多世界解釈
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多世界解釈(たせかいかいしゃく、: many-worlds interpretation; MWI)とは、量子力学観測問題における解釈の一つである。この解釈では宇宙の波動関数を実在のものとみなし、波束の収縮が生じない。そのかわり重ね合わせ状態が干渉性を失うことで、異なる世界に分岐していくと考える。プリンストン大学の大学院生であったヒュー・エヴェレット3世が1957年に提唱した定式を元に、デコヒーレンスなどの概念が追加されて成立した。
概要

量子力学において波動関数シュレディンガー方程式に従い、決定論的な時間発展をする。標準解釈であるコペンハーゲン解釈では、観測により波動関数が収縮することで、確率的な結果が現れる。波動関数の収縮はシュレディンガー方程式には従わない。

一方で多世界解釈では、波動関数の収縮は起こらず、常にシュレディンガー方程式が成り立つと考える。シュレディンガー方程式の時間発展により多様な重ね合わせ状態が生じるが、多粒子の相互作用によって各状態は干渉性を喪失し(デコヒーレンス)、複数の世界に分岐していくと考える。

多世界解釈では波動関数を実在するものと捉え、したがって波動関数が示す重ね合わせ状態も異なる世界として実在すると考える。このように多世界解釈は実在主義の立場である一方で、コペンハーゲン解釈は観測されない背後の存在については語らず、観測結果を予測できればいいという実証主義である[1]

シュレディンガー方程式の時間発展を俯瞰する立場からすると、分岐する全ての世界の重ね合わせに相当する量子状態は初期状態から一意に決定されるので、多世界解釈は決定論である[2]。一方で、重ね合わせ状態に対して測定を行うと、異なる測定結果が得られる世界に分岐するので、各世界の観測者にとっては非決定論的である[3]。多世界解釈でのボルンの確率則の考え方にはいくつかの流儀がある[4]

多世界解釈は、宇宙全体が瞬時に分岐するというように非局所的に記述することもできるし、あるいは世界の分岐を光円錐の内部だけで進行する局所的な過程として記述することもできる[5][6]。後者の考えに立てば、EPR思考実験で生じるような非局所性を排除できる[5]
歴史

従来の解釈では、量子力学はシュレディンガー方程式で記述される量子系と古典的な観測者に分かれる。エヴェレットは宇宙論への応用を考えるなら、観測者も含め宇宙全体に量子力学を適用しなくてはならず、宇宙全体を1つの波動関数で記述しなければいけないとした[7]。エヴェレットは1957年にこう書いている。「コペンハーゲン解釈は絶望的に不完全だ」「それは古典物理学に先験的に頼っているからでもあり、巨視的世界に『実在』の概念をもたせておきながら、微視的宇宙にはそれをあてはめさせないという哲学的奇怪さのせいでもある」[8][9]

エヴェレットは1956年初めに博士論文の草稿を書き上げたが、世の中に受け入れやすくするため指導教官のジョン・ホイーラーの指示により、そこから大幅に内容とページ数が削減され、量子宇宙への応用に焦点が絞られた短縮版が1957年に博士論文として受理された[10][11]。この論文は同年、Reviews of Modern Physics誌にも掲載された[12]

エヴェレットの理論はほとんど反響を呼ばず、その後10年間忘れ去られた[13]。エヴェレットは状態の収縮を否定したが、多世界の実在については論文でも公の場でも主張しておらず、実在性を信じていたかははっきりしない[14][15]。清水明は、状態の収縮(射影公準)は理論が実験と矛盾せずかつ内部矛盾のない体系になるために必要に迫られて導入されたものであり[16]、ヒュー・エヴェレットの原論文には射影公準と等価な仮定がないのでユージン・ウィグナーの厳しい批判に遭った、と指摘している[16][17]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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