大学通信教育
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大学通信教育(だいがくつうしんきょういく、: university correspondence education, distance learning)は、大学が行う通信教育。通信制大学。
概要

本項では、主に日本における制度について述べる。また、日本の大学については本稿では短期大学大学院専門職大学院専門職大学専門職短期大学を含む。

日本においては、大学通信教育とは学校教育法に定められた通学の課程と同等の課程であり、学位が授与される正規の課程で行われる教育を指す。一般的には「通信制大学」と呼称される。2021年時点では私立大学でのみ行われている。

大学によっては生涯学習講座やオープンスクール等の正規の課程以外の講座や教育が行われている場合もあるが、これらは学校教育法に定める大学通信教育には含まれない。同様に、社会教育法に基づく認定社会通信教育を行っている大学もあるが、これも大学通信教育とは異なる。

大学通信教育は、主に「印刷教材等による授業」(自己学習)と「面接授業」(スクーリング)によって行なわれることが多く、単位修得試験などの審査に合格することで単位を修得する。単位修得試験は、同じ大学の通学課程に比べて難易度が高いことが多い。長い歴史を持つ郵送手段を用いた大学通信教育課程は、社会人の場合は仕事との折り合いをつけ面接授業に出向く必要があるなどハードルが高く、時間の自由度の高い学生の場合でも卒業後の就職サポートが存在しないなどの点があった。しかし、通信教育課程の学生に対しても就職サポートを行う大学が現われ、2010年代に入りブロードバンドインターネット接続が急速に普及してきたことにより、面接授業の他にメディア授業を行う大学が増加を続けるなどの変化が起きている。大学独自のSNSを開設し、通信教育の課題であった「友人を創ることの難しさに伴う孤独」による学習意欲の低下の緩和を図っている大学もある。

通信制大学で学べる分野は、主に文科系の領域であるが、文科系以外の領域も徐々に学べるようになってきている。また大学によっては、一定の単位を取得し通学課程へ編入するための試験を受けることができる。

入学者選考については、大学[1]や短期大学では出願時の書類により行われることがほとんどであり、入学試験が行われることは少ない[2]。ただし、「小論文」や「志望理由書」等の提出を必要としそれらも含めて選考する学校もあり、より少数ではあるものの面接試験が行われる場合もある。また大学院の課程では、専門科目の筆記試験・実技試験を始め、研究計画書の提出を通じた選考及び面接試験が行われることがほとんどである。

修業年限以上在学した上で、規定数以上の単位を修得すると、教授会の選考を経て「卒業」が決定される。大学(学部)や短期大学では卒業論文卒業制作が卒業の要件となっている学校は通学の課程に比べ少ないが、大学院のほとんどなどを含め必修の場合はそれらの合格も必要である。卒業が決定されると当該大学の卒業生として「学位」を取得できる。

通学の課程の大学に比べると、通信制の大学の卒業率・修了率はかなり低いが[3]、学校により大きく差がある[4]。また、社会人等で修学に費やせる時間が限られる学生が多いこともあり、修業年限を超えて卒業する学生の割合も通学の課程に比べると非常に多い[5]。最長在学年限については、通学の課程と同様に大学(学部・4年制)で最長8年の学校もあるが最長12年の学校も多く、長期間の在学を認めている学校も少なくない[6]

通信制大学に最長在学年限を超えて在籍し、卒業に至らなかった場合は「除籍」となる。しかし、同一の学校の同一の課程に再度入学した場合、除籍時点で修得していた単位や修学年数をそのまま認定する「再入学」[7]という制度を設けている学校が大半で、より長期間に渡り修学し卒業を目指すことは可能である[8]

通信教育課程を設置する私立大学相互の協力によって、大学通信教育の振興を図ることを目的とする「公益財団法人私立大学通信教育協会」が組織されている。この協会に加盟していない通信制大学も存在するが、加盟か非加盟かを問わず、すべて文部科学省に認可された正規の教育課程である。

私立大学通信教育協会では、通信教育を希望する者を対象に加盟校による合同入学説明会を各地で行なっている。説明会では各校の職員による相談を受けられるほか、案内資料を入手することができる。実施予定については同協会のサイトを参照のこと。

なお、私立大学通信教育協会への加盟にあたっては、学部の課程・大学院・短期大学というように、それぞれ別個に扱われている。「日本の高等教育#通信課程」も参照
歴史

日本において大学通信教育の嚆矢と見なされているのは、明治期に各学校によって設けられた校外生制度である。この制度は実際に行われた講義の内容を講義録として編纂し刊行するというものであり、今日の大学通信教育課程のようにスクーリングや試験によって単位や卒業が認定されるものではなく、その意味で双方向的ではなくいわば「知識の伝授」という一方的な性格のものであった[9]

校外生制度の開始時[10]校名開始時備考
明治義塾1884年9月11日翌年7月廃校
英吉利法律学校1885年7月30日規則成立。10月発足
東京法学校1885年11月5日発足。1885年9月中央法学会組織
東京専門学校1886年5月15日翌年9月制度化
専修学校1887年1月前年12月募集開始
明治法律学校1887年9月講法会成立
関西法律学校1887年12月8日講義録発行開始
哲学館1888年1月館外生規則制定

現在のような形態の大学通信教育は、1947年(昭和22年)4月施行の学校教育法によって制度化されたものである。当時は同法第45条「高等学校は、通信による教育を行うことができる。」との定めを第70条により大学にも準用すると定められていたのみで、法令では詳しい基準は定められていなかった。ただし、同年には大学基準協会が自主的な基準として「大学通信教育基準」を定め、その後1950年以降に大学の正規の課程として大学通信教育が認可される際は、この大学通信教育基準に則って課程が編成され実施されることになる。

1947年(昭和22年)10月には学校教育法施行後初めて法政大学で大学通信教育の課程が開講した。1948年(昭和23年)には法政大学・慶應義塾大学において初めて大学通信教育課程のスクーリングが行われている。これらはあくまでも社会通信教育的な性格のもので大学の正規の課程としては認められていなかったが、1950年(昭和25年)3月に正規の大学教育課程として認可された(この時認可されたのは法政大学・慶應義塾大学の他、中央大学日本大学日本女子大学玉川大学の各課程)。1952年(昭和27年)には、法政大学・慶應義塾大学から初めて通信教育課程による卒業生が輩出された。1955年(昭和30年)には、浪速短期大学(現大阪芸術大学短期大学部)において短期大学で初めて通信の課程が認可された。

以降、1960年代から1970年代にかけては、通信制の課程を新設した大学は関東地区の大学が多く、関西圏および首都圏以外では一部の大学が実施している他はあまりなかった。

1981年(昭和56年)にはテレビ・ラジオ放送による教育を行う放送大学が設立された。1981年(昭和56年)4月に大学通信教育設置基準が施行され、1982年(昭和57年)4月に短期大学通信教育設置基準が施行された。それまで大学側の自主的な基準という形で制定されていた大学通信教育基準に代わり、法令による基準が定められた。ただし、その後も大学通信教育基準は、法令の各設置基準に従うよりも具体的な自主的な基準として現存している。

1980年代においては、放送大学の設立はあったものの、それ以外には新たに通信教育をおこなう大学の数は伸び悩んだ。しかし1990年代に入ってから、少子化による学校経営への影響や生涯学習への意欲の高まりからか、少しずつ日本全国の大学で通信教育を開講する大学が増加した。

2000年代になってからは、ブロードバンドインターネット接続が広範囲な地域で利用できるようになったことに伴い、新たな試みとしてe-ラーニングインターネットの活用、動画・音声配信による講義の視聴、各種プログラムの演習など)による教育を提供する大学が現れている。

大学院については、通信課程は長らく認可されていなかったが、1998年(平成10年)3月大学院設置基準が改正され、通信制大学院の開設が可能となった。1999年(平成11年)4月修士の学位を授与する課程が設置された(最初に設置したのは日本大学佛教大学明星大学聖徳大学)。次いで2003年(平成15年)には博士の学位を授与する課程も設置された。


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