多剤大量処方
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この項目では、日本の精神科において同種の薬剤が大量となっている問題について説明しています。特に高齢者で問題になる薬の種類が多いことについては「多剤併用問題」を、意図的に2剤以上の薬を組み合わせて用いる事については「併用療法」をご覧ください。
3種類の抗不安薬と1種類の睡眠薬。すべてGABAA受容体に作用する。日本の精神科薬物療法に対する批判としては、
(1)薬物療法偏重の3分診療
(2)精神療法は医師以外のスタッフが行うというスプリット治療[1]
(3)薬を出すしか能がない[2]
といったものがあるが、その薬物に関する知識も不得意とする者が多い[3]。2010年に厚労相が「うつ病などに対する薬漬け医療」に言及してプロジェクトチームを発足させ[4]、議論が進められた結果、2014年度の診療報酬改定から、一定の上限を超えた処方に対する診療報酬が減算されることになった。

多剤大量処方(たざいたいりょうしょほう)とは、同じような薬効の薬が必要数を大幅に超えて多数処方され、かつ、それぞれの薬の量自体も本来必要な量より多い処方のことである。多剤併用大量処方(たざいへいようたいりょうしょほう)とも呼ばれる。多剤大量処方に陥る原因は、単純に薬を多く投与したほうが効果が高くなるだろうという、医師の誤った思い込みである[5]。そのため、薬理学的な考慮のない、危険性を無視した投薬がままみられる。

精神科医療においては、精神科医による薬理学の知識不足が多剤大量処方の原因として指摘されている[6][7][3]。そのため、これらの薬が精神疾患を完治させるわけではないにもかかわらず、目先の症状の変化に気を取られて、同じような薬を何種類も処方することになる[8]。そして、それぞれの薬の量が限度用量以内であれば、全体として過剰投与になっているとは認識されくにい[6]精神科で使用される薬には主なものとして抗精神病薬抗うつ薬気分安定薬興奮剤抗不安薬/睡眠薬などがあるが、深く考えずにそれぞれのカテゴリーの薬を複数ずつ処方すれば、ほぼ自動的に多剤となってしまう。こうした薬では減薬時に離脱症状が生じることがあり、減薬も困難となることがある。

欧米では向精神薬の登場により、それまで精神科病院に収容することしかできなかった患者の社会復帰が進み、精神科病院の病床数は減少していった。しかし、日本では逆に、それまで家庭などで放置されてきた患者の収容・隔離が進み、病床数は増えていった[9][10]。日本では、入院日数が長くなるほど、薬を使うほどに収入が増える医療保険システムにより、多剤化・大量化・高力価化が促され、効果が不十分な患者に多量に薬を使うことが常態化していき、減量が簡単ではなく減薬の方略もないので半永久的な投薬の実態があった[8]。統合失調症への投薬で言えば、1970年代には向精神薬の薬剤投与数の平均は2剤、200-300ミリグラムであったが、1993年には5剤、平均1000ミリグラムを超えた[11][12]。厚生労働省は2010年に自殺うつ病対策チームを発足し、日本では諸外国より精神科での多剤投与が多く、これが、オーバードーズ(過量服薬)による自殺未遂が後を絶たない素因になっていると指摘されている[13]。2016年、多剤大量処方の改善のための「向精神薬減量ガイドライン」を計画する、日本精神薬学会が発足した[14]

1971年の向精神薬に関する条約では、乱用されてはならない薬物が指定されている。2010年に国際麻薬統制委員会(INCB)は、日本でのベンゾジアゼピン系薬物の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があると指摘している[15]
日本における動向 OECD各国の人口あたり医薬品消費額 [16]日本の精神保健#心理療法の欠如と行き過ぎた多剤投与」も参照

1955年に、日本に薬物療法が導入され、1970年代には統合失調症の患者へ投薬される向精神薬の薬剤投与数の平均は2剤であったが、1993年には5剤となった[11]。別の文献では、1964年の『精神科治療学集大成』では100-200ミリグラムとされた抗精神病薬の維持量は、1970年代に200-300ミリグラムの例が多くなり、1993年では平均1000ミリグラムを超えた[12]。1980年代より、悪性症候群の報告が100名を超えるようになってくる[12]
たび重なる注意喚起

2004年の日本精神神経学会では、抗精神病薬は単剤での使用が望ましいにもかかわらず、多剤大量処方が改善されない現状について言及がなされた[17]。2008年には、過量服薬の危険性に特に配慮が必要である境界性人格障害に対するガイドラインが公開された。多剤処方の有効性を支持する強い証拠がないため、単剤使用が推奨され、長期にわたる漫然とした処方の有効性も示されていないという内容である[18]。2009年10月30日には、日本うつ病学会が「SSRI/SNRIを中心とした抗うつ薬適正使用に関する提言」において、大量処方を避けるという一般的な注意点を喚起している[19]

2010年1月に、厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームが発足した。6月24日には、厚生労働省から、各都道府県の精神保健福祉主管部局長および、日本医師会、日本精神科病院協会、日本精神神経科診療所協会、日本自治体病院協議会、日本総合病院精神医学会、精神医学講座担当者会議、国立精神医療施設長協議会、日本精神神経学会の会長あてに、「向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について」という題で、自殺傾向のある患者に対して、向精神薬等の適切な処方に配慮する旨を通達している[20]

この問題は国会でも取り上げられている。 現在、厚生労働省で、自殺・うつ病対策プロジェクトチームの会合が開かれております。(中略)ここで議論のテーマになったのが、精神科や心療内科で処方される向精神薬の多剤大量服用が自殺を引き起こす要因になっているのではないか、こういう状況をどうするかということに関してだったというふうに聞いております。

 これは不審死の行政解剖を行っている東京都監察医務院の監察医、水上創医師の論文でありますけれども、表を見ていただきたいと思います。衝撃的な数字です。自殺という事例の中、317例ありますけれども、実はこの自殺という事例の中をたどっていただくと、中毒物質という一覧の中で、バルビツレート類というところからその他及び詳細不明の向精神薬、ずらずらっと並んでいる、これは全部、禁止薬物とかではなくて、精神科で処方されている向精神薬を服用してのケースであります。実に317例中289例までが、こうした向精神薬を服用した上で自殺を図られた、こういうケースだとこの水上医師の論文の表は示しているわけであります。また、この論文中では、この向精神薬を多剤併用して、相互作用等の要因が自殺を引き起こした可能性が高いということが指摘をされています。
 ことし六月、厚生労働省で、向精神薬の処方に関する注意喚起をしておられますけれども、精神科医療の現場では、こうした形で複数の向精神薬を医師向け添付文書の適量を超えて大量に処方する、いわゆる多剤大量処方がまかり通ってしまっている現状がある。諸外国では、今や単剤処方が主流で、日本のように、多剤大量処方が精神科において広く行われることは異常とも言われております。 ? 柿沢未途 - “衆議院厚生労働委員会”. 1. 第175回国会. (2010-08-03). https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=117504260X00120100803&current=3 

2010年9月9日には、厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームが「過量服薬への取組」を公表し、以下の取り組み指針が提言された[21]

ゲートキーパー役として薬剤師を活用すること [21][22]


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