大麻の医学的研究
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大麻の医学的研究(たいまのいがくてきけんきゅう)では、大麻使用による薬理効果、または健康への影響について記述する。医療利用については医療大麻を参照。世界保健機関 (WHO) が大麻の科学的証拠を精査した2010年代後半にはいくつかの報告書がまとめられた。

身体症状の中毒では、大麻により致死量に至る安全係数は、推定で通常使用量の1万倍で[1]、致命的となることはほとんどない[2]。精神症状(急性中毒)では、1994年のDSM-IVによれば時に重度の不安や不快な気分、社会的ひきこもりが起こるとされる。DSM-IVの「大麻依存」では、大麻依存のある人では強迫的に使用するが、一般に身体依存はなく離脱症状についての信頼性のある報告はないと記されていた。しかし2013年のDSM-5では「大麻離脱」の診断名が追加された。大量で長期の大麻の使用後に、使用の中止や相当な減量によって生じるとし、程度は通常、臨床的な関与(看護・治療など)が必要となるほどではないと記されている。1997年の世界保健機関の報告書は、大麻依存症は治療がなくても寛解する(治る)割合が高いことが示唆されているとしていた[3]。2018年の世界保健機関の報告書は、大麻使用障害となる人は少ないため発生率など信頼できる傾向を見出すのは難しいとしている[4][注釈 1]。2018年のWHOの報告書では、急性の#大麻中毒は短期的な精神病の状態(妄想や幻覚が優勢)を生じさせるものの統合失調症の発症につながるかは異論があり議論が必要とされていたが[4][注釈 2]、近年は因果の逆転に対処した研究デザインでも統合失調症の発症リスクを上昇させることが示唆されている[5]。1997年の世界保健機関の報告書は、#無動機症候群は明確に定義されておらず、長期的に大量に大麻を使用する者の慢性的な中毒との区別が明確でないとしている[3]

大麻の使用とうつ症状及び自殺の関連について因果が明確ではないという意見もかつてはあったが[6]、2019年に複数の縦断研究のメタアナリシスでうつ症状と自殺リスク増加が示された[7]

認知機能低下については2018年のメタアナリシスで急性期の悪影響が[8]、2022年のシステマティックレビューで長期的な悪影響が示されている[9]
薬理学
生化学テトラヒドロカンナビノール (THC) の化学式

大麻に含まれる向精神作用のある主な物質は、テトラヒドロカンナビノール (THC、またはΔ9-THC) である。商用栽培の大麻の花穂に含まれるTHCは、クローンや液肥の調整、シンセミア(受粉させずに雌株の花穂を成長させる栽培法)によって、野生の大麻よりも強化さたものがある。THCは、ヒトの体内に取り込まれた後、化学的な変化を経てカンナビノイドになり、これが脳に直接作用する[10]

1990年、カンナビノイド受容体タイプ1(英語版) (CB1受容体) が発見され、他の神経伝達物質と同様に、ヒトの体内で自然に生産され、恒常性に関与しているという理解が深まる[11]。カンナビノイドは苦痛の伝達系等に作用し、特にオピオイドに対してドーパミンアゴニストの役割を果たす[12]。このことが、リスクの比較的高いモルヒネなどオピオイドを代替する鎮痛薬としての医療研究に道を開いたといえる。

翌年1991年に発見されたカンナビノイド受容体タイプ2(英語版) (CB2受容体)はミクログリアに発現している。CB2Rは、活性化すると上方制御(英語版)される。統合失調症は、CB2R遺伝子内の一塩基多型の発現や、CB2Rの機能低減に関連付けられているという説もある。(内因性)カンナビノイドによって、ミクログリア上のCB2Rが刺激され、ミクログリアが活性化する[13]

2006年の研究では、THCはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を抑制し、かつAChE PASと結合させ、脳の老化に関係すると言われているβアミロイドペプチドを減少させることが発見されている[14]。この効果は、AChE PASとアルツハイマー型認知症の因果関係が証明されて以降[15]、アルツハイマー治療の一定の目標となっていた[16]
生理的効果

使用後すぐに現れる主な生理学的影響として、心拍数の上昇、口の渇き、目の充血、眼圧の低下、集中力の低下、食欲の増進が上げられる。また血圧の変化、気管支の拡張、嘔吐反応の抑制、眠気、喉の渇きと食欲の増加などがある。また、脳波アルファ波が通常より若干低い周波数で、長く持続することが知られている[17]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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