外国人労働者
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外国人労働者(がいこくじん ろうどうしゃ、英語:Foreign worker)は、他国からの労働者を受入れ国の視点でとらえた場合の呼称。移住労働者(Migrant worker)とも。外国からの出稼ぎ労働者移民労働者に含まれる。
労働力移動の要因

外国人労働者を生み出す要因には近隣国との経済格差などがあげられる。一方で20世紀末以降いわゆるグローバル化がすすみ、国際的な人の移動が活発になったことにも注目する必要がある。

外国人労働者が発生する要因として、伝統的な考え方ではプッシュ要因(送り出し国側の原因)とプル要因(受け入れ国側の原因)に分類した考察が行われてきた。

プッシュ要因としては送り出し国側において経済発展が遅れて雇用機会が不足し、労働力が過剰になることがあげられる。プル要因は受入れ国側が高度経済成長を迎えることで起きる労働力不足である。先進国における少子高齢化も原因にあげられることがある。この両者が組み合わさって労働力の移動が発生するとされる。この場合、両国間における賃金や所得の格差が重要になってくる。

一方、グローバル化が進む中で、労働力移動を考える際に二国間の関係分析だけでは不十分とする意見も強い。

また近年見られる地域統合の動きも労働力移動に大きな影響を与えると考えられている。地域経済統合によって短期的には専門技術者などの移動を自由にする一方、長期的には経済が活性化されることで過剰労働力の発生が抑えられ、域内における労働力移動は安定に向かうとの予測がされている。ただしEUでは加盟国間の経済格差が比較的小さいのに対し、格差の大きいAFTAなどでは諸国間の比較優位が顕在化し、産業構造が再編される中で大量の余剰労働力が発生するおそれもある。

経済的要因による労働力移動のほかに、血縁的要素、技術移転に伴うもの、強制移住なども労働力の流入出の原因となる。近年では、交通手段・通信網の整備も労働力の移動を容易にしている。
熟練労働者・非熟練労働者の分類

外国人労働者はその扱いにつき、特定の技能や経験を必要としない分野で働く非熟練労働者(単純労働者。俗に出稼ぎ労働者とよばれることもある)と、専門的・技術的分野において活躍する熟練労働者に大別される。従来は専門職の国際移動はあまりみられなかったために、外国人労働者問題を論じる場合は非熟練労働者が議論の対象であった。先進国はかつて高度経済発展を迎えた際に労働力不足に陥ったため周辺国から多数の外国人労働者を受け入れたが、後に経済が停滞すると自国の労働市場を圧迫するとして受け入れ規制を行った。にもかかわらず流入は続き、各国とも多くの不法滞在者を抱えている。蛇頭などの斡旋集団によって不法入国のビジネス化も進んでいる。

一方で専門的・技術的分野における労働者の移動はグローバリゼーションの進展に伴い増えてきたものである。特に情報通信技術の分野が重要視され始めると、各国は国際競争力を強化するために、技術者が入国しやすい法整備を行なうようになった。IT分野における最大の送り出し国はインド、受入れ国はアメリカ合衆国である。
問題点

外国人労働者をめぐっては様々な問題があげられる。主に議論されるものとしては、労働者送り出し国から見た「頭脳流出」問題、先進国間における技術者獲得競争、非熟練労働者(特定の技能や経験を必要としない分野における労働者)の受け入れの是非などがある。特に非熟練労働者をめぐっては犯罪問題や人権問題と結びつき、深刻な問題とされることが多い。不法入国者の問題が絡むことも少なからずあるため、様々な事件の温床と見る者もある。
経済への影響

非熟練労働者を低賃金で導入する場合、国内において賃金水準の低下や非自発的失業者の増加が懸念される。@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}ただし、アメリカ、カナダ、日本、ヨーロッパのどのデータを使った専門家による精査された実証研究では、そのような負の関係は発見されていない。(中村他 参照)[要出典]

2015年12月にイングランド銀行が賃金と移民の関連性についての研究を発表し、移民の比率が10パーセント増加すると非熟練労働者の平均賃金が2パーセント低下することを示した[1]

非熟練労働者を本格的に受け入れ、労働法規や社会保障を整備した場合、賃金の騰貴や財政負担増につながる心配がある。(ただし、少子化がすすんでいる経済では新規労働者によって現老人世代の社会保障をより広く分担できるので、若年世代にとっても負担減になる)。[要出典]

中長期的には経済の活性化をもたらすとも考えられる。特に先進国では少子高齢化が進んでおり、若年労働力の比率が下がってきている。このため、経済規模を維持するには労働力の輸入が必要不可欠であるとの意見もある[2][3]
社会的統合

ヨーロッパ諸国において、従来受け入れ国は外国人労働者について、一時的な滞在を想定していた。しかし彼らの滞在は長期化、さらには家族呼び寄せなどによる定住化の傾向を見せ、新たに様々な社会問題を引き起こすようになった。そのような中、自国において外国人労働者にどのような地位を与えるか、既に国内にある外国人コミュニティをいかに地域コミュニティに組み入れて行くかという方策、すなわち「社会的統合」が検討されるようになった。(注意:この場合において、「社会的統合」は同化政策を意味するものではない。)

まず初期の段階においては、搾取の防止や、適正な労働環境の整備があげられる。これらは短期就労においても重要である。

次に地域住民とのあつれき防止や、住宅問題などがある。言葉が通じない国においては、滞在が長期化するにつれて次第に同国人同士のコミュニティへの依存度を高める傾向が見られるが、こうしたこと自体が周辺社会に対する無言の圧力にもなる。

外国人労働者が住宅を確保することは、各種証明などで困難を伴うことが多い。また非熟練労働者などは家賃が低い地域に集まる傾向があり、こうした場合地域社会とのあつれきはさらに強まる。適切な対応を行なわなければスラム化の危険が高まる。家族を呼び寄せたり現地で結婚するなどして定住化すると、子供の教育問題も発生する。言語能力が低いと学校は対応に苦慮し、現地民の苦情がよせられることが多い。さらには年金などの社会保障や、法的地位をどの程度認めるかといった問題がある。

これらの対策を適切に行なわないまま外国人労働者の流入・定住化が進んだ場合、彼らを社会的な底辺に追い込み、結果として犯罪や過激な思想・宗教に走りやすいと考えられている。ただしこれらの統合政策を行うならば、かなりの社会的コストを伴うのは必至である。

社会的統合の理念に対する反発も強い。ヨーロッパでは1990年代において、高失業率にもかかわらず多くの外国人労働者が流入し、排外主義が高まっていった。特にドイツではネオナチグループに限らず一般の若者までが外国人労働者コミュニティとの間で衝突を起こし、死傷者を出す事件も起きている(ゾーリンゲン事件など)。在住する外国人の中において階層化が進んでいることも大きな問題となっている。言語能力の違いなどが原因となって、社会へ統合されていく層と取り残される層の二極化が進んでいる国も多い。こうした中、2005年にはロンドン同時爆破テロが発生した。背景については不明な部分も多いものの、イスラム移民系による犯行は社会的統合プロセスに大きな疑問を投げかけた。また、同じく2005年には2005年パリ郊外暴動事件も発生している。
文化摩擦

日本では、外国人労働者が多数居住する地区(例として近在に自動車関連の工場がある群馬県太田市大泉町静岡県浜松市愛知県豊田市など)は、スーパーマーケットも地元日本人客が敬遠する場合も見られ、それら外国人労働者とその家族を相手とした食料・衣料品の商店や、理容室・レンタルビデオ店から旅行代理店などのサービス業者が誕生し、さながら外国人街の様子をなしているケースも発生している。また言葉と文化が通じないことによって発生する文化摩擦も深刻で、生活習慣の違いから、以下のような住民間のいざこざが起こるケースも見られる。

単身者用のアパートにもかかわらず、賃貸契約を無視して数人の住人が住み込み、昼夜を問わず生活雑音がする

燃えるゴミ、プラスチック、ビン・缶の分別方法を理解していない

文化的に異質すぎて理解できない

これらの問題では、特に急激に外国人労働者が増えた地域では深刻で、商店では言葉が通じず個人商店が客である外国人労働者の突飛な行動に翻弄されるケースが見られ、それに嫌気が差して店を閉めてしまうという事態も発生している。またその一方で、旧来から地元住民の間で培われた地域コミュニティに馴染めない外国人労働者が孤立化するケースも見られる。
外国人労働者の人権侵害

日本では技能実習生の人権侵害が大きな問題になっている。ベトナム人の技能実習生が騙されて除染作業をさせられていた[4]、最低賃金以下の賃金で労働をさせていた[5] などの問題が起こっている。
犯罪・治安面
外国人犯罪詳細は「外国人犯罪」を参照

先進国において外国人労働者の受け入れに消極的な理由の一つとして、外国人による犯罪の増加の懸念があげられる。犯罪統計において、一部の先進国では外国人の犯罪率が本国民の犯罪率より高いことがしばしば示される(ただし犯罪統計については、その解釈につき様々な意見がある)。

国境を越えて来る者の中には、麻薬銃器の密輸入や、不特定多数の外国人によって結成された窃盗団があると見なされる事が多い。大抵はこれらの行為に手を染めている者は、渡来目的そのものが犯罪行為であると考えられるが、近年では(知人に頼まれた荷物を中身を知らずに運ぶなど)本人も知らない内に密輸入の運び屋にされたり、多額の報酬に目が眩んで、国内の犯罪組織等と国外のバイヤーを結ぶ輸送を請け負ってしまう、また食を欠く程に困窮して犯罪集団に手を貸してしまうケースも起きている。

また漠然と仕事を求めて(特に国内受け入れ先が定かでも無いのに)渡来した外国人出稼ぎ労働者が密集して居住する地域では、食い詰めた労働者によって起こされる窃盗の問題や、それら雑多な居住者に混じって海外逃亡中の犯罪者によって悪化し得る治安の問題も由々しきものになりつつある。

2020年6月、コロナ禍における特別定額給付金を居住実体のなく住民登録がある長崎に向かうため、東京から博多まで新幹線に無賃乗車したとして、住居不定無職のフィリピン国籍の男(35)を鉄道営業法違反の疑いで福岡県警博多署が逮捕した[6]。外国人労働者においては住民登録地に転居手続きを取らず不現住となることがおこり、住民税や国民健康保険税の滞納につながっている。


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