失業
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'世界の失業率'(最新年度) 灰色は統計資料が入手できないことを表す。CIA World Factbook による[1]OECD各国の全労働力人口における失業者OECD各国の労働力人口における若年失業者(15-24歳)[2]

失業(しつぎょう、: unemployment)とは、職業(仕事)を失うこと、および労働意志能力もあるのに仕事に就けない状態を指す。特に、仕事が無い状態を指す無職(むしょく)のうち、就業に向けた職探しを行っている者の状態を指し、金銭的困窮状態の者を失業者(しつぎょうしゃ)と言う。

労働力人口に対する失業者数の割合を失業率と言う。経済面から考えて、完全雇用(Full employment)とは、労働力、技術、土地、資本、その他の生産要素を最大限に活用して、最大限の持続可能な生産能力を生み出している健康寿命に余りがある状態をさし[3]、「失業者が一人もいない」ということではなく、一定の摩擦的失業の存在を含んだ状態のことをいう[4]

国際労働機関(ILO)によれば、2018年の時点では全世界で1億7200万人(報告された世界の労働力人口の5%)が無職であった[5]

15-24歳の労働力人口における失業を若年失業といい、日本など一部を除いて北欧福祉国家でさえも若年失業率が20 %から下がらないことがOECD加盟国で大きな問題になっている[6][7]。.mw-parser-output .toclimit-2 .toclevel-1 ul,.mw-parser-output .toclimit-3 .toclevel-2 ul,.mw-parser-output .toclimit-4 .toclevel-3 ul,.mw-parser-output .toclimit-5 .toclevel-4 ul,.mw-parser-output .toclimit-6 .toclevel-5 ul,.mw-parser-output .toclimit-7 .toclevel-6 ul{display:none}
失業の分類と理論

失業には自発的失業、摩擦的失業、非自発的失業の3様態がある[8]。この分類は、ジョン・メイナード・ケインズによってなされたものである[9][10]
自発的失業
景気の良し悪しとは無関係に存在する(自然失業率[8]。自己の意思により失業を選択している、あるいはより良い労働条件を求めて自分の意志で失業すること。
摩擦的失業
景気の良し悪しとは無関係に存在する(自然失業率)[8]。後述を参照。
非自発的失業
完全失業(完全失業率)[8]。現行の賃金で就職を望んでいるにもかかわらず、自ら望まない形で失業していること。

失業者 = 自発的失業者 + 摩擦的失業者 + 非自発的失業者[11]

潜在産出量が、国内総生産と等しくなった場合、「非自発的失業」は無くなるとされている[12]
失業の要因別分類

失業を発生要因別に、需要不足失業、摩擦的失業、構造的失業の3種類に分類できる[13][14]
需要不足失業
景気の変動(循環)に伴って労働需要(雇用の受け皿)が減少することにより生じる失業で、循環的失業とも呼ばれる。リアルビジネスサイクル理論などが例である。
摩擦的失業
転職や新たに就職する際に、企業と求職者の互いの情報が不完全であるため両者が相手を探すのに時間がかかることや、労働者が地域間を移動する際に時間がかかることなどにより生じる失業。
構造的失業
労働市場における需要と供給のバランスはとれているにもかかわらず、企業が求める人材求職者の持っている特性(職業能力や年齢など)などが異なるというミスマッチにより生じる失業。「ウィリアム・ベヴァリッジ#ベヴァリッジ曲線」も参照
非自発的失業詳細は「非自発的失業」を参照

新古典派経済学マネタリストの見解では、市場経済が機能することで労働者の需要と供給は一致し、求職者はすべて職を得ることが可能となるとする[15]。ただし、ケインズ経済学は市場メカニズムは短期的には上手く働かないと指摘しており、非自発的失業が発生するとしている。非自発的失業はケインズによって発見されたものであり、非自発的失業の存在を認めるかどうかについては、ケインズ経済学的立場と新古典派的立場の間で意見が分かれる。

労働市場では、家計が労働を供給し、企業が労働を需要する[16]。労働の需給が一致するときに現実の雇用量と賃金が決まる[16]。労働市場では、賃金が高ければ、企業は雇用を減らし労働者は供給を増やす[17]新古典派経済学は、賃金が労働の需給を一致させるように決まると考えるため、非自発的失業は存在しないとする[17]。名目賃金の低下は、労働の供給が需要を上回るときに起こる[17]

これは新古典派が、価格の自在な伸縮によって全ての売れ残りの解消が可能とするセイの法則を前提として[18]、失業者は現在雇用されている労働者よりも低い賃金を提示して職を見付けることが可能であるとするためである。賃金価格の下落によって失業が解消されないのは、その賃金以下では働かないという労働者の選択に唯一の原因があるとする。

これに対してジョン・メイナード・ケインズのマクロ経済学は、有効需要の不足が失業発生の理由とみなした[19]ケインズ経済学では、「賃金は硬直的なので、需要と供給が一致することはない」とされる[20]。ケインズ経済学では、労働市場では賃金の下方硬直性があるため失業は存在する[21]。また、財・サービス市場においても価格は硬直的であり、価格が瞬時に調整されるわけではない[21]。価格・賃金は短期的にはゆっくりとしか調整されない[21]。ケインズ経済学の賃金・価格の硬直性は短期の仮定であり、数年間かければ賃金・価格はやがて調整される[22]。ただし、利子率の下方硬直性では、ケインズ的不況が短期ではなく中期(10年程度)に渡って継続される[22]

ケインズは、セイの法則と相対する有効需要の原理を提示し、社会全体の生産物に対する需要によって雇用量が決定されるとして[注 1]不完全雇用を伴う均衡の可能性を認める。そのさい有効需要の不足によって発生した非自発的失業は、総需要を拡大することによって解消されなければならないとした。

名目賃金の下方硬直性を説明する要因としては、相対賃金仮説、効率賃金仮説、インサイダー・アウトサイダー仮説など様々な理由が考えられている(詳しくは労働経済学を参照)。
循環的失業米国の失業率(1990?2022)。グレー部が循環的失業。

循環的失業(Cyclical)はケインズ型失業(Keynesian unemployment)とも呼ばれ、働きたい者すべてに仕事を提供するのに十分な総需要が無いときに発生する。多くの財やサービスに対する需要が低下し、必要な生産量が減った結果として、必要な労働者も減るが、賃金には下方硬直性があるため均衡水準に達するまで下がらずに、失業が発生するのである[23]
完全雇用の下での失業短期フィリップス曲線はインフレ率と失業率の関係を示す詳細は「自然失業率」、「完全雇用」、「産出量ギャップ」、および「オークンの法則」を参照

構造的ないし摩擦的理由で失業している人の労働人口に対する割合を自然失業率インフレ非加速的失業率、略してNAIRU)という[24]。自然失業率(の解釈の1つ)は、経済が均衡状態にあるときの失業率である。

政府は公共政策により失業率を調整できるが、失業率を自然失業率以下にしようとすると、インフレが起こる。従って、インフレを起こさずに政策によって減らせる失業は循環的失業の部分だけである。

また、ジョージ・アカロフらによって、自然失業率の水準はインフレ率によって左右されることが指摘されている[25][26][27]。これら研究によれば、インフレ率がある閾値から低下すればするほど、自然失業率の水準が高まっていくこととなる。よって、インフレ率が非常に低いないしデフレの経済において、失業率を低下させる政策が採られた場合、一時的には失業率が自然失業率を下回ってインフレを加速させるが、それによってインフレ率の水準が高まると自然失業率の水準が低下するため、失業率が自然失業率よりも高い状態になればインフレの加速も止む。このことはまた、インフレ率などを勘案せず、失業率の水準だけを見て循環的失業の規模を推計することや、産出量ギャップの大きさを判断することの危険性を示している。

失業率は総産出量(実質GDP)と潜在産出量との差をパーセント表示したもの(産出量ギャップ、GDPギャップ)に関係している事が知られている。

産出量ギャップ = 100 × (総産出量? 潜在産出量)/潜在産出量 (%)

産出量ギャップが負の場合は、資源を完全には利用できていない状態なので、失業率は自然失業率よりも高くなる。逆に正であれば、失業率は自然失業率よりも低くなる。なお、産出量ギャップが正の場合をインフレギャップといい、負の場合をデフレギャップという。

産出量ギャップが短期的には0にならない理由として、雇用契約が挙げられる。景気が悪化しても、企業は契約の関係上、短期的には社員の給料も下げない。したがって給料は完全雇用を達成する水準より高い水準となってしまい失業者が増加し、それにより産出量ギャップが生じる。

過去のデータから、産出量ギャップと失業率には次の関係があると推定されている(オークンの法則):

失業率 = 自然失業率 - 0.5 産出量ギャップ (%)

これらのように、景気は実質GDPによって決まるが、それに対し失業率は産出量ギャップによって決まる。したがって景気(実質GDP)が上昇したとしても、その上昇速度が潜在産出量のそれよりも緩やかなら、「雇用なき景気回復」(ジョブレス・リカバリー)が起こる。

最後に、失業率を自然失業率以下に下げようとし続けると何が起こるのかを見る。例えば2%のインフレを起こすと、失業率を自然失業率以下に下がる。しかししばらくすると、国民は2%のインフレ率を予想に織り込んで行動するようになる。したがって再び失業率が上昇する。失業率をもう一度下げるには、さらに高い率のインフレを起こさねばならない。しかしこの高いインフレ率もそのうち予想に織り込まれるので失業率が再び上昇してしまう。このように、失業率を自然失業率以下に抑えつづけるには、インフレを加速させ続けねばならない。

名目賃金の下方硬直性がある場合、労働需要を増加させるには物価の上昇が必要であるが、労働需要の増加によって完全雇用が達成されると、それ以上は需要が増えても物価が上昇するだけになってしまう[28]
隠れた失業

公的統計においては、隠れた失業(潜在的失業)を考慮しないことにより、失業率が過小評価されることが多い[29][30]。隠れた失業とは、統計の手法によって公式の失業統計に反映されていない潜在的な失業のことである。多くの国では、仕事はないが積極的に仕事を探している人(完全失業者)や、社会保障給付を受ける資格のある人のみが、失業者として数えられる。就業意欲喪失者や、政府の職業訓練プログラムに参加している人は、無職であっても公式には失業者として数えられない。

また不完全雇用(underemployed)と呼ばれる、希望する時間より少ない時間しか働けないパートタイマーや、自分の能力を十分に生かせない仕事をしている人(資格過剰)も統計には含まれない。さらに生産可能年齢に達しているが、現在フルタイムで教育を受けている人は、一般的には政府統計において失業者とはみなされない。原野で採集、狩猟、牧畜、農業を営むことで生計を立てている伝統的な先住民社会においては、失業者として統計に数えられる場合と、数えられない場合がある。
その他の失業の種類

次のような失業も考えることができる。

季節的失業 - 季節的要因により発生する失業
[31]

一時的失業 - 農業従事者の農閑期の失業。

産業予備軍 - 資本家にとって賃金抑制装置として必要とされる相対的過剰人口

技術的失業 - 機械化・自動化により、特殊能力が不要となり発生する失業[32]
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この節の加筆が望まれています。

歴史

中世キリスト教世界(=カトリックの世界)では、貧しいことは「神の心にかなうこと」とされ、そのような人に手を差し伸べることは善行であった。宗教改革(=プロテスタンティズムの登場)は、こういった見方を一変させ、「怠惰と貪欲は許されざる罪」で、物乞いは「怠惰の原因」として排斥し、労働を「神聖な義務」であるとした。プロテスタンティズムの流行は貧しいものへの視線を変容させ、「神に見放されたことを表す」という見方が広がり、都市を締め出された貧民荒野森林に住みつくか、浮浪者となって暴動を起こすようになった。

イギリスでは1531年に王令により貧民を、「病気等で働けない者」と、「怠惰ゆえに働かない者」に分類し、前者には物乞いの許可を下し、後者には鞭打ちを加えることとした。1536年には成文化され救貧法となり、労働不能貧民には衣食の提供を行う一方、健常者には強制労働を課した。産業革命が加速する18世紀まで、健常者の「怠惰」は神との関係において罪として扱われ、救貧院の実態は刑務所そのものであった。


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