太陽嵐
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太陽嵐(たいようあらし、英語: solar storm)とは、太陽で非常に大規模な太陽フレアが発生した際に太陽風が爆発的に放出され、それに含まれる電磁波粒子線粒子などが、地球上や地球近傍の人工衛星等に甚大な被害をもたらす現象である。

太陽は、太陽黒点数の変化周期である約11年のほか、約200 - 300年などのいくつかの活動周期を持つと言われている。最も顕著なのは11年周期であり、およそ11年ごとに、活動が活発な極大期とそうでない極小期とを繰り返す。極大期には、人工衛星に搭載される電子機器などに被害をもたらすような強い太陽フレアが発生することがある。また、強い磁場、高密度のプラズマを伴った太陽風が磁気圏に衝突することで、強い電気エネルギーが磁気圏内に生成され、それが原因となって短波通信障害や地上の電力施設などにも被害をもたらすことがある。太陽活動に関する研究が発展した近年、大規模な太陽フレアによって上記のような様々な影響がもたらされることが考えられるようになり、「太陽嵐」と呼ばれている。

なお、一般的な用法として太陽フレア全般のことを太陽嵐と呼称する場合もあるが、ここでは主に大きな被害が懸念される格段に強い太陽フレアについて記述する。
影響と対策太陽から飛来する太陽風の概念図

太陽嵐が発生すると、普通の太陽フレアよりも格段に多い電磁波(紫外線(可視光線)、赤外線電波)、磁場の波、粒子線、粒子などが放出される。これらは通常、地球の磁気圏大気圏を通過する際にほとんどすべてが減衰してしまう。例えば、紫外線は上部大気やオゾン層に吸収されるし、磁場、粒子線や粒子はまず磁気圏に捉えられたあと、上部大気を構成する粒子と衝突してエネルギーを放出し無害化される。唯一地表に届くのが大気の窓領域の電磁波、つまり可視光線や赤外線である。

太陽嵐のように規模が大きな場合でも、これらの防御機構は機能するため、プラズマ粒子などが直接地上に達することは考えにくい。一方で、間接的な影響は起こる可能性がある(ただし、2008年12月にテミスが観測したように磁気圏の穴=薄い場所があればそこから上部大気に直接影響が及ぶ可能性もある。この場合人工衛星等への影響が懸念される)。

太陽嵐により到達したプラズマ粒子等が溜まって磁気圏内に生成された電気エネルギーは、電離層に強い電流を流し、それによって激しい地磁気変動が発生する。さらにそれによる誘導電流が送電線に生成されると、この誘導電流が正弦波交流電流を乱し、電力関係の機器が壊れたり、発電所変電所などの電力施設が破壊されて停電になるなど、大規模な被害が発生する。

太陽嵐により放出される電磁波などは、その速度の違いによって、3段階に渡って別々に到達する。まず、最初に到達するのが電磁波で、これは光速度で伝わるためわずか8分程度で到達する。これは主に電波障害を起こし、多くの通信システム(人工衛星飛行機の無線など)が使用できなくなってしまう。

次に来るのが放射線で、これは数時間で到達する。宇宙飛行士などは放射線を遮蔽できるような施設内に避難しないと被曝してしまう。

最後に来るのがCME(コロナガス噴出、コロナ質量放出)と呼ばれるもので、2-3日後に到達する。この影響が最も危険であり、これに伴って磁気圏内に生成される電気エネルギーが原因となって発生した誘導電流が送電線に混入すると電流が乱れ、停電、電力システムの破壊を招く。これを防止するには、発電所などを停止して送電をストップし、強制停電を行うことが必要になると考えられている。大都市を中心に世界的に電力供給に影響が出ることが見込まれ、復旧に莫大な資金がかかり、経済的な損失を招くことになる。

はじめの電磁波到達を乗り切れれば、本体の太陽風の到達までに情報を発信して必要な措置を取ることができるため、主な対策として人工衛星による常時監視が挙げられる。これを担当している衛星として、NASAACE がある。この衛星は地球と太陽のラグランジュ点付近で太陽嵐の常時監視をしており、太陽嵐の到達1時間前に太陽嵐を感知することができる。

炭素14同位体の濃度が上がり、年代測定に誤差が出る[注釈 1][1]
過去の太陽嵐

過去に発生したと推定されている太陽嵐は以下のとおり。

紀元前660年グリーンランドの氷床コアに含まれるベリリウム10 (10Be) の濃度が高いことが判明しており、史上最大級の太陽嵐が発生したとの説が出されている[2]

774年 - 775年大気中の炭素14濃度が高まったことが判明(775年の宇宙線飛来)しており、太陽嵐があったとの説が出されている。この場合、1859年に発生したキャリントン・イベントの約10倍の規模であったことが推定される[3]

993年 - 994年[3]前記同様の炭素14濃度上昇が判明している。「993?994年の炭素14含有量上昇(wikidata)」を参照

1805年

1859年の太陽嵐(キャリントン・イベント/Carrington Event)非常に激しいCMEが発生、18時間足らずで地球に到達し現在でも史上最大とされる規模の磁気嵐を発生させた。まだ普及途中であった電信機器は回路がショートし火災が発生した。

1958年激しい太陽フレアとCMEが発生。アラスカのフェアバンクスでは非常に明るいオーロラが観測され、メキシコでも3度に渡ってオーロラが観測された。

1989年3月の磁気嵐威力は1859年の太陽嵐と比較して半分程度のものであったが、カナダケベック州一帯で停電が発生した。

2003年11月4日観測史上最も激しい太陽フレアは2003年11月4日のもので、人工衛星惑星探査機に影響が及び、国際宇宙ステーションでも念のため避難が行われた。


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