数学、初等代数学における多項式の次数(じすう、英: degree)は、多項式を不定元の冪積の線型結合からなる標準形
(英語版)に表すとき、そこに現れる項のうち最も高い項の次数を言う。ここに、項の次数とは、それに現れる不定元の冪指数の総和である。次数の同義語として「位数」「階数」(order) が用いられることもあるが、今日的には別の意味(英語版)に取られるのが普通だろう。例えば、多項式 7x2y3 + 4x − 9 は三つの項からなる。多項式の記法に関する通常の規約により、この多項式は厳密には 7x2y3 + 4x1y0 − 9x0y0 を意味することに注意する。最初の項の次数は 5(冪指数 2 と 3 の和)であり、二番目の項の次数は 1, 最後の項の次数は 0 であるから、この中で最高次の項の次数である 5 がこの多項式の次数ということになる。
上のような標準形になっていない多項式の次数の決定に際しては、たとえば (x + 1)2 − (x − 1)2 のような場合、積は分配法則に従って展開し、同類項をまとめて、まずは標準形に直さなければならない。いまの例では (x + 1)2 − (x − 1)2 = 4x だから次数は 1 である(二つの二次式の和をとったにもかかわらず、である)。しかし、多項式が標準形の多項式の「積」に書かれている時には、積の次数は各因子の次数の総和として計算できるから、必ずしも展開・整理は要しない。
各次数の英語名称[1][2][3][4][5]次数名称補足
(−∞)-次zero零多項式(次数は後述)
零次constant定数多項式
一次linear一次函数も参照
二次quadratic二次函数も参照
三次cubic三次函数も参照
四次quartic, biquadratic四次函数も参照
五次quintic
六次sextic, hexic
七次septic, heptic
八次octic
九次nonic
十次decic
ウィクショナリーにen:Appendix:English polynomial degreesの項目があります。
多項式の次数の日本語名称は、一貫して次数の値に接尾辞「-次」をつける。英語名称は、いくつかの例外はあるが基本的にラテン語の序数詞に形容詞を作る接尾辞の -ic を付けて表す。次数と不定元の数はきちんと区別されるべきであって、こちらには接尾辞「-元」あるいは「-変数」を付ける(英語名称ではラテン語配分数詞(英語版)に接尾辞 -ary が付く)。例えば x2 + xy + y2 のような二つの不定元に関する次数 2 の多項式は「二元二次」("binary quadratic") であると言い、二元 (binary) が不定元の数が 2 であることを、二次 (quadratic) 次数が 2 であることを言い表している[注釈 1]。もう一つ、項の数も明示するなら「-項式」(英語名称ではラテン配分数詞に接尾辞 -nomial)を付ける。単項式 (monomial), 二項式 (binomial) あるいは三項式 (trinomial) など。つまり、例えば x2 + y2 は「二元二次二項式」("binary quadratic binomial") である。
以下しばらくは一元多項式に関して述べる。 これらの例を、計算・整理して、降冪の標準形に直せば、順に となることに注意せよ。 この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。(2014年9月) 二つの多項式の和(これには差も含めた意味で言う)の次数は、それらの多項式の次数のうち大きい方を超えない。式で書けば deg ( P ± Q ) ≤ max ( deg ( P ) , deg ( Q ) ) {\displaystyle \deg(P\pm Q)\leq \max(\deg(P),\deg(Q))} が成り立つ。例えば 多項式に非零定数倍してももとの次数と変わらない。つまり deg ( c P ) = deg ( P ) {\displaystyle \deg(cP)=\deg(P)} が成り立つ[注釈 2][注釈 3]。例えば 二つの多項式の積の次数は、それら多項式の次数の和に等しい。すなわち、 deg ( P Q ) = deg ( P ) + deg ( Q ) {\displaystyle \deg(PQ)=\deg(P)+\deg(Q)} が成り立つ[注釈 2][注釈 4]。例えば 二つの定数でない多項式の合成の次数は、それら多項式の次数の積に等しい。すなわち deg ( P ∘ Q ) = deg ( P ) deg ( Q ) {\displaystyle \deg(P\circ Q)=\deg(P)\deg(Q)} が成り立つ[注釈 2][注釈 5]。例えば、 零多項式の次数は、定義しないとするか、負の値(通常は −1 や −∞)とするのが普通である[6]。 他の任意の定数値を定数多項式と看做すのと同様に、定数 0 も零多項式と呼ばれる(定数)多項式と見るのは自然である。しかし、零多項式は非零係数を持つ項を全く持たないのであるから、従って厳密に言えば如何なる次数も持たない。その意味において零多項式の次数は定義されない。この立場をとる限りにおいて、前節で述べられた多項式の和や積に関する次数公式は、零多項式を含む場合においては適用を除外しなければならない[7]。 しかしここで、零多項式の次数を負の無限大 (−∞) と約束することは、以下のような直観的には正しいと思える算術規則 max ( a , − ∞ ) = a , {\displaystyle \max(a,-\infty )=a,} a + ( − ∞ ) = − ∞ . {\displaystyle a+(-\infty )=-\infty .} (a は任意の正整数)を追加することと合わせて、非常に有効である[8] 以下のような例を見れば、前節で述べた次数公式とどのように整合するか理解されるだろう。
目次
1 例
2 多項式の演算に対する振舞い
2.1 加法に対して
2.2 スカラー倍に対して
2.3 乗法に対して
2.4 合成に対して
3 零多項式の次数
4 函数を用いた次数の計算
5 多元多項式への拡張
6 抽象代数学における次数函数
7 注
7.1 注釈
7.2 出典
8 参考文献
9 外部リンク
例
多項式 3 − 5x + 2x5 − 7x9 は九次多項式。deg(3 − 5x + 2x5 − 7x9) = 9.
多項式 (y − 3)(2y + 6)(−4y − 21) は三次多項式。deg((y − 3)(2y + 6)(−4y − 21)) = 3.
多項式 (3z8 + z5 − 4z2 + 6) + (−3z8 + 8z4 + 2z3 + 14z) は見かけ上八次だが、八次の項が打ち消されるので実際には五次である。deg((3z8 + z5 − 4z2 + 6) + (−3z8 + 8z4 + 2z3 + 14z)) = 5.
−7x9 + 2x5 − 5x + 3;
−8y3 − 42y2 + 72y + 378;
z5 + 8z4 + 2z3 − 4z2 + 14z + 6
多項式の演算に対する振舞い
加法に対して
(x3 + x) + (x2 + 1) = x3 + x2 + x + 1 の次数は 3 で 3 ? max(3, 2) が成り立っている。
(x3 + x) − (x3 + x2) = −x2 + x の次数は 2 で 2 ? max(3, 3) が成り立っている。
スカラー倍に対して
2(x2 + 3x − 2) = 2x2 + 6x − 4 の次数は 2 で x2 + 3x − 2 の次数と等しい。
乗法に対して
(x3 + x)(x2 + 1) = x5 + 2x3 + x の次数は 3 + 2 = 5.
合成に対して
P = (x3 + x), Q = (x2 + 1) のとき P ? Q = (x2 + 1)3 + (x2 + 1) = x6 + 3x4 + 4x2 + 2 の次数は 3 ⋅ 2 = 6.
零多項式の次数
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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