失行(しっこう、apraxia)とはLiepmannが「運動可能であるにもかかわらず合目的な運動ができない状態」と定義した高次機能障害のひとつである。除外診断によって診断される場合が多く、指示された運動を間違って行うか、渡された物品を誤って用いる患者のうち、その他の障害が除外された場合に失行と診断される。その他の障害の具体例としては麻痺や失調など他の運動障害、了解障害や失認、課題の意図の理解度や意欲といったものがある。これらの障害を合併し、失行も合併するということも考えられる。目次
1 高次機能障害と脳の側性化
2 失行の検査
2.1 失行患者の示す誤り
3 代表的な失行の種類
3.1 肢節運動失行
3.2 観念運動失行
3.3 口腔顔面失行
3.4 観念失行
3.5 着衣失行
3.6 構成失行
3.7 拮抗性失行
3.8 脳梁性失行
4 失行と責任病巣
5 参考文献
6 外部リンク
高次機能障害と脳の側性化詳細は「高次機能障害」を参照
例外も多いが高次機能で左右半球の局在が知られているものをあげる。特に左ききの場合は非典型的なことが多い。優位半球中大脳動脈領域の皮質症状は言語に関連するものが中心である。失語、失書、失読などの言語関連の症状の他、失行のうち、肢節運動失行、観念運動失行、観念性失行、口部顔面失行などが優位半球の症状となる。劣位半球の皮質症状は認知障害が主体となる、半側空間無視、身体失認、病態失認、地誌的失見当などの認知障害のほか、失行のうち構成失行、着衣失行が右半球の症状となる。
分類高次機能障害左半球右半球 標準的な検査法としてはWAB失語症検査の行為の下位検査や標準高次動作性検査などがあけられる。これらは神経心理学の経験が十分な験者が行うことで客観性を保っている。簡便な方法としては以下のような診察が行われることがある。 軍隊式の敬礼を行う、手指を順次屈曲させる、眼を閉じる、口を開く、口笛を吹く、起立する、歩行するといったことを行う。またじゃんけんのチョキや影絵の狐のまねをする。足で空中に円や三角をかいてみる。また鉛筆で紙に図形を書かせたり、模写をさせることもある。 かなづちを使うまね、ドアをノックするまねをさせてみる。 鍵や鉄鎚を実際に使わせてみる。衣類を着てみたり、マッチ棒で図形を描いてみる。 マッチでロウソクに火をつける。ポットと急須を使い湯呑茶を注ぐ。 神経心理学的な検査の場合は点数による評価が可能であるが、簡便な方法の場合はどのような誤りを示せば失行と評価するかといった問題がある。以下に代表的な失行をもつ方の誤りの例を示す。 指を拡げる、腕を振り回す、手探りで探しまわるといった無意味な運動が誘発される。 これは軽度の麻痺や感覚障害、巧緻運動障害 敬礼の代わりにバイバイを行ったり、鍵を歯ブラシのように使う。 マッチを点火せずにろうそくにこすりつける。ロウソクをマッチ箱にこすりつけるなど。 古典的にはLiepmannが肢節運動性失行、観念運動性失行、観念性失行という3つに分類したことから始まる。2010年現在、構成失行や着衣失行なども含まれている。 中心回 左半球の広範な障害でおこる。Liepmannによると「物品を使用しない単純な運動や、一つの物品を対象とする運動が言語命令、模倣、物品使用のいずれでも障害されるもので、自動運動は可能であるが意図的な運動はできない状態」と定義している。具体的には敬礼や鉄鎚を使うまね(パントマイム)といった簡単な動作ができない。観念運動失行の定義は研究者の間でも一定していない。 観念運動失行が口腔顔面領域に起こった場合のことである。口笛をふく、舌打ちをするといった動作ができなくなる。
言語失語、失読◎
失書◎○(過書、空間性失書)
計算失算◎○(空間性失計算)
記憶言語性記憶障害◎
視覚性記憶障害○
行為観念運動失行◎
観念失行◎
口部顔面失行◎
構成障害◎
着衣失行◎
運動維持困難◎
方向性注意半側空間無視○(右無視)◎(左無視)
視空間認知構成障害◎
視覚失認○(両側病変)○(両側病変)
相貌失認○(両側病変が多い)
失行の検査
簡単な運動や動作
物品なしに物品を使うまね
物品を用いる簡単な動作
運動の複合
失行患者の示す誤り
形をなさない無意味な運動
運動が大まかになったり下手になったりする
ある意味のある行動の代わりに他の意味のある運動を行う
一連の運動のうちその部分行為を間違えたり、省略したり、物品との関係を間違える
前の運動の保続
運動が中断したり、途方にくれる。
代表的な失行の種類
肢節運動失行
観念運動失行
口腔顔面失行