大脳皮質基底核変性症
[Wikipedia|▼Menu]

大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう、corticobasal degeneration、CBD)とはパーキンソン症候群を示す神経変性疾患の一つである。病理診断の際に用いられる病名であり、臨床診断ではCBS(Corticobasal syndrome 大脳皮質基底核症候群)という。同様に進行性核上性麻痺 (PSP) では臨床診断はPSP-like syndrome (PSPS) といい、病理診断でPSPという。CBDはPSPと嗜銀顆粒性認知症とともに4リピートタウオパチーに分類される神経変性疾患である。
疫学

日本における正確な統計は存在しない。人口10万人当たり2人程度でやや女性に多いとされている。発症年齢は40 - 80歳代で平均60歳代である。発症から死亡までの経過は3 - 20年、平均6 - 8年であるがばらつきが多い。
タウオパチー

進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症などがタウオパチーとして知られている。1975年タウは神経系に特異的に発現する微小管結合蛋白質として発見された。微小管はα、βチューブリンのヘテロ二量体からなる主要な細胞骨格のひとつと考えられている。タウは細胞内において微小管の重合促進および安定化、細胞骨格構造の形成、維持に重要な役割を果たし、その機能はリン酸化(大きな電荷によるコンホメーション変化)によって調節されている。タウ遺伝子はヒトでは17番染色体上17q21.2に存在し、16個のエクソンからなる。タウは単一遺伝子から転写されたpre-mRNAが選択的スプライシングされることで6つのアイソフォームが発現する。エクソン2,3,10の選択的スプライシングの結果アミノ酸352 - 441個の6つアイソフォーム、即ち352(0N3R)、381(1N3R)、383(0N3R)、410(2N3R)、412(1N4R)、441(2N4R)ができる。Rはタウのカルボキシル基末端側の微小管結合部のリピート数を示す。微小管結合部はエクソン9 - 12にコードされておりエクソン10を含む4Rタウとエクソン10を含まない3Rタウに分けられる。タウの微小管結合能は4Rの方が大きくN末端の配列は影響しない。NはタウのN末端部位に存在するプロジェクション領域と言われる部分のプロフィールであり微小管の間の間隔を決定している。エクソン2.3の有無によって決定されエクソン2,3ともに認められないと0Nであり、エクソン2がある場合は1N、エクソン2.3ともにあれば2Nと分類される。ヒト胎生期 - 新生児期は352(0N3R)のみ発現するが成人では6つのアイソフォームすべてが発現する。これは微小管ネットワークのダイナミクスを保つ上で3Rタウによる微小管形成が必要であり、安定な微小管ネットワークを保持するには4Rタウによる微小管形成が必要である可能性が示唆されている。神経細胞内線維状封入体を形成するタウのアイソフォームは各疾患によって異なり主に3R型、主に4R型、あるいは3R、4R両者が同じ比率で含まれるタイプに分類される。3R型にはピック病、4R型には進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症など、両者にはアルツハイマー病などがある。
CBD疾患概念の成立

1968年にRebeizは進行性の左右非対称な筋強剛と失行に加え、皮質性感覚障害、他人の手徴候、ミオクローヌスジストニアを認める3症例を報告した[1]。病理学的には大脳皮質黒質、小脳歯状核の変性と胞体が大きく膨らみ、染色性の悪いballoned neuronを認め、corticodentatonigral degeneration with neuronal achromasiaと名付けられた。その後CBDは左右体非対称、大脳皮質症状(失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候、ミオクローヌスなど)、錐体外路症状(レボドパ不応性の筋強剛、無動、ジストニア)を臨床的特徴とし、大脳皮質線条体黒質の神経細胞の脱落とグリオーシス、大脳皮質におけるballoned neuronと神経細胞、アストロサイトオリゴデンドログリアにおけるタウ蛋白の蓄積を病理学的特徴とするという疾患概念が定着した。

1992年頃からCBDと臨床診断された症例の病理診断について議論されるようになり1999年にBoeveはCBDと臨床診断した13例で病理診断もCBDとなったのは7名でありCBDを正しく診断するには病理診断を必要とすると報告した[2]。2001年にCordatoらが臨床診断名としてはじめてcorticobasal syndrome(CBS)という名称を使用した[3]。2003年にBoeveらがCBSを臨床診断名、CBDを病理診断名として区別して使用し現在に至っている[4]
CBSの臨床診断

複数のCBSの臨床診断基準が提唱されている。代表的なものはトロント基準、メイヨー基準[4]、ケンブリッジ基準[5]の3つが知られている。ケンブリッジ基準は後に改定された[6]。これらに共通する特徴としてはCBSを進行性、非対称性で失行を伴うakinetic rigidity syndromeと考えていること、それぞれの診断項目がどの時期に出現するかについては言及がないこと、診断項目は前向きの自然歴研究に基づくものではなく専門家の経験に基づくものであることといった特徴があげられる。相違点は認知機能障害の重み付けが各基準で異なっている。CBSの診断基準としては改訂ケンブリッジ基準がよく用いられる[6]

その後、病理学的なCBDの表現型が非常に多彩であることが明らかになりCBS以外の表現系を含むアームストロング基準が作成された[7]。CBS以外の表現系を含む基準という点ではアームストロング基準は画期的であるが妥当性の検証では感度、特異度とも高くなかった[8][9]。CBDとアルツハイマー病の区別が困難なことが原因の一つであった。
臨床診断CBSの背景病理診断

臨床診断CBSにおける背景病理診断は複数の報告がある。CBDは半数未満であり、PSPとアルツハイマー型認知症が20%程度であった。LingらはCBSからCBDを除外する所見としては2年以上にわたってL-DOPAが有効であること、罹患年数が10年異常であること、発症2年以内に核上性眼筋麻痺が出現することを挙げている[10]。PSPを背景病理とするCBS (CBS-PSP) は全体の2割程度存在する。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:35 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef