失語症
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失語症
概要
診療科神経学, 神経心理学, 言語聴覚療法
分類および外部参照情報
ICD-10F80.0-F80.2, R47.0
ICD-9-CM315.31, ⇒784.3
DiseasesDB4024
MedlinePlus003204
eMedicineneuro/437
MeSHD001037
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失語症
概要
診療科神経学, 神経心理学, 言語聴覚療法
分類および外部参照情報
ICD-10F80.1, F80.2, R47.0
ICD-9-CM438.12, ⇒784.5
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失語症(しつごしょう、aphasia)とは、高次脳機能障害の1種であり、脳病変によって生じる後天的な言語機能[注釈 1]の障害である。「聞く」「話す」「読む」「書く」全てのモダリティが障害される。構音器官の麻痺などによる運動機能障害、先天的な構音器官の奇形などによる器質性障害など、所謂構音障害とは異なる。また、声の出なくなる失声症などとも異なる。失語症や、その他言語障害に対処する専門職業に言語聴覚士(speech-Language-Hearing therapist、略してST)がある。
定義

失語症とは、いったん獲得された言語機能が中枢神経系の損傷によって言語の理解と表出に障害をきたした状態である。失語症の定義には、(1)脳の言語領域の病変によって生じる、(2)後天的障害である、(3)言語機能の障害である、(4)言語の表出と理解に関わる全ての言語モダリティが障害される、という要素が含まれる[1]。失語症患者は言語機能に支障がでるため痴呆(認知症)と勘違いされやすいが、言語機能が失われただけで、人格や判断能力などは発症する前の状態と同じである。
言語と脳「脳機能局在論#言語野」も参照「 言語#言語に関する脳の領域」も参照

言語機能は、大脳の言語領域に支えられている[1]。その領域の損傷が失語症の発生、その症候に強く関係することが分かっている。また、言語野は大脳半球の左右どちらかに偏在すること、統計的に利き手との相関性があることが知られている。総合的には90%以上の人で言語野は左大脳半球にあるとされる。これについては脳機能局在論に詳しい。
失語症の鑑別

失語症と区別が必要な症候、疾患には統合失調症うつ病意識障害認知症構音障害などによるコミュニケーション障害があげられる。これらの区別のためにいくつかの検査を行う場合が多い。
見当識は保たれているか?
失語症の患者は自分が診察を受けているということは理解している。意識障害や認知症の患者はこれを理解していない場合が多い。
物品の使用はできるか?
失語症の患者は目の前にあるものの物品が何かと言えなくとも、それらがどう使用されるかは理解している。意識障害や認知症の患者では物品の名前が言えないだけではなく、使用方法も示せない場合が多い。
書字ができるか?
失語症で内的言語が障害されれば書字を正確に行うこともできないが構音障害では内的言語は障害されない。また失語症では錯誤語が認められ、その誤り方に一貫性がないことが特徴となる。
原因疾患

発症原因は脳血管障害による言語野の損傷が大多数を占めるが、被殻視床など言語野以外の損傷によるもの、重度の脳炎、大脳の変性疾患アルツハイマー病ピック病など)など様々な原疾患が報告されている。
症状

失語症においては、重症度の差はあれ、発話(話す)、聴覚的理解(聞く)、読解と音読(読む)、書字と書き取り(書く)の全ての言語モダリティに障害をきたす[2]。しかし、その症状の現れ方は多様である[2]
発話の障害

麻痺による運動障害や欠損による器質的障害がないにもかかわらず、語や文が話せない、誤った言葉を話す、努力的に話すなどの症状が見られる[2]
聴覚的理解の障害

聴覚的理解とは、音声で提示された言葉の意味を理解することである[3]。失語症では、聴力の低下を認めず、言葉の意味を理解することができなくなる。聞いた語音がその言語の中でどの音韻であるかを同定することができない(語音認知の障害)、単語の意味理解障害、統語理解障害、文の理解障害などが生じる[4]
復唱の障害

復唱とは、聞いた音声をそのまま模倣してくりかえして発話することである[5]
読字の障害

書字の障害

数・計算の障害

失語症の分類

失語症の分類は多くなされてきた。また、見方によっても分類は変わる。失語は一種類しかないと主張する立場から、100人失語症者がいれば100通りの失語があるとする考え方[要出典]もあるが、一般には標準失語症検査(SLTA)などの検査による機能評価、CTMRI画像診断などによる言語野の損傷の有無、その部位や損傷程度による鑑別が広く行われている。

失語症の分類を大別すると、症状と脳の解剖学的構造との関連を重視する立場と、心理学や言語学的側面に立脚する立場がある[6]。Wernicke-Lichitheimの失語図式は言語的なシステムの構造を表現し、病変部位の違いによって失語の型が異なるという考え方である。その後、ボストン学派による古典分類が提唱された。失語症分類は、失語症者が示す症状を、その特徴の組み合わせに基づいて分類するもので、病因や病態生理などに基づく疾病分類とは異なる[7]。古典分類は有用である一方、その限界も指摘されている[7]
聴覚理解

聴覚のシグナル情報はそれが言語性、非言語性であれ蝸牛から脳幹視床の内側膝状体を経て側頭葉の上面のHeschl回(横側頭回)に伝わる。聞きとられた言語の認知や記号化された聴覚情報の保持は左半球のHeschl回後方のウェルニッケ野が重要な役割を担う。また側頭峡は聴覚情報をウェルニッケ野に伝えるのに重要な役割を持つ。これらの経路の障害は聴力障害がなくとも聴覚理解の障害が生じる。
発話

発話の実行には左前頭葉のブローカ野が重要な役割を担っていると考えられている。その領域は三角部とその後ろの弁蓋部に分けられ、弁蓋部はへさしかかっている。内包膝部も発話に関与する。発話の起動は補足運動野や帯状回尾状核を結ぶ経路が重要であると考えられている。これらの障害で無言の状態が起こることもある。
復唱

Lichitheimは復唱のために特殊な経路があると述べている。しかし、伝導失語では字性錯語を合併することが多く、責任病巣が同じである可能性もある。縁上回皮質下の弓状束はウェルニッケ野とブローカー野を結び、この部位の障害で復唱障害がおこるという説もある。
呼称

呼称の脳内機構は不明な点が多い。
失語症のタイプ

古典分類であるWernicke-Lichitheimの失語図式による失語分類で説明する。
超皮質性失語
超皮質性失語とは復唱が保たれている失語の総称である。復唱はウェルニッケ野から弓状束、ブローカ野、中心前回を経由する発話機構で営まれていると考えられているのでこれらの機構が保存されていれば超皮質性失語となると考えられている。しかし、個々の責任病巣は必ずしも明確にはわかっていない。一般的な特徴として反響言語(オウム返し)のような発語が多い特徴がある。
皮質下失語
内言語が保存されている失語の総称を皮質下失語という。
視床被殻が責任病巣となることが多い。
運動性失語「ブローカ野#失語症」も参照

左大脳半球の下前頭回後部(ブローカ領野)周辺の損傷に関連深いことから「ブローカ失語」とも呼ばれる。発話量が少なく非流暢、一般には努力性でたどたどしい話し方、言葉の聴覚的理解面は比較的良好に保たれているのが特徴である。読み書きは、かな文字より漢字の方が良好であることが多い。


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