大陸移動
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パンゲア大陸の分裂スナイダー=ペレグリニによる図ヴェーゲナー『大陸と海洋の起源』第4版(1929年)より

大陸移動説(たいりくいどうせつ、: continental drift theory, theory of continental drift)は、大陸地球表面上を移動してその位置や形状を変えるという学説。大陸漂移説(たいりくひょういせつ)ともいう[1]

発想自体は古くからあり様々な人物が述べているが、一般にはドイツ気象学者アルフレート・ヴェーゲナーが1912年に提唱した説を指す。ヴェーゲナーの大陸移動説は発表後長く受容されなかったが、現在はプレートテクトニクス理論の帰結のひとつとして実証され受け入れられている[2]
大陸移動説前史

ヴェーゲナーは大陸移動を思いついたきっかけとして、大西洋両岸の大陸の形状(特にアフリカと南アメリカ)が一致することをあげているが、これについて言及している人物は、もっとも古くはフランドルの地図製作者アブラハム・オルテリウス (1596年)がいる[3]フランシス・ベーコンも1620年に西アフリカと南アメリカの形状の一致について述べており[4]、セオドア・クリストフ・リリエンタール(Theodor Christoph Lilienthal、1756年)は大西洋にあったとされる大陸アトランティスの沈降と海水準の変動に絡めて考察している[3]。また、アレクサンダー・フォン・フンボルト(1801年, 1845年)は、「大西洋は一種の巨大な河底として誕生した。そしてその河川水がまわりの大陸の海岸線を削り取っていった」と述べており、その理由として南緯10度以北の海岸の並行性をあげている[5]。アントニオ・スナイダー=ペレグリニ(英語版)は1858年に『天地創造とそのあばかれた神秘』という本の中で南北アメリカをヨーロッパとアフリカに結合した図を載せている[5]

具体的に証拠をあげて、かつて大陸同士がつながり超大陸を形成していたと述べたのはエドアルト・ジュース(1901年)で、ペルム紀に栄えた裸子植物グロッソプテリスの化石の分布から、南アメリカ、アフリカ、インドが一つの大陸だったと考え、ゴンドワナ大陸と名付けた。また、アルプスの山から海底堆積物や海生生物の化石が見つかることから、かつてそこは海の底であったと考え、地中海よりも広かったそれをテチス海と名付けている。しかし、彼は大陸自体が動いたとは考えておらず、当時の地球収縮説を使って説明している[6]

また、ウィリアム・ヘンリー・ピッカリングは1907年に、かつて超大陸として1つだった南北アメリカとヨーロッパ、アフリカが、太平洋から分離したため分裂を始めたという考えを述べている。1909年にはロベルト・マントヴァーニ(英語版)が地球膨張説を提唱し、膨張により大陸間の相対距離が増大したとしている。さらに1910年にフランク・バーズリー・テイラー(英語版)が山脈の形成システムを述べた本の中で、大西洋中央海嶺があるため大西洋が広がって大陸が移動したという、後の海洋底拡大説に似た説を述べている。
ヴェーゲナーの登場ヴェーゲナー(1910年)。しばしば専門外の学者という攻撃をされたが、当時気象学は大気物理学の一分野であり、地球物理学者のひとりだった[7]

1912年1月6日に、フランクフルト・アム・マインで行われた地質学会の席上で、ヴェーゲナーは太古の時代に大西洋両岸の大陸が別々に漂流したとする「大陸移動説」を発表した。ヴェーゲナーの大陸移動説は、測地学地質学古生物学古気候学地球物理学など様々な当時最新の資料を元にして構築されたもので、彼以前の説とは詳細度や学術的正確性などがはっきり異なったものだった。また、明確に「大陸移動(: Kontinentalverschiebung、: continental drift)」という言葉を使ったのもヴェーゲナーが最初であった[5]

さらに1915年に出版された著書『大陸と海洋の起源』の中で、彼は、石炭紀後期に存在していた巨大な陸塊(超大陸)が分裂して別々に漂流し、現在の位置・形状に至ったと発表した。この本は1920年(第2版)、1922年(第3版)、1929年(第4版・最終版)と出版され、各版はそれぞれ初めから完全に書き直されている。このうち第3版が英語へ翻訳され、主な議論はその版の内容で行われた[7]。ヴェーゲナーはこの分裂前の超大陸を「パンゲア」と名付けたことで有名だが、じつは第3版の最終章でほんの軽く述べているだけで、第4版ではパンゲアという呼称は記述されていない[8]
ヴェーゲナーの大陸移動説ゴンドワナ大陸の化石の分布。キノグナトゥス(橙色)、メソサウルス(青色)、リストロサウルス(茶色)、グロッソプテリス(緑色)

彼は、大陸が移動したという判断の根拠として、以下のようなものをあげている。
地形学的根拠
大西洋両岸の大陸を、海岸線ではなく大陸棚の端を使ってつなぎ合わせるとうまく一致すること。これは1965年にエドワード・ブラードらによって、コンピュータを使って水深約900m(500ファゾム)でつなぎあわせた図が作られ、その対応性がはっきりと示されている[9]
地球物理学的根拠
地殻表面の高さの頻度曲線をとると陸地と海底によって代表される2つのピークが存在する。これは大陸地殻と海洋地殻が2つの異なった層であり、もとから成り立ちが異なることを示している。大陸地殻はアイソスタシーのエアリーモデルをとると氷山のように海底地殻の上に浮かんでいるモデルが考えられ、地球表面を完全に覆い尽くしていないため、そこで大陸の水平移動の可能性が生じる。また、地殻を構成している物質も、地震波のような短周期では弾性体のように振舞うが、地質学的時間のスケールで力をかけ続けると、粘性率によっては流体のように振舞うだろうと述べた[5]
地質学的根拠
アフリカ、南アメリカ両大陸の大西洋両岸における地質構造の一致。例えば、ブエノスアイレスのシエラ・デ・ラ・ヴェンタナ山脈と南アフリカのケープ山脈の褶曲構造の一致やダイヤモンドを含む特殊な岩石キンバーライトの分布状況、ブラジルとアフリカの巨大な片麻岩台地の岩石や走向の一致など。これらは主にアレクサンダー・デュ・トワによって詳細に調べられた。ヨーロッパと北アメリカの大西洋両岸の地層の一致。例えば、スコットランドカレドニア山脈を横断している断層が、北アメリカのボストンからニューファンドランド島に広がっているカボット断層につながっていることをツゾー・ウィルソンが発見している。
古生物学的根拠
グロッソプテリスの分布、単弓類キノグナトゥスリストロサウルス及び淡水生のメソサウルスの分布、ヨーロッパ全域と北アメリカのニューファンドランドの一部でみつかる三葉虫の分布状態など。
生物地理学的根拠
海を越えて渡ることができないミミズのある属 (Ocnerodrilidae, Acanthodrilidae, Octochaetidae)の分布、ある種の淡水ザリガニ(Limnocalanus macrurus)の分布など、いくつかの不思議な隔離分布が知られている。生物地理学ではこれを説明するのに陸橋説があったが、大陸移動があって、以前は陸続きであったとする方が遙かに説明がたやすいとした。


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