天文台
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天文台の一例(札幌市天文台航空機を利用した空中天文台(英語版)の成層圏赤外線天文台。その他にも高高度気球の活用などがある。レーザーガイドを使用したチリ共和国にあるパラナル天文台。画像は2010年度Wikicommons年間画像大賞作品[1]

天文台(てんもんだい、英語: Astronomical observatory)は、天体天文現象の観測を行ったり、観測結果を解析して天文学の研究を行うための施設。現代では学術研究目的以外に、宇宙の観察や学習といった天文教育・普及活動の拠点としての性格を持つ天文台もある。
天文台の歴史「天文学史」も参照

古代以来の天文学の重要な役割に、天体観測によって正確な時刻を確定し正確なを作るという目的がある。このためには天体の会合や出没・南中時刻などを地球上の同一の地点から継続的に観測する必要がある。また、17世紀望遠鏡が発明され、より微弱な天体の光を捉えるために望遠鏡が大型化していくと、固定した建物の中に望遠鏡を据え付けて観測するというスタイルが一般的になった。このような理由で造られた観測施設が天文台の始まりであると考えられる。
初期文明マヤの天文台 「El Caracol(カタツムリ)

世界四大文明と呼ばれる地域では、天体観測が王国の威信を懸けて行われていた。様々な目的があるが、エジプト文明の場合には、ナイル川の氾濫の時期を予測して、農業などを行う際の基準として暦が編纂されていた。

アンデスアステカマヤ文明などでも、同じような目的で天体観測が行われ、精密な暦が編纂されていたが、言語学的な資料が乏しいため詳しいことは分かっていない。
イスラム圏サマルカンドのウルグ・ベク天文台。地下に掘られた観測機構(象限儀)。

イスラム圏では、1420年代にティムール朝の王族(のちに君主)にして天文学者であったウルグ・ベグが、サマルカンド郊外に天文台を建設した(のちにウルグ・ベク天文台と呼ばれる)。この天文台は15世紀半ばに破壊されたが、20世紀に発掘された。
ヨーロッパ

ヨーロッパでは、チコ・ブラーエが北欧に設立した天文台まで、記録が残っていない。オランダの眼鏡職人ハンス・リッペルハイが発明したとされる、ガリレオ式天体望遠鏡やチコ・ブラーエの下で天体観測データの解析を通じて、惑星運動のケプラーの法則に名を残すヨハネス・ケプラーによって考案された、ケプラー式天体望遠鏡などが開発されてから、天体観測所として人類の宇宙観を大きく変える発見がなされた。その後も、イギリスのアイザック・ニュートンが開発した、ニュートン式反射天体望遠鏡が天体観測装置の精密化や大口径化を後押しした。
東洋「中国の科学技術史」も参照

中国では、暦の制作や占星術のために天文学が発達し、天体現象が観測され記録された。

周代には太史(中国語版)という官職が設けられ、歴史記録などとともに暦や天文を管掌した。唐代には暦と天文を専門に扱う司天台(中国語版)という官職が設けられ、宋・元代には司天監、明・清代には欽天監(中国語版)と呼ばれた。

明代の1442年、北京に天文台(北京古観象台)が開設された。
日本葛飾北斎画:『鳥越の不二』
浅草天文台にて

日本最古の天文台は、『日本書紀天武天皇3年(674年)条に登場する「占星台」であり、その名の通り、当時の天文学の主たる目的の1つであった占星術を目的としていた。「天文台」という言葉で知られているのは、天明2年(1782年)に江戸浅草に作られた江戸幕府天文方の「浅草天文台」であるが、「天文台」という言葉はむしろ少数派で、天文方の著作である『寛政暦書』では、「測量台」が採用されて、別名として「司天台」「観象台」などを併記するが「天文台」はない。なお、「司天台」は浅草移転前の天文方の天文台の呼称であるとともに、陰陽頭土御門家京都梅小路に作った天文台に用いられた。「観象台」は明治初期に東京大学海軍省が採用している(当時は気象台の機能を兼ねていた)。明治21年(1888年)に設立された東京天文台が「天文台」の名称を採用して以後、日本で「天文台」という呼称が定着した。
現代

現代の天文台には、保時・編暦や天文学の研究を担うために各国の公的機関や大学高等学校の付属施設として設立された天文台と、個人や私企業、財団等によって作られた私設の天文台がある。また、日本においては地方公共団体などが運用を行う公開天文台も多数存在する。
天文台の施設・装置

天文台の立地条件としては、天体からの微かな光を観測するために、市街地から離れた光害のない暗い場所を選ぶことが絶対条件である。また、晴天率が高いこと、気流が安定していること、広い視界を確保できる地形であることも求められる。そのため、近年の大型望遠鏡を擁する天文台はハワイマウナケア山頂やチリアンデス山脈カナリア諸島などの高山に造られることが多い。電波望遠鏡の場合にも、観測を妨げる電波が少ない山間部や砂漠などが選ばれることが多い。

天文台には観測のための望遠鏡が一つまたは複数設置されている。近年では望遠鏡を格納する部屋の温度環境を一定にするため、望遠鏡の設置場所とは別の観測室から遠隔操作で観測を行う天文台も多い。また、天体観測は複数夜にわたって行われることも多いため、観測者用の宿泊施設などが付随する場合もある。

天文台の主な観測装置は以下の通りである。
天体望遠鏡

宇宙の観測は天体からやってくる電磁波、特に可視光線を受けて分析するという手段にほぼ限られるため、天文台には必ずと言って良いほど望遠鏡が設置されている。望遠鏡には光を捉え分析するための観測装置として冷却CCDカメラ分光器光電測光器、赤外観測装置などが備えられている。

詳しくは天体望遠鏡を参照のこと。
子午儀・子午環子午儀(フランス・Abbadia城)子午環(ウィーン・Kuffner Observatory)

歴史の古い天文台には、子午儀や子午環が設置されている所がある(天体の子午線通過 (transit) を観測する装置で、transit instrumentと総称される)。

子午儀は子午線上(南北方向)にのみ向きを移動できるように作られた天体望遠鏡の一種である。子午儀で恒星の子午線通過時刻を計測することで、その恒星の赤経や子午儀の設置地点の経度を正確に求めることができる。子午儀には、レプソルド子午儀、バンベルヒ子午儀などがある[2][3]

また子午環(Meridian circle)は、子午儀に目標天体の高度を測定する機能を付加したもので、これを用いると天体の赤緯や観測地の緯度も測定できる。

かつては標準時や暦の編纂のために子午儀・子午環は不可欠な装置であった。現代でも GPS原子時計を用いて決められた測地系時刻系の較正のために使われている。
その他
ソフト面
コンピューター時代の天体観測では、観測データ量が膨大になるため、観測装置の電子化や画像情報のデジタル化などにより、
コンピュータやデータベースシステムを運用している天文台が多い。遠隔地にある観測装置の運用を目的として、通信ネットワークを活用した自動遠隔操作やデータ解析ソフトウエアなどの開発を行っている。他に際立った特徴としては、大型の天文台では電波望遠鏡や電子測定機器類による、デジタル分析装置を運用していることである。他には、様々な測定機器類を用いた精密データ解析を実施。
ハード面
大気による観測への影響を避けるため航空機に設置した空中天文台(英語版)(成層圏赤外線天文台など)気球に望遠鏡を搭載したBalloon-borne telescope(英語版)大気圏外・軌道上に設置された宇宙天文台(ハッブル宇宙望遠鏡など)


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