太陽熱発電
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太陽光発電」とは異なります。

太陽熱発電(たいようねつはつでん)とは、太陽光太陽炉で集光して、汽力発電スターリングエンジン源として利用する発電方法である。様々な発電方式が存在するものの、いずれも太陽のエネルギーを熱として利用しており、光電効果を利用している太陽光発電とは原理が全く異なる。

太陽熱発電は、太陽の寿命までエネルギー源枯渇の心配が無く、さらに太陽光発電よりも導入費用が安い。その上、太陽熱発電の場合は、蓄熱すれば24時間の発電が可能であるなど、エネルギー密度の低い太陽光のエネルギーを利用するにもかかわらず、施設の大規模化などによって欠点をある程度克服することが可能である。また、燃料を用いないため、燃料を外部から輸送してくるのに都合の良い場所に立地させる必要がなく、燃料費もかからない上に、燃料費高騰の影響を受けず、発電時に燃料の燃焼に伴う二酸化炭素窒素酸化物も排出しない。

ただし、太陽熱発電所の中には出力安定化などの目的で、補助的に火力発電も併用している施設も見られる。さらには、従来型の火力発電設備に太陽熱発電を組み合わせることで、火力発電の廃熱の有効活用を狙ったISCCS(英語版)と呼ばれる発電方式も存在する。これらのような燃料も使用する施設においては、当然ながら、燃料の諸問題が依然付きまとう。

なお、太陽熱発電の中にはソーラーアップドラフトタワーのような、太陽熱によって室内の空気を暖めることで、比重が軽くなった空気が上昇することを利用して、煙突内に連続的に発生させた上昇気流で風力発電を行うような方式も含めて考える場合もある。
太陽熱発電と太陽光発電の違い

太陽電池で発電を行う太陽光発電とは異なり、太陽熱発電は太陽光をレンズ反射鏡を用いた太陽炉で集光することで、汽力発電の熱源として利用する発電方法である[1]。太陽光がエネルギー源のため、太陽が寿命を迎えるまでの間、すなわち、今後数十億年に亘って資源の枯渇の恐れがない発電方法である。燃料を用いないため、燃料の燃焼に伴う窒素酸化物や硫黄酸化物や二酸化炭素などの発生が無く、燃料費や燃料輸送費や燃料を安全に管理するための費用などが不要であるため運転にかかる費用を低く抑えられ、燃料費高騰によるコスト上昇のリスクもない。そして、高コストな太陽電池を使う太陽光発電に比べて、太陽熱発電で使用する反射鏡の方が製造・保守の面で有利とされる。

また、常に光が当たっていないと発電できない太陽光発電とは異なり、大規模化すると蓄熱により発電量の変動を抑えることが可能であり、夜間でも稼働できる上に、例えばソーラーポンドのように発電以外に、熱自体を利用することも可能である。さらに、太陽電池とは異なり、太陽熱発電は熱源として太陽光を用いているだけなので、ボイラーを併設して火力発電との設備の共用が可能であり、実際に、例えばアルバラド太陽熱発電所ソルノバ太陽熱発電所などのように太陽熱を主な熱源として用いる一方で、出力安定化などのために補助の熱源として燃料を燃焼させる方式をとっている太陽熱発電所も散見される。

それから、太陽電池では直接発生させられる電圧が限られる上に、直流の電流が発生する。太陽電池で発生させた電力をその場で用いるのであれば大きな問題は無いものの、低電圧の直流のままでは長距離の送電に向かないため、送電を行う場合は、直流を交流に変換して、さらに変圧して電圧を上げる必要があり、この変換には当然ながらエネルギーの損失を伴う。これに対して、太陽熱発電は熱源として太陽光のエネルギーを用いているだけなので、従来の汽力発電で用いられてきた大型かつ高電圧の交流発電機が使用可能なので、従来型の大規模な送電網に乗せることにも都合が良いといった利点もある。なお、太陽熱発電は大規模化すると蓄熱して出力を安定化させやすいなど、スケールメリットが効くため、施設を大規模にするのが好ましいわけだが、このスケールメリットを活かすためにも、従来の大規模な送電網は有用である。

ただし、太陽熱発電には欠点もある。太陽電池を用いた発電であれば、日の出後すぐに発電が開始されるのに対して、太陽熱発電では日の出後すぐに出力を上げることは難しい。これは冬期間の昼間が短い、さらには、極夜すらある地球の高緯度地域には致命的な問題で、地球の高緯度地域は太陽熱発電に向かない[注釈 1]。また、太陽熱発電の場合は、蓄熱すれば太陽電池とは違って夜間でも稼働できるとは言え、放熱によるエネルギーの損失は避けられない。さらに、昼間に曇天や雨天であると、太陽光が弱くなるなどの理由で、出力が上がりにくくなる。そのため、低緯度から中緯度にかけて、かつ、乾燥地域や山に囲まれた内陸部などの晴天率の高い地域での太陽熱発電所建設が有効である。
動向

太陽熱発電に対する注目は、従来、砂漠を持ち、広大な人口密度の低い土地を有する地域で高かった。例えば、アメリカ合衆国やオーストラリアや中華人民共和国などである。しかし、2010年代に入る頃から、スペイン、南アフリカ共和国などでは盛んに太陽熱発電所が作られ、100 MWを超える太陽熱発電所も稼動している。さらに、チリなどでも複数の太陽熱発電所の建設計画が動き出している。また、産油国ですら、2013年にはアラブ首長国連邦にて100 MW級のシャムス太陽熱発電所が稼動を始め[2]、2010年代も終わりに近付くとサウジアラビアやクウェートでも50 MW級の太陽熱発電所が稼動を始めた。この他、多数の人口を抱えるインドでも2010年代に入ってから100 MW級の太陽熱発電所も稼動を始めた。

これに対して、スペインと同程度の緯度の地域を領有しているにもかかわらず日本は遅れている。陸地が限られ利用上の競合が多い日本ではあまり適さない発電方式とされてきたことも原因の1つである。ただ、近年では太陽光発電による1 MW級以上のいわゆるメガソーラー発電所の導入が見込まれる中で、規模的には太陽光発電を上回ることが容易であり、かつ、発電効率・発電コストの点で太陽光発電と同等以上の可能性を持つ太陽熱発電の事業性について、改めてフィジビリティスタディを実施し日本国内における導入可能性を再評価する動きも現れている。一応、日本ではオイルショックによるエネルギー問題を契機に、通商産業省が国家プロジェクトサンシャイン計画を1974年に策定し、その一環として1981年に香川県三豊郡仁尾町(現・三豊市)に「タワー集光式」と「曲面集光式(トラフ式)」の2つの方式の太陽熱発電システムの実証実験施設を建設した過去を持つ。それぞれの方式で1 MW(メガワット)を発電し、世界で初めての太陽光熱発電の実証実験に成功したものの、安定した出力を得られず実用化は困難と判断し、1985年に計画は中止された[3]。この太陽熱発電の実証実験が行われて以来、日本では大規模太陽熱発電の実験は実施されていなかった。それでも2010年には東京工業大学玉浦裕教授の研究チームが山梨県に実験設備を建設する計画を発表した[4]。しかし2019年現在に至っても、日本では商業運転されている太陽熱発電所は皆無である。
集光型太陽熱発電

集光型太陽熱発電とは、レンズや鏡や反射板を用いて太陽光を集光し、その熱で水を蒸発させることで蒸気タービンを回転させ発電する発電方式、いわゆる汽力発電である。発電の原理は古典的な火力発電と同じものであるが、熱の発生に燃料の燃焼ではなく太陽熱を利用する。

太陽光を得られない夜間には溶解塩などを用いた蓄熱による熱を利用する他に、燃料を燃焼させて発電する、火力発電とのハイブリッド方式とすることも可能である。
タワー式太陽熱発電カリフォルニア州モハーヴェ砂漠のSolar two。

タワー式太陽熱発電(英語版)(: Solar power tower、Central Tower power plants)とは、平面鏡を用いて、中央部に設置されたタワーにある集熱器に太陽光を集中させることで集光し、その熱で発電する発電方式である。中央タワー方式、集中方式などとも呼ばれる。

タワー式の施設は、ヘリオスタットと呼ばれる、平面鏡、太陽の動きに追従して鏡の向きを調整する機構、それらを支える枠とで構成される、光を反射する装置と、タワー上部に設置された集熱器、タワー下部の蒸気タービン発電機復水器などで構成される。各ヘリオスタットで反射された太陽光が、タワー上部の集熱器を加熱し、そこで加熱された液体(オイル溶融塩など)は、タワー下部に送られ、水を蒸発させて蒸気タービンを回すことにより、発電が行われる。また蓄熱装置を併設して昼間に熱を蓄えておけば、夜間の発電も可能である。Solar Twoで用いられるヘリオスタット。

タワー式の場合は、数メートル四方の鏡、数百枚から数千枚を用いて集められた太陽光を1箇所に集中させることが出来るため、最高で1000 ℃程度まで加熱することも可能である。汽力発電を高効率で行うには、なるべく高温を達成できた方が良いので、そのためには好都合な方式と言える。

一方で、この方式には欠点もある。まず、この方式ではタワー上部の集光器に太陽光を集中させなければならないわけだが、地球が自転している影響で太陽が動くので、太陽光を集中させ続けるためには、太陽の動きに合わせて鏡を正確に動かし続けなければならず、その動力も用意せねばならない。また、鏡とタワー上部の集光器との間に光を遮るものがあってはならないため、より多くの光を集めるにはタワーを高くしたり、外周部の鏡の設置場所を高い位置にすることなどが必要となり、それに伴って設備費も高くなる。加えて、集光用の鏡は面積が大きく、風の影響を受けやすいため、鏡を動かす必要があるのにもかかわらず、その構造には相応の強度が求められる。さらに、鏡とタワーとの間に距離があるために、ここに鳥が飛来した際に、しばしばその鳥が焼け死ぬといった問題も報告されている[5]
タワー式太陽熱発電の例・計画


Solar One,Solar Two - アメリカ合衆国カリフォルニア州モハーヴェ砂漠に建設されたタワー式太陽熱発電所。Solar Oneは1982年に設置され、1995年にヘリオスタットの追加や設備の改良を受けて、Solar Twoとなった。出力10 MW。1999年に運転停止。

Solar Tres - スペイン南部の、アンダルシア州に建設が計画されている。出力15 MW。

プランタ・ソラール10(PS10) - スペイン南部の、セビリア近郊に建設された。出力11 MW。さらに改良型で出力20 MWのプランタ・ソラール20(PS20)も建設された。


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