大山崎油座
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大山崎油座(おおやまざき あぶらざ)[注釈 1]は、日本鎌倉時代前期頃から戦国時代末期にかけて、京都の南西にある大山崎郷一帯(現在の京都府乙訓郡大山崎町および大阪府三島郡島本町)を本拠に、荏胡麻から採ったエゴマ油を広範囲に渡って独占販売した特権商人から構成されたである。座の構成員は主として離宮八幡宮神人であり、石清水八幡宮内殿への灯油貢納を本務とした。幕府朝廷の庇護を受け、原料の仕入れから製油・販売に至るまで独占的な特権を得て、塩や染料・麹など油以外の商品も扱った。その販売対象地域は畿内を中心に広範囲に及び、筑前国博多筥崎宮の油座や大和国符坂油座などをしのぐ、中世日本最大規模の油座であった。
荏胡麻油と大山崎神人
寺社の油需要荏胡麻(エゴマ)

中世日本において油は、主として照明用の灯油として用いられ、その他に雨具の塗油や食用などの用途があったが、主用途としての灯油の最大の需用は寺社の灯明用にあった。古代以来、寺社領としての封戸からの納入品や、荘園からの年貢という形で灯油を徴収していたが、やがて需要が高まるにつれ、十分な量を確保する必要性から、支配下の寄人神人らに製造・仕入れをさせることで、安定的な調達を確保するようになる。このような経緯から、大寺社に所属する寄人・神人から構成される油座が、平安時代後期から各地に出現するようになった。この時期に成立したものでは、醍醐寺三宝院や博多筥崎八幡宮の油座が有名である。

油の原料としては、荏胡麻[注釈 2]胡麻、海石榴(ツバキ)、魚脂などがあったが、なかでも荏胡麻が主要原料であった。荏胡麻は古代には主に食用として用いられることが多かったが、種子から油を取る方法が開発されたのに伴い、製油を目的に栽培されるようになったものである。なお中世後期から近世にかけて油の原料として新たにゴマ、綿実菜種などが加わり、油そのものの用途も多様化していく。
大山崎の八幡宮神人石清水八幡宮 本殿離宮八幡宮 本社拝所戦前の北海道で、鰊油、鰊粕製造に使われていた圧搾機。エゴマ絞りの圧搾機も、これと似た形式だった。

大山崎の神人たちは、大山崎郷の西国街道沿い十一保を本拠地として離宮八幡宮に所属する一方、本社である石清水八幡宮(男山八幡)の内殿灯油の貢進を行っていた神人たちであるとされる。

大山崎の地は、白雉4年(653年)に孝徳天皇が山崎宮を造営させ、神亀2年(725年)には行基山崎橋を造るなど、古くから景勝地としても知られていたが、平安京造営後は都のすぐ南西にあたり、山城摂津の国境の地であり、また淀川水系の桂川と宇治川、木津川の合流地点という水陸交通の要衝であるため、平安京の外港としても栄えた地であった。桓武天皇嵯峨天皇行幸の際に行宮としてたびたび立ち寄っており、山崎離宮とも呼ばれた(唐風文化を好む嵯峨天皇は河陽宮と呼んだ)。大山崎の地に鎮座する離宮八幡宮の起源は、清和天皇代の天安3年(859年貞観元年)に宇佐八幡神を都の近くへ勧請した際、いったん大山崎の嵯峨天皇離宮に上陸し、のちに男山に遷座したことによるという。この故事にちなみ、毎年4月3日に行われた神事「日使頭祭(ひのとさい)」に際して、頭役として勤仕して神人の身分を獲得したのが大山崎神人とされる。

しかし小西瑞恵によれば、以上のような離宮八幡宮の縁起は不明な点が多いこと、大山崎に少なくとも10世紀末まで離宮が存在したこと、『離宮八幡宮文書[3]』に残された文書が、鎌倉時代の2通を除きほとんど14世紀以降のものであることなどから、離宮八幡宮が石清水八幡宮と同時に成立したとは考えられず、八幡宮社としての成立はかなり年代が下るとの説を提唱した[注釈 3][5]脇田晴子も、離宮八幡宮には中世から現代に至るまで氏子集団・組織が存在せず、また中世において明確な所領を持っていなかったことを明らかにした[6]。離宮八幡宮の名称も縁起類を除けば細川政元書状に見える文明年間(1469年 - 1487年)のものが初見であり[7]、離宮八幡宮は南北朝時代から室町時代初め頃に成立した[注釈 4]とみる説が有力となっている。そのため、それ以前の史料中に「大山崎八幡宮神人」とある場合、離宮八幡宮神人ではなく、石清水八幡宮神人を意味する可能性が高い[注釈 5]

大山崎に古くから油絞りに携わる者がいたことは、平安時代末期に成立した『信貴山縁起絵巻』飛倉巻に、山崎長者の家に油締木や荏胡麻を煎るための竈・釜が描かれていることからも明らかである。また鎌倉時代初期には小倉百人一首で有名な歌人藤原定家が「山崎油売小屋」の家に泊まったことが日記『明月記[8]に残されている。


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