大気の川(たいきのかわ、英語: Atmospheric River、AR)は、細長い水蒸気帯である[1]。大気の川の内部では空気中の水蒸気輸送が強化されており、温帯低気圧とその前線を含んでいる[2][3][4]。大気の川は様々な呼称があり、熱帯の柱(ねったいのはしら、tropical plume)・トロピカルコネクション(tropical connection)・湿気の柱(しっきのはしら、moisture plume)・水蒸気サージ(すいじょうきサージ、water vapor surge)・雲の帯(くものおび、cloud band)などと呼称されている[5][6]。
一例としてはパイナップルエクスプレスと呼ばれている現象が挙げられる。これはハワイ周辺の水蒸気を含んだ流れが、北アメリカ大陸に属するカリフォルニア・ブリティッシュ・コロンビア・アラスカ南東部の緯度まで達することから名付けられており、これらの地域に豪雨をもたらす[7][8]。 Kamae et al. (2017)は I V T {\displaystyle IVT} (Integrated Water Vapor Transport)を、 g {\displaystyle {g}} を重力加速度、 p {\displaystyle {p}} を比湿、 u {\displaystyle {u}} と v {\displaystyle {v}} をそれぞれ水平風の東西・南北方向の成分とした上で、以下のように定義した。 I V T = ( 1 g ∫ 1000 300 q u d p ) 2 + ( 1 g ∫ 1000 300 q v d p ) 2 {\displaystyle IVT={\sqrt {({\frac {1}{g}}\int \limits _{1000}^{300}{qu}{dp})^{2}+({\frac {1}{g}}\int \limits _{1000}^{300}{qv}{dp})^{2}}}} この上で ものを「大気の川」としている[9]。 2019年にen:Geophysical Research Letters 大気の川のカテゴリ[11]CatStrengthImpactMax. IVT[注釈 1] スクリップス海洋研究所のCenter for Western Weather and Water Extremes(CW3E)は、2019年2月に「弱い(Weak)」から「破格(Exceptional)」、「有益(beneficial)」から「災害的(hazardous)」までの5段階で大気の川を分類する方法を発表した。これはCW3Eの長であるF. Martin Ralphと、アメリカ国立気象局のJonathan Rutzなどによって作成されたものである[12]。この分類は水蒸気の輸送量と大気の川の継続時間双方を考慮したものである。垂直方向の3時間平均水蒸気輸送量で初めにランクを決め、次に継続時間が24時間未満ならランクを1下げ、48時間以上ならばランクを1上げるようにされている[11]。 「大気の川(Atmospheric River)」という用語は、1990年代前半にマサチューセッツ工科大学の研究者であったReginald NewellとYong Zhuによって水蒸気の帯の狭さを表現する言葉として作られた[2][4]。大気の川は長さ数千キロメートル、幅数百キロメートルに及ぶこともあり、1つの大気の川が輸送する水蒸気量はアマゾン川を超えることもありうることが明らかとなった[3]。大気の川は通常半球につき3から5個存在しており、これの強さは過去1世紀と比較してわずかに強くなっていることも明らかとなった[13]。 データモデリングの進歩に伴って、特定の気柱内のみの水蒸気量を考えるIWV(Integrated water vapor)のみならず、時間的な移動を捉えることが可能なIVT(Integrated Water Vapor Transport)が大気の川の解析に対して用いられるようになった[14]。 2011年のアメリカ地球物理学連合が発行するEoS誌 大気の川は地球上の水循環に大きな影響を及ぼしている。緯度方向での水蒸気輸送量では10%以下であるが、経度方向での水蒸気輸送量の90%を大気の川が担っている[3]。また、地球上で発生する水蒸気の拡散の内、22%が大気の川によるものであるとされている[16]。 北アメリカ大陸の西海岸[17][18]、西ヨーロッパ[19]、北アフリカ[4]、イベリア半島、イラン[20]、ニュージーランド[16]などといった、中緯度帯の西岸において洪水を引き起こす異常な降水の原因として大気の川の存在が挙げられている[21]。反対に大気の川が存在しないことによることで、南アフリカやスペイン、ポルトガルなどで旱魃が発生していると考えられている[16]。
定義
IVTが平年値と140以上の偏差がある。
780000平方キロメートルを超える面積
1500キロメートルを超える長さ
短辺と長辺の比が1.325を超える
分類
1WeakPrimarily beneficial?250?500
2ModerateMostly beneficial, also hazardous?500?750
3StrongBalance of beneficial and hazardous?750?1000
4ExtremeMostly hazardous, also beneficial?1000?1250
5ExceptionalPrimarily hazardous?1250
歴史2015年12月5日に観測された強い大気の川の層状降水量
影響
アメリカ合衆国GOES11衛星による2010年12月北アメリカブリザード
西海岸に所在するカリフォルニア州では降雨量が一定しない。この原因の一つとして考えられることが暴風雨の規模や回数が一定しないことであり、それがために水収支が一定しない。このためカリフォルニア州は水管理と暴風雨の予測に対する研究の重要なケースとなっている[7]。大気の川はカリフォルニア州の年間総雨量のうち、30%から50%に関与していることが2013年の研究で明らかとなっている[22]。2018年11月23日に発表された合衆国地球変動研究プログラム(英語版)(USGCRP)の第4次国家気候評価(英語版)報告書では、米国西部沿岸における降雨と積雪の30?40%を「着陸する大気の川(landfalling atmospheric rivers)」が占めている」としている[23]。この「着陸する大気の川」はカリフォルニア州のみならず、合衆国西部の州における深刻な洪水との関連性が指摘されている[8][21]。13の連邦機関が関係するUSGCRPはその提言の中において、「地球温暖化に伴う蒸発量の増加と大気中の水蒸気量の増加によって、西海岸へ上陸する大気の川の頻度と深刻さが増す可能性が高い」とした[8][23][24][25]。