多毛症
ヨリス・ヘフナゲルによる「毛深い男」ペトルス・ゴンサルヴスの肖像画( Elementa Depict 収録)
概要
診療科皮膚科学
分類および外部参照情報
ICD-10L68
多毛症(たもうしょう、英: Hypertrichosis)は、身体の各所に異常に多量の発毛が見られる状態。アムブラス症候群(英: Ambras syndrome)とも呼ばれる。[1][2]多毛症にはふたつの異なる類型が存在する。全身の部位に発毛する汎発性の多毛症と、範囲が限られた局所性の多毛症である[1]。多毛症は先天性疾患(生まれつきの疾患)である場合もあるが、後天的に発症する可能性もある[3][4]。多毛症における過剰発毛は、恥部、顔面、腋窩部のアンドロゲン(男性ホルモン)の影響を受ける部位を除いた皮膚の領域で発生する[5]。女性のアンドロゲン依存部位のみに体毛が過剰に発生する場合は英語では 英: Hirsutism の語を充てる。
19世紀、および20世紀初頭のサーカスの余興の出演者の中にはジュリア・パストラーナ(英語版)のような多毛症の罹患者が含まれていた[6]。その多くは見世物小屋で働き、人間と動物の両方の特徴をもつ者として宣伝された。 多毛症の分類には2種類の方法が使用される[4]。汎発性多毛症(generalized hypertrichosis)と局所性多毛症(localized hypertrichosis)に分ける方法と、先天性多毛症(congenital hypertrichosis)と後天性多毛症(acquired hypertrichosis)に分ける方法である[1][7]。 先天性の多毛症は遺伝子の変異により引き起こされ、後天性のものとは異なり非常にまれである[4]。先天性多毛症はつねに出生時に存在している[3]。 先天性毳毛性多毛症の症状は出生時にすでに顕著である。先天性毳毛性多毛症の新生児は薄い毳毛
分類
先天性多毛症
毳毛性多毛症(hypertrichosis lanuginosa)
汎発性多毛症(generalized hypertrichosis)
先天性汎発性多毛症は男性の場合、顔面と上半身に過剰発毛を引き起こす。一方で、女性の場合の症状は男性に比べると軽度で、また左右非対称な発毛になる[9]。手の平と足の裏、粘膜は影響を受けない[1]。
終毛性多毛症(terminal hypertrichosis)
先天性終毛性多毛症は、色素を多量に含む終毛(英語版)が罹患者の全身を覆っていることで特徴付けられる[3]。この症状はしばしば歯肉増殖症をともなう[3]。先天性終毛性多毛症の罹患者は全身に太く黒い体毛をもつため「狼男症候群」(werewolf syndrome)という用語の由来となった可能性が高い[3]。この症状をもつ人々はその特異な外見からサーカスの出演者として働くこともあった[3]。
限局性多毛症(circumscribed hypertrichosis)
先天性限局性多毛症の関連症状は上肢での太い軟毛の発毛である[10]。限局(circumscribed)はこの類型の多毛症が身体の特定の部位、この場合は上肢の伸側面に限定されていることを示す[10]。先天性限局性多毛症の一種、へアリーエルボー(毛深い肘)症候群では肘とその周辺に過剰発毛が見られる[10] 。この類型の多毛症は出生時に症状が認められ、症状は年齢をかさねることで顕著になるが、思春期には沈静化する[10]。
局所性多毛症(localized hypertrichosis)
先天性局所性多毛症は局所的に体毛密度と体毛の長さを増加させる[4]。
母斑性多毛症(nevoid hypertrichosis)
母斑性多毛症は出生時に症状が認められる場合もあるが、年齢をかさねることで顕在化することもある[3]。この類型の特徴は皮膚の一点での終毛の過剰発毛だが、その他の疾病はともなわないことが多い[3][11]。 後天性の多毛症は出生後に発症する。多数ある原因には薬物の副作用、悪性腫瘍との関連、摂食障害とのつながりなどが含まれる。後天性多毛症はさまざまな治療によって症状が軽減することが多い。 後天性の毳毛性多毛症の特徴は、特に顔面における毳毛の急速な発毛である[12][13]。この類型では胴体と腋の下にも発毛が見られるが、手の平と足の裏は影響を受けない[13]。この症状における体毛は一般に悪性柔毛(malignant down)と呼ばれ[13]、非常に細く、色素が少ない[13]。 後天性汎発性多毛症は一般に頬と上唇、顎に影響を及ぼす[3][4]。この類型では前腕と脚部も影響を受けることがあるが、まれである。後天性汎発性多毛症と関連する奇形として、多数の体毛がひとつの毛包から発毛することがある。 関連する奇形には逆まつげで見られるようなまつげでの異常な発毛パターンも含まれる[4]。高血圧の治療における経口薬としてのミノキシジルの使用はこの症状を引き起こすことが知られている。 外用薬としてのミノキシジルは脱毛症の治療に用いられ、塗布した部位の発毛を促すが、体毛はミノキシジル外用薬の使用を中止するとすぐに消滅する[14]。 後天性パターン性多毛症における発毛の増加はある種の模様(パターン)を形成する。症状は後天性汎発性多毛症と類似している。この類型の多毛症は内臓性悪性腫瘍の徴候のひとつである[5]。 後天性局所性多毛症は炎症もしくは外傷に続発することが多く、体毛密度と体毛の長さを増加させる[15]。この類型の症状は身体の特定の部位に限られる。 多毛症はしばしば男性型多毛症(hirsutism)として誤って分類される[1]。男性型多毛症は女性と小児にのみ見られる多毛症の類型であり、アンドロゲン感受性の発毛が過剰になることで引き起こされる[16]。男性型多毛症の罹患者には成人男性の発毛パターンが現れる[1]。
後天性多毛症
毳毛性多毛症(hypertrichosis lanuginosa)
汎発性多毛症(generalized hypertrichosis)
パターン性多毛症(patterned hypertrichosis)
局所性多毛症(localized hypertrichosis)
男性型多毛症