夢千代日記
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『夢千代日記』(ゆめちよにっき)は、NHKの『ドラマ人間模様』で放送された3部作のテレビドラマである。

社会や人間の断片を切り取り、人生を深い視点で捉えるヒューマンドラマというコンセプトのシリーズ[1]

作:早坂暁[2]、主演:吉永小百合、音楽:武満徹で、映画化や舞台化もされ、舞台では他の女優たちにより、主人公・夢千代が演じられている。

夢千代日記 [3]1981年2月15日 - 3月15日放送、全5話

続 夢千代日記:1982年1月17日 - 2月14日放送、全5話

新 夢千代日記:1984年1月15日 - 3月18日放送、全10話
湯村温泉

物語の舞台は兵庫県美方郡温泉町(現:新温泉町)で、同町の湯村温泉はこのドラマ放送後、「夢千代の里」として一躍脚光を浴びた[4]。現在、温泉街の中心部である荒湯のそばに吉永小百合をモデルにした「夢千代の像」が建てられている。また平成16年11月に資料館「夢千代館」がオープンし、館内には湯里銀座や煙草屋旅館内部などが再現されている。物語中で芸者たちが度々舞う「貝殻節」は山陰地方でのみ知られる民謡だったが、このドラマで一躍全国的な知名度を得た。
概要

主人公の夢千代は母親の胎内にいたとき、広島で被爆した胎内被爆者原爆症を発病しており、余命3年と宣告されている。物語はその夢千代を取り巻く人々の生き様を山陰の冬景色を背景に物悲しく描く。ストーリー展開は夢千代が毎日書き綴っている日記が軸となっており、随所に夢千代が日記の一部を読んでいるナレーションが盛り込まれている。また、湯村を訪れる謎の人物がシリーズ毎に登場し、次第にその過去が解き明かされていくというミステリー的な魅力もある。余部鉄橋

三部とも物語の冒頭は、夢千代が原爆症の治療に神戸の病院へ行き、その帰りに山陰線の列車が余部鉄橋にさしかかるころの車内から始まる。
創作の経緯

早坂は終戦後、海軍兵学校から松山に帰郷の途中、原爆投下直後の広島の惨状を目撃している[5][6][7]。真っ暗な闇の中で、折からの雨の中、無数のリンが燃えていた。原爆で亡くなった人たちの身体から発する燐光で、地球が終わるときはこのような光景ではないかと思った。そんな中、どこからともなく赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。こんな地獄のような中で、新しい生命が誕生していることに感動を覚えた。物書きになってから「いつか原爆のことを書こう。書かなければいけない」とずっと心に決めていた[8][5]吉永小百合との仕事が決まったとき、彼女が敗戦の年である昭和20年生まれだということでく[9]、あの時の赤ん坊を吉永だと思って書くことにした。やわらかい色物の世界に被爆した女性を登場させた方が、原爆反対を声高に叫ぶよりも、人の心に訴えるのではないかと考えた[8]

湯村温泉には小説を書く前に行ったことはなく余部鉄橋を現地で見て「凄い」と感動し、「トンネルを越えて鉄橋に出ると雪だった」という一節が思い浮かんだ。早坂は瀬戸内の生まれで、日本海の暗い、海鳴りの聞こえるところに興味があった。山陰の温泉に何度か足を運び、作品の場所は日本海に面したひなびた温泉にしたいと考え[10]そこから近くの温泉町を探し湯村温泉を選んだ[8]。吉永のような美しい人がなぜひなびた温泉で芸者をしているかの説明に仕組みが必要で、そこに広島で泣き声を聞いた赤ん坊を投影した[9]

また高度経済成長に乗り遅れた裏日本日本人が落とした大事なもの、それを癒すものが山陰の小さな温泉町に残っていて、そこへ逃げてきた人が助けられて帰っていくというユートピアを作ってみた[8][6]。登場人物のほとんどがどこか心身に傷を負った人たちが多いのは、早坂自身が当時病気がちで、もう長く生きられないかもしれないと考えざるを得ない状況に置かれていたためで、今度書くものが最後になるかもと思う時期だったからである。夢千代を終わらせたら自分も死ぬのでないかという懸念があった[9]。視聴者からの評判もよく、出演者やスタッフからも「続けましょう」と励ましを受け続編を重ねたが、第一部で夢千代の命はあと3年と限定し、翌年の第二部であと2年としたのでさらなる続編が苦しくなっていった。「新・夢千代日記」では松田優作が演じた元ボクサー・タカオと、地元の出身で明治の歌人・前田純孝を二重写しにした。前田純孝は、湯村温泉あたりの本屋に立ち寄ったとき、地元の人が作った小冊子を見つけ「西の啄木といわれた歌人」という記述に興味を持ち、調査を重ねてタカオの人物造形に取り入れた[9]

夢千代という名前は鳥取県三朝温泉に実在した芸者の名前[9][8]で、名前が素敵だったので拝借した[9]。境遇や人物像は似ていないが、ドラマの中で、樹木希林演じる菊奴が話す、淡路島を見て「旦那さん、あれ外国ですか?」と言う芸者の逸話は、実在の夢千代のエピソードである[11]
夢千代日記
あらすじ

湯里の置屋「はる家」の女将・夢千代は神戸の病院からの帰りに山陰線急行列車の中で川崎からやってきた山根刑事と知り合う。山根は殺人容疑で「はる家」の元芸者・市駒を追っていると告げ、「はる家」で張り込みを続ける。そんなとき、湯里警察署捜査課長・藤森警部の許に、6年前に湯里の海岸で金魚と心中した橋爪信之の母と妻が訪ねてくる。ふとしたことから生き残った金魚に女の子(アコちゃん)がいると知り、亡き息子の子供だから引き取りたいと金魚に談判する。しかし、おスミさんの話から女の子は金魚の実子ではなく、木原医師のところからもらわれてきた赤ちゃんだったと判ってしまう。そこに木原医師が父を亡くし身寄り頼りがなくなった足の不自由な少女・時子を伴って、芸者にしてほしいと「はる家」を訪ねてくる。

また、山倉の縄張りだった湯里に広島の暴力団・サン商会の沼田が勢力拡大のため子分を引き連れ乗り込んできて、夢千代に「はる家」の面倒を見たいと申し出るが拒絶されてしまう。沼田は広島で被爆した際、夢千代の母に助けてもらったと言って、仏壇に線香をあげて去っていく。一方「はる家」で張り込みを続けていた山根が胃潰瘍で吐血し、木原診療所に担ぎ込まれる。その晩「はる家」に市駒から電話がかかってくるが、夢千代は山根が湯里に来ていることを知らせ、いま「はる家」に来てはいけないと告げる。千代春は子宮癌の末期症状で寝込んでしまい、木原医師に睡眠薬をねだる。翌日、菊奴からの情報で浜坂のスナックを訪れた夢千代は市駒と再会し、市駒は藤森に自首する。

木原診療所で療養していた山根は親切で評判のいい木原医師が事情のある赤ちゃんを斡旋していることを知り、藤森に調査を勧める。藤森は医師免状の提出を求めるが、木原は明日にしてくれと言う。翌早朝に木原は千代春に睡眠薬を届け、自分がニセ医者であることを告白し、町から出て行くと言うと、千代春は一緒に連れて行ってくれと懇願し、二人は湯里を後にする。一連の出来事を見ていた山根は人間の弱さや優しさに打たれ刑事を辞めてしまう。数日後、湯里で時子の芸者・小夢としてのお披露目がささやかに行われた。長く厳しい山陰の冬ももうすぐ終わりを告げる。
キャスト
はる家の人々

夢千代(永井左千子):
吉永小百合 - 置屋「はる家」の女将

千代春:楠トシエ - はる家の年増芸者

菊奴:樹木希林 - はる家の年増芸者

雀:大信田礼子 - はる家の芸者

金魚:秋吉久美子[12] - はる家の芸者

小夢(時子):中村久美 - はる家の半玉

アコちゃん:大熊なぎさ - 金魚の娘

スミ(おスミさん):夏川静枝 - はる家の女中

煙草屋旅館

泰江:
加藤治子 - 煙草屋旅館の女将

泰男:岡田裕介 - 泰江の息子

兼子(おカネさん):佐々木すみ江 - 煙草屋旅館の仲居頭

トシ子:香山エリ - 煙草屋旅館の仲居

湯里町の人々

藤森刑事:
中条静夫 - 湯里警察署の捜査課長 ※実際は、警部

安岡巡査:松田茂樹 - 藤森刑事の部下

アサ子:緑魔子[13] - ストリッパー

安藤(アンちゃん):あがた森魚 - 湯里ヌード劇場の照明係

木原先生:ケーシー高峰 - 木原診療所の医師

作子:伊佐山ひろ子 - 木原診療所の看護婦

寄子:水原英子 - スナック白兎のママ

クーちゃん(邦子):内藤路代 - スナック白兎のウエイトレス

山本倉次郎(山倉):長門勇 - スナック白兎・湯里ヌード劇場のオーナー(町の顔役)

湯里町を訪れた人たち


橋爪信之:北村総一郎 - 東京の証券会社社員

橋爪トヨ子:村瀬幸子 - 信之の実母

橋爪節子:田島令子 - 信之の妻

春川団十郎:沢竜二 - 旅回り一座の座長

室川辰夫:香山浩介(現:藤堂新二) - 座員

沼田:草薙幸二郎 - 広島・サン商会(暴力団)の幹部

黒ダブルの男:丹古母鬼馬二 - 沼田の子分

黒メガネの男:堀礼文 - 沼田の子分

市駒(スーザン):片桐夕子 - 元ストリッパー・はる家の芸者

山根刑事:林隆三 - 神奈川県警川崎警察署の刑事

スタッフ

原作:
早坂暁

脚本:早坂暁

演出:深町幸男・松本美彦

音楽:武満徹

製作:勅使河原平八

方言指導:高橋ひろ子

三味線指導:豊藤美

踊り指導:松浦姉妹

協力:兵庫県美方郡温泉町

挿入歌

貝殻節 - 鳥取県民謡、芸者たちがお座敷で披露する。

赤色エレジー - あがた森魚、ストリップ小屋でのBGM。

最後のダンスステップ - あがた森魚、同上。

なみだ船 - 北島三郎、白兎のBGM。

TOKIO - 沢田研二、同上。

視聴率

第1回22.3%、第2回19.2%、第3回19.6%、第4回19.0%、最終回19.7%[14]
続 夢千代日記
あらすじ

夢千代は神戸の病院からの帰りに山陰線の列車の中で家出少女・俊子と出会う。夢千代は俊子に「はる家」に来ないかと誘う。すると「はる家」ではアコちゃんが誘拐されたと大騒ぎ。湯里にオープンする葵ホテルの従業員としてやってきた曽根佐和子が誘拐犯と間違われ湯里警察署に連行されるが、人違いとわかり釈放される。金魚は若い女とアコちゃんが白兎に立ち寄った話を聞き、女がアコちゃんの実母だと確信する。夜になってアコちゃんは湯里ヌード劇場に隠れているところをアサ子に発見される。葵ホテルのオープンで大量の客を皮算用している山倉は新人の踊り子ミッチー・ギャルソンを雇い、ヌード劇場に裸の背景画を描かせるため鳥取から商業画家を招く。芸者姿の夢千代を見た画家はこの人を描きたいと申し出るが山倉に却下されてしまう。

家出してきた少女は夢千代に好きな人を探しにきたと語り、夢千代は協力すると約束する。そこに藤森刑事がやってきて夢千代たちに少女の過去を暴露する。一方、ヌード劇場で背景画を描いている画家は何度描き直しても夢千代になってしまい、挙句の果てに山倉に塗りつぶされるのは見るに忍びないと逃げ出して「はる家」に夢千代を訪ねてくる。画家が貴方を描かせてくれと懇願しているとき、俊子が帰ってくる。この画家こそが俊子が探していた上村洋一という先生だったのだが…

その夜、突然佐和子がコンパニオン姿のままで「はる家」に駆け込んでくる。佐和子は閨の世話までしなければならないコンパニオンがイヤになって逃げ出してきたという。佐和子と奈美絵は一先ず煙草屋旅館に落ち着いた。上村は俊子に帰るように説得するが、なかなか承知しないので夢千代が好きだと言ってしまう。夢千代は俊子に「優しそうな人が一番酷いことをする」と言われショックを受ける。

翌朝、俊子は母親に引き取られ帰っていく。同じ頃クビになったミッチーとアンちゃんが駆け落ち同然に逃げていった。一方、小学校に奈美絵を取り返しに父親の矢口がやってきた。アコちゃんから知らされた佐和子は追いかけることを断念する。夢千代は原爆症の病状が重くなり寝込むが上村に会いたいと言って呼び出す。しかし、上村が「はる家」を訪ねると会えないと言い出す。上村は障子越しに春まで待つと告げ鳥取に帰る。

その後、上村から毎日のように手紙が来るが、夢千代は返事を書かなかった。おスミさんに勧められようやく上村に手紙を書くが、翌日藤森がイカ釣り船で遭難した上村洋一の悲報を知らせに来る。夢千代が上村の居室を訪れると一日違いで届いていた自分の手紙があった。夢千代は上村に描いてもらおうと思っていた芸者姿で鳥取砂丘に一人佇み、自分の書いた手紙を波に向かって読み聞かせる。春になれば、春になれば…。
キャスト

夢千代(永井左千子):吉永小百合

菊奴:樹木希林 - はる家の年増芸者

金魚:秋吉久美子 - はる家の芸者

小夢:中村久美 - はる家の半玉

アコちゃん:大熊なぎさ

スミ(おスミさん):夏川静枝

泰江:加藤治子 - 煙草屋旅館の女将

兼子(おカネさん):佐々木すみ江 - 煙草屋旅館の仲居頭

房子:
高橋ひろ子 - 煙草屋旅館の仲居

アサ子:緑魔子 - ストリッパー

安藤(アンちゃん):あがた森魚 - 湯里ヌード劇場の照明係

寄子:水原英子 - スナック白兎のママ

クーちゃん(邦子):内藤路代 - スナック白兎のウエイトレス

ミッチー・ギャルソン:條津レナ - 新入りのストリッパー

山本倉次郎(山倉):長門勇 - スナック白兎・湯里ヌード劇場のオーナー(町の顔役)

藤森刑事:中条静夫 - 湯里警察署の捜査課長

安岡巡査:松田茂樹 - 藤森刑事の部下

松崎先生:檀ふみ - 湯里小学校の教諭、アコちゃんの担任

池辺俊子:菊地優子 - 家出少女

曽根佐和子:いしだあゆみ - 新装開業した葵ホテルのコンパニオン

曽根奈美絵:市丸和代 - 曽根佐和子の娘


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