には「公祈祷」「公奉神礼」といった用語が用いられる。

聖体礼儀などの機密を含む礼儀の他にも、毎日の奉事である時課、さらに成聖式・各種祈願・モレーベンパニヒダ埋葬式などの機会に応じた祈祷などが含まれる。

より広義には、奉神礼には日々の生活までが含まれる。正教会では奉神礼(=リトゥルギア)の範囲をどこからどこまでというように明確に区分する事を避け、奉神礼を広義の奉神礼としての生活の雛形として捉えるべきである事を教えている。

本記事では祈り・儀礼の総称としての奉神礼について詳述する。
奉神礼の概念
基本概念

原語であるギリシャ語の"λειτουργ?α"(リトゥルギア[注釈 1])は「神の民の仕事」を表し、その原義通り、奉神礼は正教徒の公務であるとされる[1]。奉神礼は儀礼・儀式にとどまるものではなく、奉神礼における体験はクリスチャンの生活のあり方を示すものであり、日々の生活の雛形となるものであるとされる。従って、最も広義にとった場合は正教徒の生活全てが奉神礼であると言える。

正教会においては聖伝の一部として位置づけられ重視される[2]

西方教会の「懺悔」「告悔」に相当する痛悔機密もまた告解礼儀として奉神礼に数えられている事を考慮しても、奉神礼を単に「礼拝」「典礼」と同義に捉えるのはあまり精確ではないが、一応、以下のような相当関係はある。但し下の表における用語は教派毎に大小の概念の違いを含んでおり、対応する語句同士が一対一対応する訳では無い。

祈祷・儀礼用語の教派別対応表
教派正教会カトリック教会聖公会プロテスタント
祈祷・儀礼の総称奉神礼典礼礼拝礼拝
羅:サクラメント
希:ミスティリオン機密秘蹟聖奠礼典

言葉と祈祷構成に限定されない奉神礼聖堂内で十字を画く花嫁(グルジア正教会)。画像左上にはイイスス・ハリストス(イエス・キリスト)イコン、画像左下には捧げられた蝋燭がある。点燈も奉神礼の重要な要素。

[3]奉神礼では、聖書の言葉や説教に耳を傾けるといったことのみが行われる訳では無い。蝋燭を聖堂に奉げて燈された蝋燭の光を感じ、打たれる鐘の音を聞き、振り香炉を用いた炉儀による香を嗅ぎ、音楽的要素を盛り込んだ聖歌を聞きかつ歌い、イコンを見、奉事において十字を画き教衆至聖所内を祭服を着用して所作に従って動き、十字行などの行列を行い、聖体礼儀においてイイスス・ハリストス(イエス・キリストのギリシャ語読み)の尊体と尊血に聖変化したパン葡萄酒領聖するといった、幅広い身体的動作を伴う。正教会に継承された形無き神学・信条は、祈祷文内容のみならず、こうした形ある動作にも具体化されている。

このようにして奉神礼は、意識・無意識、生理的な面と理性・知性を総動員して、イイスス・ハリストスから弟子達に伝えられ教会に保存された生活形態を体験するものとなっている。この事は、イイスス・ハリストスが弟子達に伝授した生活形態が、頭で理解するものだけにとどまらないことを示しているとされる。
教理と奉神礼の関係

長司祭ゲオルギイ・フロロフスキイは「ハリストス教(キリスト教のギリシャ語転写)とは聖体礼儀の宗教である。また教会とは第一に奉神礼を行う集りである。奉神礼を第一とし、教えと要理を第二とする。」と述べている。しかしパーヴェル・フロレンスキイは、「真の正教教理学は奉神礼の教理上の考えを系統化したものでなければならない」との見解を示している。このように、正教会において奉神礼と教理とは密接な繋がりがあるものと捉えられている[4]

また、教理は奉神礼において正教徒の祈りの体験の一部となって実感されるものとなるとされる。聖イグナティイ・ブリャンチャニノフは「定期的に教会に通って、祈りと詠歌に真剣に耳を傾ける正教徒なら信仰(の分野)に必要なものを全て修得できる」と述べている。正教会の祈祷文は教理についての伝統的理解が豊富に含まれるものとなっており、同時に美を放っているとされる[4]

正教会は10世紀から12世紀にかけてビザンティンで確立した奉神礼をそのまま保全しようと務めており(但し保全の仕方を巡っては17世紀ロシア正教会古儀式派が分裂するといったケースもあった[5])、その事によって正教教理の普遍性と安定性が守られるとされる。新しく列聖された聖人についての祈りが追加される事があっても、それは既存の奉神礼体系の中に組み込まれ、全体の基本的構成には変更は加えられない[4]
用いられる言語

祈祷には一般に教会が所在する現地の言葉を用いる。歴史上、宣教に訪れた先に現地の書き言葉が無い場合には、現地の話し言葉を学んで正書法を作りつつ、聖書祈祷書とを翻訳してきた。正教会は、それほどまでに現地の言葉での祈祷にこだわっている。ギリシャ正教会スラヴ語地域の正教会など、宣教以後長い歴史のある教会では、日常会話に用いられる現代語とは若干の距離を生じている場合もある。「祈祷書 (正教会)」も参照
公祈祷としての奉神礼の特徴と構造の概略振り香炉を準備する三人の輔祭ステハリを着用し、オラリと呼ばれる帯を肩から垂らしている。

本項では公祈祷としての奉神礼の種類と構造について述べる。奉神礼の構造は複雑な上に、上述の通り祈祷文のみによって構成されるものではないため、構造を知るには正教会の各教会へ参祷する事は不可欠であるが、頻繁に教会に通う信徒にとっても理解が難しいものである[6]

以下の記述はあくまで概略であり、膨大な内容を持つ東方奉神礼の特徴の一部に過ぎない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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