多発性筋炎
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

meiosis」、「miosis」、「mitosis」、あるいは「myosotis」とは異なります。

筋炎
概要
診療科リウマチ学
分類および外部参照情報
ICD-10M60
ICD-9-CM729.1
OMIM160750
DiseasesDB29473
MedlinePlus001245
MeSHD009220
[ウィキデータで編集]

炎症性筋疾患または筋炎(myositis)は骨格筋に炎症性変化および障害をきたす疾患である。ウイルスや細菌などの感染が原因となる感染性筋炎(infectious myositis)と自己免疫が原因となる自己免疫性筋炎(autoimmune myositis)または特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathy、IIM)、薬物や治療に関連する有害事象性筋炎に分類される。有害事象性筋炎は免疫チェックポイント阻害薬関連筋炎、スタチン関連免疫介在性壊死性ミオパチー、慢性移植片宿主病などがある。おもに自己免疫性筋炎に関して述べる。
歴史

1975年に発表されたBohanとPeter(ボアンとピーター)の診断基準に基づき、長らく皮疹のある皮膚筋炎(dermatomyositis)と皮疹のない多発筋炎(polymyositis)に分類されていた[1][2]膠原病内科や皮膚科領域では多発(poly)と多発性(multi)の区別がなされていないため多発筋炎を多発性筋炎と記載されていることもある。OlsenとWartmannはさらに悪性腫瘍に伴う筋炎や封入体筋炎も自己免疫性筋炎に加えて分類した。その後、筋炎特異自己抗体(myositis-specific autoantibody、MSA)と他の膠原病でも見出される筋炎関連自己抗体(myositis-associated autoantibodies、MAA)に関する知見や筋病理所見の特徴が明らかになった。2003年にDalalasとHohfeldが炎症性筋疾患から封入体筋炎を除外したうえに皮疹と有無と筋病理を重視した多発筋炎と皮膚筋炎の診断基準を作成した[3]。2004年にヨーロッパ神経筋センター(European Neuromuscular Centre、ENMC)ワークショップでは皮膚筋炎、多発筋炎、封入体筋炎免疫介在性壊死性ミオパチー、非特異的筋炎の5つに分類するENMC分類基準を作成した[4]。さらに2014年のヨーロッパ神経筋センターのワークショップでは抗合成酵素症候群(anti-synthetase syndrome、ASS)が独立したサブタイプとして追加された[5]。さらに2018年に皮膚筋炎の診断基準も改訂した[6]。ミクソウイルス抵抗性蛋白質A(myxovirus resistance protein A、MxA)はT型インターフェロン(IFN-T)で誘導される代表的な蛋白質である。骨格筋の筋線維におけるMxAの発現は筋束辺縁部萎縮(perifascicular atrophy)よりも皮膚筋炎の診断で感度・特異度ともにすぐれており2018年の改訂で診断基準にも含まれるようになった。皮膚筋炎は全身性エリテマトーデス関節リウマチとともにT型インターフェロノパチーとして認識されるようになった。全身性エリテマトーデスは病態形成にIFN-Tが関与するうえ、C型肝炎の治療でIFN-α投与した際の副作用で全身性エリテマトーデス様の自己免疫現象が認められるためT型インターフェロノパチーの代表疾患である。臨床的に多発筋炎と診断される例のほとんどが筋病理学的には免疫介在性壊死性ミオパチーであり、多発筋炎の組織学的定義は「CD8陽性T細胞の筋内鞘および非壊死性線維内部への浸潤を伴う」というものであるがこれを厳密に採用すると多発筋炎と病理診断される例はほとんどなくなった。従来、多発筋炎と病理診断されてきた例のほとんどは封入体筋炎であった[7]。そのため、自己免疫性筋炎は皮膚筋炎、抗合成酵素症候群、封入体筋炎、免疫介在性壊死性ミオパチーの4つのサブタイプに分類されるようになりつつある。自己免疫性筋炎は膠原病内科、皮膚科、小児科、脳神経内科と様々な診療科で診療される。2004年に上記4科の疫学者、生物統計学者が集まり、国際筋炎分類基準ブロジェクト(International Myositis Classfication Criteria Project、IMCCP)を結成し、新たな国際筋炎分類基準を策定することになった。その結果はヨーロッパリウマチ学会、アメリカリウマチ学会によって2017年に承認された[8]。国際診断基準では無筋症性皮膚筋炎(amyopathic dermatomyositis、ADM)の定義が変更された点に注意が必要である。国際診断基準では筋力低下を認めず、皮膚筋炎に典型的皮疹をもつ症例はすべてADMとよぶ。
疫学

多発筋炎、皮膚筋炎の患者は日本では約17000人おり毎年1500人増加している。男女比は1対2.7と女性に多く中年期発症が多い。初期より間質性肺炎の合併が過半数で認められた。
病態

自己免疫性筋炎は種々の程度で筋炎、特徴的な皮膚症状、間質性肺炎を合併するスペクトラムである。がんの転移を説明する「種と土壌の理論(Seed and Soli model)」は多臓器症状を呈する炎症性筋疾患にも応用できる。細胞傷害性T細胞などの免疫細胞を種とすると、土壌としての条件が揃った特定の臓器へ集中して遊走し炎症を起こし、その全体像が自己免疫性疾患を成すという捉え方になる。
症状
全身症状

自己免疫性筋炎では全身症状として全身倦怠感や発熱、体重減少を呈しうる。体重減少は筋炎による筋量の低下や嚥下障害による摂食量低下も反映しうる。
骨格筋の筋力低下

亜急性もしくは慢性の経過で進行性の筋力低下を呈し、四肢近位筋、体幹筋、頸部屈筋、咽頭筋が優位に障害される。筋の自発痛や把握痛を認めることもある。具体的にはベッドからの起き上がり、しゃがみ立ち、階段昇降、上肢挙上(髪をとかす)などが困難になることで自覚されやすい。咽頭筋の障害は嚥下障害、発声障害をきたし誤嚥性肺炎を繰り返す例もある。頸部屈筋は自覚症状がなくとも筋力低下が鋭敏に検出されるため仰臥位で診察する。抗合成酵素症候群では関節痛を合併することも多い。
皮膚
皮膚の肉眼所見

皮膚筋炎の皮疹はケブネル現象の典型例と考えられている。ケブネル現象とは、正常皮膚へ掻爬・外傷・炎症・瘢痕化刺激に続き、その部位に原病と同類の皮膚症状が出現することをいう。ケブネル現象は皮膚筋炎のほか、尋常性乾癬扁平苔癬サルコイドーシス、モルフェアなどでも認められる。皮膚病変を起こす全身的素因に加えて、局所への機械刺激が加わると病変を形成すると解釈できる現象である。ゴットロン丘疹・ゴットロン徴候は関節伸側の機械的刺激を受けやすい部位に生じ、ヘリオトロープ疹は恒常的に機械運動が行われる眼瞼に生じる。メカニクスハンドも母指尺側と他4指の橈側に出るのが特徴的であり、物を掴む際に物と接触する面に生じるケブネル現象である。
手の皮膚所見
ゴットロン丘疹

手の皮膚所見は最も診断的価値が高い。ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候は関節背面に生じる皮疹で丘疹性変化を呈する場合にゴットロン丘疹、それ以外の場合(主に紅斑)にゴットロン徴候という。特に示指、中指のMP関節やPIP関節に好発する。爪郭部の所見、すなわち爪囲紅斑および爪上皮出血点も非常に重要である。爪囲の変化はゴットロン丘疹やゴットロン徴候に先行することが多い診断的価値は高い。爪郭部の所見は皮膚筋炎に特異的ではないが膠原病に特徴的である。掌側の指関節周囲に紫紅色の鉄棒豆様の皮疹が見られることがある。これを逆ゴットロン徴候といい、抗MDA5抗体陽性例に特徴的な皮疹である。メカニクスハンドは手指の側面、特に拇指尺側や示指橈側を中心に生じる手湿疹に類似した皮疹である。抗合成酵素症候群に特徴的とされる。
顔面・頭部の皮膚所見
ヘリオトロープ疹

ヘリオトロープ疹は上眼瞼に見られる浮腫性紅斑で色調は紫紅色から暗紅色を呈することが多いが浮腫のみのこともある。頬部、前額、耳介などに紅斑もしばしば認められる。
体幹の皮膚所見

体幹ではV徴候とよばれる前胸部、ショール徴候とよばれる肩から上背部の皮疹がよく知られている。
四肢の皮膚所見

四肢の関節背面(肘、膝)にも紅斑を生じこれらもゴットロン徴候と呼ばれる。
部位によらない皮疹

水疱、脂肪織炎、皮膚潰瘍、多型皮膚萎縮(ポイキロデルマ)、皮下石灰化沈着などが認められる。特に皮下石灰化沈着は抗NXP2抗体陽性例に多い。
皮膚病理所見

皮膚筋炎の皮膚病変の組織学的な変化は飛石状に断続的に認められる場合があるため、生検標本は比較的大きめにとり、有意な所見が認められない場合には複数の切片から標本を作成する。皮膚筋炎の皮疹の病理組織像として共通する基本的な所見は、表皮基底層の液状変性、真皮の血管周囲を中心とした炎症細胞浸潤、真皮のムチン沈着である。これらの所見は皮膚筋炎に特異的ではなく全身性エリテマトーデスとの皮膚病理所見で鑑別は困難である。
表皮基底層の液状変性

表皮基底層の液状変性とは基底層の角化細胞が空砲状に変性をきたした状態であり、皮膚筋炎の組織像の特徴的所見のひとつである。アポトーシスに陥った表皮細胞が好酸性のコロイド小体として認められることもある。このような変化は皮膚筋炎特異的ではなく、全身性エリテマトーデス扁平苔癬でも認められる。
真皮炎症細胞浸潤

炎症細胞が真皮浅層の血管周を中心に散在性あるいは帯状に分布する。浸潤細胞の多くはCD4陽性T細胞であるがCD8陽性T細胞、マクロファージ、形質細胞様樹状細胞なども混じる。抗合成酵素症候群例では表皮内にCD8陽性T細胞が多く浸潤する。
真皮のムチン沈着

真皮にムチンが沈着するためHE染色で真皮の間質がやや好塩基性の紫がかった色を呈する。アルシアン青染色などでも確認できる。
肺・心臓・消化器の合併症

労作時の呼吸困難がある場合は間質性肺炎または心筋炎の合併を考慮する。間質性肺炎は報告にもよるが20?30%に合併すると言われる[9]。抗ARS抗体や抗MDA5抗体陽性例では間質性肺炎が必発と考えられている。抗合成酵素症候群は間質性肺炎が80%に認められるという報告もある。病理学的な区分では非特異的間質性肺炎(NSIP)が多い。

心筋炎の合併は心不全や不整脈などの症候例は約10%である[10]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:69 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef