多項式環
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数学、殊に抽象代数学における多項式環(たこうしきかん、英語: polynomial ring)は係数を持つ一変数または多変数の多項式の全体の集合が成すである。多項式環はヒルベルトの基底定理分解体の構成、線型作用素の理解など数学のかなり広い分野に影響をもつ概念である。セール予想のような多くの重要な予想が、他の環の研究に影響をもち群環形式冪級数環のようなほかの環の定義にさえ影響を及ぼしている。
体上の一変数多項式環 K[X]「多項式」も参照
定義

K に係数を持つ不定元 X に関する多項式とは p = p m X m + p m − 1 X m − 1 + ⋯ + p 1 X + p 0 {\displaystyle p=p_{m}X^{m}+p_{m-1}X^{m-1}+\dotsb +p_{1}X+p_{0}} の形の式のことである。ここで p0, …, pm は K の元で、p の係数といい、X, X2, … は形式的な記号だが X の冪という。このような式には加法と乗法を定義できて、結合法則交換法則分配法則といった代数的な式の操作における通常のルールを適用し、同類項を纏めることによって同様の形に持っていくことができる。係数が零であるような項 pk⋅Xk (pk = 0) は省略することができる。X の冪の乗法は馴染みのある X k ⋅ X l = X k + l {\displaystyle X^{k}\cdot X^{l}=X^{k+l}} に従って定義される。k や l は任意の自然数である。二つの多項式が相等しいとは X の各冪において対応する係数がすべて等しいことと定義される。規約として X1 ≡ X および X0 ≡ 1 と同一視し、多項式 p の定義における和は、記号 Xm, …, X1, X0 の係数 pm, …, p1, p0 に関する線型結合として見ることができる。総和の記号 ∑
を使えば、同じ多項式は p = p m X m + p m − 1 X m − 1 + ⋯ + p 1 X + p 0 = ∑ k = 0 m p k X k {\displaystyle p=p_{m}X^{m}+p_{m-1}X^{m-1}+\cdots +p_{1}X+p_{0}=\sum _{k=0}^{m}p_{k}X^{k}} と簡潔な形に書くことができる。この総和の範囲はよく省略されて、 p = ∑ k p k X k {\textstyle p=\sum _{k}p_{k}X^{k}} のように書くこともある。注意すべき点として、多項式には項が有限個しかないこと —つまり十分大きな k(ここでは k > m)に関する係数 pk がすべて零であるということ— は、暗黙の了解である。多項式の次数とは X k の係数が零でないような最大の k のことである。特別な場合として、零多項式(係数が全て零)の次数は定義しないか、あるいは負の無限大 −∞ と定義する。

体 K に係数を持つ多項式全体の成す集合は可換環を成し、K[X] で表して、K 上の多項式環 (ring of polynomials over K) と呼ぶ。記号 X は普通「変数」と呼び、もうすこし一般の多変数の多項式環と区別するためにここでの多項式環を K 上一変数の多項式環と呼ぶ。この語法は、重要な場合である実係数あるいは複素係数の多項式を実または複素「多項式函数」と見なすことからの示唆である。しかしながら、一般には不定元 X およびその冪 Xk は形式的な記号として扱われ、体 K の元としては扱われない. 多項式環 K[X] を K に K の外側にあって K の任意の元と可換な新しい元 X を付け加えて得られるものと考えることができる。K[X] が環を成すためには、X の任意の冪を含まなければならず、このことが多項式を X の冪の K に係数を持つ線型結合としての定義に繋がる。

環は加法と乗法のふたつの二項演算を持つ。多項式環 K[X] の場合、それらの演算は ( ∑ i = 0 n a i X i ) + ( ∑ i = 0 n b i X i ) = ∑ i = 0 n ( a i + b i ) X i {\displaystyle {\Bigl (}\sum _{i=0}^{n}a_{i}X^{i}{\Bigr )}+{\Bigl (}\sum _{i=0}^{n}b_{i}X^{i}{\Bigr )}=\sum _{i=0}^{n}(a_{i}+b_{i})X^{i}} および ( ∑ i = 0 n a i X i ) ⋅ ( ∑ j = 0 m b j X j ) = ∑ k = 0 m + n ( ∑ i + j = k a i b j ) X k {\displaystyle {\Bigl (}\sum _{i=0}^{n}a_{i}X^{i}{\Bigr )}\cdot {\Bigl (}\sum _{j=0}^{m}b_{j}X^{j}{\Bigr )}=\sum _{k=0}^{m+n}{\Bigl (}\sum _{i+j=k}a_{i}b_{j}{\Big )}X^{k}} によって明示的に与えられる。上の式は一方の多項式に零を係数とするダミーの項を加えて延長し、両方の多項式に形式的に現れる冪の集合を同じものにする。下の式では右辺の内側の和は 0 ≤ i ≤ m および 0 ≤ j ≤ n の範囲でのみ添字を動かす。和の範囲を明示しない形で加法と乗法の式を書けば、 ( ∑ i a i X i ) + ( ∑ i b i X i ) = ∑ i ( a i + b i ) X i , {\displaystyle {\Bigl (}\sum _{i}a_{i}X^{i}{\Bigr )}+{\Bigl (}\sum _{i}b_{i}X^{i}{\Bigr )}=\sum _{i}(a_{i}+b_{i})X^{i},} ( ∑ i a i X i ) ⋅ ( ∑ j b j X j ) = ∑ k ( ∑ i , j : i + j = k a i b j ) X k {\displaystyle {\Bigl (}\sum _{i}a_{i}X^{i}{\Bigr )}\cdot {\Bigl (}\sum _{j}b_{j}X^{j}{\Bigr )}=\sum _{k}{\Bigl (}\sum _{i,j\colon \;i+j=k}a_{i}b_{j}{\Bigr )}X^{k}} のようになる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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