奄美黒糖焼酎(あまみこくとうしょうちゅう)は、鹿児島県の奄美群島のみで造られている、米麹とサトウキビの絞り汁から作った純黒砂糖を原料に醸造し、単式蒸留した本格焼酎。奄美大島酒造協同組合の地域団体商標である[1]。一般名詞は黒糖焼酎(こくとうしょうちゅう、こくとうじょうちゅう)である。
奄美黒糖焼酎は、サトウキビ栽培が盛んな奄美群島に20世紀から伝わるもろみ取り焼酎で、酒税法第3条の用語では「単式蒸留焼酎」(旧「しようちゆう乙類」)に属し、一般には「本格焼酎」または「焼酎乙類」と表記されている。多くは無色透明であるが、オーク(樫)の木樽に入れて熟成させることにより淡い琥珀色を呈し、洋酒のような樽香を持つものもある。2020年時点で、奄美群島内の5つの島にある23場の蔵元が16社の納税企業名(共同瓶詰め専門の2社を含む)で製造、出荷を行っている。この他に、鹿児島県鹿屋市[2]、京都府京都市[3]などの酒販業者や宮内庁からの委託で奄美群島内で作られ、独自銘柄で販売されている黒糖焼酎がある。
サトウキビの絞り汁から作る純黒砂糖と米麹が主原料である。通常1回だけ行われる蒸留の際に黒砂糖と米麹由来の芳醇な風味は加わるが、糖分自体は焼酎へ移行せず、蒸留後に糖分を加えることはない[4]ので、焼酎に含まれる糖分はゼロである。糖分以外の他の微量成分による甘味が感じられる銘柄もある。黒砂糖は奄美群島の奄美大島、徳之島、加計呂麻島、喜界島産の他、沖縄県産のものが使われる場合が多い。沖縄県産の方が「離島振興法」に基づく産業振興補助金や格差補給金があり、価格が安いためであるが、風土や製法の違いで風味に違いがある。
酒税法に関連した国税庁の通達によって、含糖物質(砂糖、蜂蜜、メープルシロップなど)を使って「焼酎」が作れるのは熊本国税局大島税務署が所管する奄美群島に限られる。愛知県に米麹と黒砂糖を使って蒸留酒を製造していた例[5]やタイに米麹と黒糖で作る蒸留酒の例もあるが、酒税法上はいずれもスピリッツと扱われ、アルコール度数37度未満では、酒税が割高となる。
奄美群島内での消費の他、日本全国に流通している。平成25醸造年度(2013年7月から1年間)の鹿児島県外への出荷比率は約6割に達しているが、黒糖焼酎の知名度はまだ芋焼酎、麦焼酎、米焼酎や泡盛よりも低く、全国で消費される焼酎の中に占める割合は2%程度にとどまっており、県外の飲食店では提供している例が少数派であるのが実情である。県外の地域別では、以前は奄美出身者が多い大阪府や兵庫県などの近畿地方への出荷が最も多かったが、1990年代以降は東京都などの関東地方向けが最も多くなった。ただし関東、関西のスーパーマーケットなどで買える銘柄は大手数社のものに限られており、それ以外は専門の酒販店に行くか通信販売の利用でないと希望の銘柄が買えない場合が多い。百貨店の鹿児島物産展などの催事で売られる場合もある。 一般名詞は黒糖焼酎(こくとうしょうちゅう、こくとうじょうちゅう)。奄美方言で酒は「せー」(奄美大島、喜界島)、「せぅー」(宇検村)、「さき」(沖永良部島)、「さい」(与論島)などと呼ばれ、何も修飾語をつけなくても黒糖焼酎を指すが、区別するために黒砂糖ぜー(くるざたぜー)、黒砂糖ぜーくゎ(くるざたぜーくゎ)のような言い方もある。 喜界島酒造は自社の製品に「くろちゅう」という略称を併記しており、過去には「黒糖酎」と記載したこともあるが、いずれも他社製品に浸透した呼び方ではない。 黒糖酒(こくとうしゅ)という呼び方も過去にあったが、現在は徳之島、沖縄本島、南大東島や、高知県などの、米麹を使わないラム酒(スピリッツ)に分類される蒸留酒に対して用いられることが多い。また黒砂糖酒(くろざとうしゅ)、黒砂糖焼酎(くろざとうじょうちゅう)という言い方も1980年代まで一部の商品に表示されていた。 洗った米(多くはタイ産の粳米)を蒸して麹菌を散布し、2日間弱棚で熟成させた米麹に水を加えて5-7日間一次仕込みした後、サトウキビの黒砂糖を水に溶かした糖液と酵母を加えて10日から14日かけて二次仕込みし、液に含まれるショ糖などの糖を酵母の作用でアルコール発酵(醸造)させ、アルコール度数14度から16度程度のもろみとする。場合によっては米麹の熟成時間を半分にした半麹を使ったり、さらに糖液を加えて三次仕込みをする例もある。仕込みに使う容器も甕、琺瑯タンク、FRPタンクなどの違いがある。発酵したもろみを単式蒸留機で蒸留し、検査、度数調整、貯蔵の後、場合により木樽やタンクで熟成させてから、必要に応じて度数調整して瓶詰めする[6]。 なお、仕込みの最盛期は1月から5月で、伝統的には夏場(7-9月)は温度が上がりすぎて酵母の働きが悪くなり、アルコール発酵がうまくいかないため、仕込みはされない。もろみが35℃を超えると発酵が止まり、特に果糖が残存するなどの障害がでるが、現在は高温に強い酵母も分離培養されている[7]。一次仕込みからもろみ完成までの全てを甕ひとつの中で行う仕込み方法[8]はどんぶり仕込みなどと呼ばれるが、現在は別の容器で一次仕込み、二次仕込みを行う例が多い。 米、甘藷などと比べて、黒砂糖は原料単価が高いため、一般に原料コストが割高である[9]。一般に米と黒糖の重量比は1.4倍から2倍程度までの範囲で蔵元、銘柄毎に設定が行われている。壱乃醸朝日は例外的に4倍近く使っている。米の比率を上げたり、半麹を使うと芳醇な香りが強まり、黒糖の比率を上げるとすっきりした味わいになる傾向がある。また、米や黒糖の違いによっても風味に差が出る。 蒸留はほとんどが90℃程度に熱して行う常圧蒸留であるが、奄美大島酒造
名称
製法
原酒はアルコール度数が40度以上あり、特に初垂れ(はなたれ)と呼ばれる最初の部分では60度以上あるが、酒税法における「焼酎」とするには、割り水を加えて45度以下に薄める必要がある。従来は30度に調整したものが一般的であったが、現在は25度がもっとも売れている。より原酒に近い44度、43度、40度のものや、近年は飲みやすくする目的で20度、15度、12度に薄めたものなどもある。
蒸留後の焼酎の原酒は、味や香りが荒々しく、貯蔵することによって酒質を安定させる必要がある[12]。また、焼酎や泡盛は、熟成することによって米由来のフェルラ酸からバニリンが生成され、その香りが加わる[13]。このため、ほとんどの製品が1年以上の熟成を経てから出荷され、コスト、売価との見合いで2-3年熟成の製品が多い。限定品として販売された古酒では30年熟成の「魔峡の雫」、25年熟成の「加那伝説悠々」、20年熟成の「住の江」、「秋利神」、18年熟成の「龍郷」などがあり、30年熟成酒をブレンドした「昇龍眠龍」、「加那伝説源」、長期間仕次ぎ手法で原酒を貯蔵した「黒潮」などもある。熟成に用いる容器も琺瑯タンク、オークの酒樽(俗に樫樽と呼ばれているがコナラ属の木を使う)、シェリー酒に使った酒樽、甕などの違いがある。樽で熟成させた銘柄は、内側を焼いた樽の色が徐々に移り、淡い琥珀色を呈し、洋酒のような風味を持つが、代表的な銘柄に「加那」、まんこい、天孫岳、高倉、里の曙GOLD、紅さんご、甚松、キャプテンキッド、ブラック奄美、奄美エイジング、白ゆり、まぁさんなどがある。蔵元によってはタンクに取り付けた音響装置によって微妙な振動を与えて熟成を促している例[14]もある。昔ながらの甕熟成(甕寝かせ)の銘柄には、海亀の独り言、朝日甕壺貯蔵、奄美夢幻、宝もんなどがある。
奄美群島の内、奄美大島は森林が多く軟水もあるが、その他の島はカルシウムを多く含む硬水となっている。仕込みに使う水の水質も製品の持ち味に関係するが、割り水はイオン交換樹脂などでカルシウムを除去処理した軟水で行われるのが一般的である。 現在、主に二段仕込みが行われているが、芳醇な甘味が出せる三段仕込みを行う例もある。また、ごく一部に黒糖を糖液にせず、ブロックのまま投入する銘柄もある。
仕込み方法
二段仕込み
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