天然ガス
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地面から湧き出ている天然ガス天然ガスの採掘現場

天然ガス(てんねんガス)とは、メタンを主成分とし、エタンプロパンなどを含む化石燃料の一種[1]

気体燃料は天然ガス、石炭系ガス(石炭ガス水性ガス、発生炉ガス、高炉ガスなど)、石油系ガス(オイルガス)に大別される[1]。天然ガスはこれらの中でも代表的な気体燃料で、10?15m3のガスをガソリン捕集装置にかけたとき、1リットル程度のガソリンを採取できるものを湿性ガス(wet gas)、採取できないものを乾性ガス(dry gas)という[1]
用途
燃料

燃焼させて調理暖房風呂沸かしなどの熱源として使われる。日本では都市ガス用として利用される[2]

石炭石油に比べて燃焼させた時に、大気汚染物質(窒素酸化物硫黄酸化物など)や温室効果ガス二酸化炭素)の排出が少ない[3]ため、火力発電所においても中心的な燃料となっている[4]

その他、天然ガス自動車や、天然ガス動力船[5]が実用化されている。
化学品原料

メタノールアンモニアアセチレンなどの製造に使われる[6]。日本国内の天然ガス田では、ヨウ素が重要な副産物として採取されている[7]
取引

日本では需要量に比べて国内産がごく僅かであるため、歴史的に輸入に依存してきた。戦後からは、中東マレーシアブルネイなどから輸入している。原油に連動した価格で、転売しないという条件による長期契約で輸入することが多かった。こうした輸出国に有利な条件を見直す動きも出ている[8]

東京商品取引所などが設立した「JAPAN OTC EXCHANGE株式会社」では、LNGの店頭取引が行われていた。その後2022年4月、東京商品取引所においてLNGの先物の取引が開始された[9]

また、天然ガスの輸出国から輸入先へのパイプライン敷設ルートの選定や、供給量・価格のコンロールには、外交・地政学的な要因が絡むことも多い。「ロシア・ウクライナガス紛争」を参照
天然ガス

地下から産出する状態の「天然ガス」について以下に述べる。液化したものは後半部の「液化天然ガス」を参照のこと。
起源

天然ガスの起源は炭素の同位体比(13C/14C)、ヘリウムの同位体比(3He/4He)、窒素(N)・アルゴン(Ar)比[10]などを分析することで判別できると考えられており、成因は下記のように大別される[11][12]。なお、分類に関しては諸説あり、「生物起源ガス」と「非生物起源ガス」に分類する考え方[13]などもある。
有機成因

熱分解性ガス
堆積物中の有機物(原油、石炭、泥質堆積物中に含まれる有機溶媒に溶けない有機物)の熱分解を起源とする。別名:ウェットガス[11]エタンプロパンブタンペンタンを多く含有する。
バクテリアガス
石炭[14]、堆積物中の有機物の低温での生物分解による。名前とは裏腹に直接メタン生成を行うのはバクテリアではなく古細菌である[15]。別名:ドライガス[11]メタンを主成分とし、他の成分は少ない。有機物を分解するメタン菌によるCO2還元反応が起源である[15]
無機成因[16]
流紋岩等の火山岩体[17]や海底枕状溶岩中に存在し、マントル中の無機炭素を起源とする[18]
組成

天然ガスにはメタン・エタン・プロパン・ブタン、そしてペンタン以上の炭素化合物が含まれ(天然ガスコンデンセート)、産出する場所によってその割合は少しずつ異なる。

産地による成分の違いの例(単位は mol/100mol)産地メタンエタンプロパンブタンペンタン窒素
ケナイ(アラスカ)99.810.070.000.000.000.12
ルムート(ブルネイ)89.835.892.921.300.040.02
ダス(アブダビ)82.0715.861.860.130.000.05

天然ガスに含まれる主な不純物として、窒素二酸化炭素硫黄酸化物硫化水素水銀などを含む[19]。例外的に北アメリカ産・アルジェリア産の天然ガスには 1 - 7 mol/100molものヘリウムが含まれており、世界の数少ないヘリウムの供給源となっている[20]
特性

揮発性が高く、常温では急速に蒸発する性質を持つ。主成分のメタンエタンが空気よりも軽いため、大気中に拡散しやすい。この点では、常温で空気より重く低い場所に滞留しやすいプロパンブタンガスに比べれば、人が扱う上での危険性は低い。またプロパンと同様、メタンやエタンも無臭であり、不純物を取り除いた天然ガスもまた無臭である。しかし無臭のまま天然ガスを用いることはガス漏れの際に気が付かず爆発の直接的な原因となりうる[注 1]。このためコスト面の問題や燃焼生成物による影響を忌避するために着臭剤を添加しない工業用原料を除き、天然ガスを燃料用ガスとして一般に提供する場合は有機硫黄化合物をはじめとした悪臭成分を意図的に混入(付臭)させ、ガス漏れを人間の嗅覚により察知しやすくしている。
物性

天然ガスに含まれる主な物性を以下に示す[19]

名称メタンエタンプロパンブタン
(ノルマル/イソ)
分子式CH4C2H6C3H8C4H10
分子量16.0430.0744.0958.12
沸点(℃)-161.5-88.7-42.2-0.5/-11.7
臨界温度(℃)-82.632.296.7152/135
臨界圧力45.448.84237.5/36
比重 液体(沸点、1気圧)0.4250.5460.5800.605/0.590
比重 気体(0℃、1気圧)0.5541.0471.5222.006
燃焼範囲 上限
(空気中容積%)15.012.59.58.4
燃焼範囲 下限
(空気中容積%)5.53.02.21.8
気体/液体容積比
(0℃、1気圧)595432292277/231
毒性なしなしなしなし
腐蝕性なしなしなしなし

常圧下でのメタンの沸点は-161.5℃であり、LNGの沸点は-160℃程度になる。このため常圧下で液化するには極低温が必要になる。また、加圧して沸点を上昇させたとしても、臨界温度は-82.6℃であり、この温度以上ではいくら加圧しても液化はしない。液化ガス蒸気圧曲線

メタンの液体での比重は0.43であり、LNGになると他の成分の割合に応じて0.43 - 0.48になる。原油の比重約0.85と比べても液体メタンはかなり軽いため、運搬時には重量に比べて大きな体積を必要とする。

気体のメタンは空気と比べて約55%の比重でありかなり軽いが、気体でも低温の状態では-113℃で空気と同じ重さとなり、それ以下の温度では空気より重くなる。

事故などにより極低温状態のメタンが漏れて-161.5℃以上で気体になると空気の1.4倍程度の重さとなりまず地上に漂うことになる。このガスと周囲の空気との境界で空中の水分を凍らせ白い雲を作る。これが蒸気雲(ベイパークラウド)と呼ばれ、透明なガスが間接的に人の目に触れることになる。この状態においては、爆発的な燃焼や凍傷、窒息の危険がある。しばらくは地上に留まった低温メタンガスも、温度が-131℃を超えると空気よりも軽くなり、空中へと上昇・拡散していく。

5%-15%の燃焼範囲は、他の可燃性ガスと比べれば比較的狭いため、爆発の危険性は低いと言える。気体のメタンが液体になると体積は約.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄600になるため、運搬には適している。

燃焼による発熱量は13,300kcal/kgで、炭化水素中では最大である。


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