多目的ダム
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日本最大の多目的ダム・徳山ダム岐阜県木曽川水系揖斐川水資源機構

多目的ダム(たもくてきダム、: Multipurpose dam)とは、治水・利水等複数の機能を兼備したダムである[1][2]洪水調節不特定利水水力発電かんがい上水道工業用水のいくつか、または全てを兼ね備えている。この他雪を融かすための消流雪用水や、ボート競技オリエンテーリングの遂行といったレクリェーションといった目的を持つダムもある。日本に現在ある多目的ダムの全一覧については「日本の多目的ダム一覧」を参照
概要

複数の目的のために使用されるダムを多目的ダムという[3]。計画上、かんがい、発電、洪水調節、水道用水、工業用水、レクリエーションなど2つ以上を組み合わせた計画を多目的計画(Multipurpose project)という(単独目的計画に対比される技術用語)[3]

国際大ダム会議の世界ダム登録(2007年国際大ダム会議「ダムと世界の水」参照)によると世界のダムの71.7%が単一目的のダムだが、多目的ダムが増大しつつあり28.3%となっている[3]

多目的ダムは目的の組み合わせによっては根源的な矛盾をはらむとされ、利水(灌漑、用水、発電)のためには貯水量が多い高めの水位のほうが都合がよいが、最大の治水能力を発揮するには低い水位のほうがよい[4]。治水の点では多目的ダムに豪雨が予想される場合、現状の水位で対応可能か、放流により水位を下げて治水容量を確保すべきか限られた時間内に判断しなければならない[4]
米国の多目的ダム
歴史

1930年代半ば、アメリカ合衆国西部ではコロラド川フーバーダムコロンビア川グランドクーリーダムボンネビル・ダムサクラメント川のシャスタダム、ミズーリ川のフォートペックダムの5大建造物が建設されていた[5]

フーバーダムとグランドクーリーダムの建設後も灌漑用水の供給と電力供給を主な目的とし、それに洪水管理と河川航行の改良を加えた多目的ダムが次々に建設された[5]。安価な灌漑用水の供給は農地の拡大とともに大規模機械化農業を生み出し農業生産は飛躍的に向上させた[5]。また、電力供給によって鉱工業化が進み、人口増や生産増に伴う都市用水や工業用水の需要増加にもダムからの水供給が貢献した[5]

このような巨大多目的ダムの建設は1950年代から1970年代が最盛期で、その後は減少していったが、ダム建設の適地の枯渇、政府の事業費負担の抑制、河川環境問題がクローズアップされるようになったことが背景にある[5]。ダム建設をめぐっては下流の水位減少による河川環境への影響なども懸念されるようになり、水資源の確保と環境保全の施策の両立が図られるようになった[5]。ダム湖周辺には国立や州立の公園や自治体の自然保護区が設けられるようになり、ダム資料館や地形や地質・生息する動植物などの資料の展示などを行うビジターセンターなどが設けられ環境学習の場としても整備されるようになっている[5]
建設

米国の多目的ダム建設は、灌漑と発電の分野では内務省開拓局が、洪水管理と河川航行の分野では陸軍工兵隊が中心になっている(ミズーリ川の5大事業のように両者が協力して建設されたダムもある)[5]
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出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2021年11月)

最大の目的は洪水調節=治水であるため、狭義では洪水調節機能を主目的とし、かつ複数の目的を有するダムを指す。このため洪水調節目的を持たないダムに関しては、たとえ複数の目的を持っていたとしても多目的ダムとして扱われない場合が多い。

日本で初めて建設された多目的「ダム」とはため池などの小堰堤を含めた場合、東大寺大仏建立に力を尽くした大僧正行基が指揮を執り、奈良時代731年に完成したと伝わる摂津国昆陽池兵庫県伊丹市)であり、洪水調節とかんがいを目的とした。現在におけるダムの定義(河川法及び河川管理施設等構造令における、高さ15メートル以上のダム)に合致する多目的ダムとしては青森県が建設した沖浦ダム岩木川水系浅瀬石川。その後浅瀬石川ダム建設に伴い水没し、現在は消滅)が施工例としては初、山口県が建設した向道ダム錦川)が完成例では初となる。戦後相次いだ水害や人口増加に伴う水需要の増大、高度経済成長に伴う工業用水の必要性の高まり等、時代の要請と共に建設が相次いだ。その後「特定多目的ダム法」が施行され、より定義が明確になった。

多目的ダムは大別すると特定多目的ダム(国土交通省管理)と補助多目的ダム(都道府県管理)があり、この他「水資源機構法」に基づく多目的ダム(水資源機構管理)や複数の事業者が管理・運用する「兼用工作物」(河川法第17条に規定)としての多目的ダムも存在する。性質上大規模なものが多く、現在日本最大の多目的ダムは徳山ダム木曽川水系揖斐川・水資源機構)である。
特定多目的ダム

特定多目的ダムとは、1957年(昭和32年)に制定された「特定多目的ダム法」に基づき、国土交通大臣(制定当時は建設大臣)が事業主体として計画から完成後の管理までを一貫して行う多目的ダムのことである。国土交通省直轄ダムである事から「直轄ダム」・「直ダム」とも呼ばれる。
沿革

戦後相次ぐ水害の被害に対し総合的な治水対策が課題となったが、1949年(昭和24年)に経済安定本部は諮問機関である河川審議会(正式名称は河川総合開発調査審議会。治水調査会とも呼ばれる)が「河川改訂改修計画」を発表、多目的ダムによる総合的河川開発を提唱した。これを発展させ1950年(昭和25年)に「国土総合開発法」が施行され、翌年には全国22地域を対象とした「特定地域総合開発計画」が発表されこれに基づき全国において大規模な河川総合開発が行われるようになった。

建設省(現・国土交通省)は国民生活上重要な水系においては直轄事業として系統的な河川総合開発を更に推進したが、多目的ダムの建設に関しては治水の他水力発電灌漑上水道工業用水道等の確保も目的に挙げられるため複数の事業者が混在することとなり、その調整に手間取ることもあった。こうした管理の一元化と洪水調節を最優先目的に位置づけるべく、建設に伴う巨額の事業費を捻出可能な建設省による多目的ダム建設を推進し河川総合開発の整合性を図るための法整備が重要となった。こうして1957年3月31日に公布され翌日に施行されたのが特定多目的ダム法である。趣旨としては以下の3つがある。

河川総合開発事業の目的に基づき、建設される多目的ダムの計画・建設を建設省によって一貫して実施する。

完成後の多目的ダムの管理は建設省によって直轄、一元的に行う。

巨額の建設費を負担する代わりに、対価としてダムの所有権・使用権を建設大臣(現在は国土交通大臣)が保有する権利を持つ。


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