外交官特権
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外交特権(がいこうとっけん、フランス語: Immunite diplomatique、英語: Diplomatic immunity、ドイツ語: Diplomatische Immunitat)は、外交使節団の接受国が国内に駐在している外国公館外交官及び国際機関などに対して与える特権及び免除。公館の不可侵や刑事裁判権・租税の免除などがある。これらの特権は外交関係に関するウィーン条約(外交関係条約)に基づいている。
概要

外交使節団は主権国家を代表しており、主権国家間は原則として平等である以上、外交使節団は他の主権国家の支配に服さないという代表性説と、外交使節団が効率的にその業務を行うために認められたものであるという機能性説がある。

外交官に対する特権は、当該外交官の個人意思では放棄できない。派遣国政府の正式な意思表示があって初めて放棄できる。
対象者

特権を受けるためには、外交旅券を所持しているだけでは足らず、接受国による認証(接受。外交使節の長の場合はアグレマン)を必要とする(故に、外交旅券を所持して任国以外を私的旅行中の外交官や、本国から臨時に短期出張した外交官には、正式の外交特権は無い。ただし前述の外交関係条約第四十条は、赴任・帰任のため第三国を経由している外交官及びその家族について、査証を与えた第三国内の領域内にあっては不可侵としている。)。ウィーン外交関係条約第41条は「接受国の法令を尊重することは特権および免除を享有するすべての者の義務である」と規定している。非行や犯罪関与など、相応しからざる行為があった場合は理由を示さずに国外退去を求めることができ、これをペルソナ・ノン・グラータという。

外交官に対する特権に関しては、駐在武官外交官と生計を共にする家族も含まれるが、公館勤務の事務・技術職員や現地採用職員などは適用範囲が限定されている場合がある。また、国際慣習法元首首相外相については、外交官同様の特権・免除を与えることとされている。

日本においては、外務省から有効な「外交官等身分証明票」を交付されていれば、その人物は外交特権を有する外交官である。
外交使節団に関する特権・免除

外交使節団に関する特権には、以下のようなものが有る(括弧内条番号は外交関係に関するウィーン条約の該当条項)。

不可侵権は、外交使節団の公館(第二十二条)、外交使節団の長の公邸及びその輸送手段、またその他の外交官の私邸並びに、その輸送手段(自動車列車政府専用機など)にも及ぶ。特に、大使館や公館は絶対不可侵とされ、接受国の官憲は使節団の長の同意がない限り、公館に立ち入ることができない。

公館に対する非課税(第二十三条)。

通信の不可侵(第二十七条)。接受国の同意により無線局を設置できるほか[1]、外交伝書使(クーリエ)が携行する「外交封印袋」も不可侵とされる。そのため、空港港湾国境検問所における保安検査・税関検査でも開く必要がない。通常の通信文書は「外交行嚢」に入れて民間輸送会社に委託している場合も多いが、この場合も同様に不可侵とされる。なお、外交官が査証を得た第三国を通過中にも外交伝書使や外交封印袋は同様の不可侵や保護が与えられる(第四十条)。

使節団の公館、使節団長の公邸並びに、その輸送手段の国旗掲揚権(大使公使領事の公用車が、必要に応じて小型の国旗をバンパーポールに掲げるのも、ここから来ている)(第二十条)。

外交官に関する特権

外交官の身体の不可侵(逮捕・抑留・拘禁の禁止)

刑事裁判権の免除、民事裁判権・行政裁判権の免除(一部訴訟を除く)

住居の不可侵権

接受国における関税を含む公租・公課及び社会保障負担の免除

被刑事裁判権、証人となる義務等の免除

接受国による保護義務

外交ナンバー

外交特権の保持者は、自動車について「外交ナンバー」と呼ばれる特殊なナンバープレートが交付され、これを自家用車に装着する。この場合「DP」や「外」などの印がなされる。
日本における扱い

日本で外交官等身分証明票と免税カードを発行しているのは、外務省(大臣官房儀典長)である。

日本では、外交特権として課税免除を認めており、免税特権を有する証明書として外交官に対して免税カード(DSカード)を発行している。租税特別措置法第86条に、外国公館等に対する課税資産の譲渡等に係る免税という条文があり、適用範囲は広く、固定資産税所得税以外にも消費税ガソリン税など間接税も免除される。ただし、免税が適用されるのは外務省から在日外国公館免税店の指定を受けている業者から免税カードを提示して購入した場合のみであり、一般のコンビニエンスストアなどでは免税されない。外交官等身分証明票と免税カードは別物であり、外交官だからといって全員が必ず持っているわけではなく、免税カードには免税の適用範囲が書いてあり、在日外国公館免税店であれば、全てが無条件に免税になるというわけでもない。

昔は外交官等身分証明票に有効期限はなかったが、外交官が未返却のまま帰国してしまい、返納されない外交官等身分証明票が大量に出ていることから、有効期限が記載されるようになった。無効になった外交官等身分証明票の身分証明票番号は、官報で公示されている。
外交事件

1973年8月 -
金大中事件が起こる。日本は駐日本国大韓民国大使館の金東雲(コードネーム。本名は金炳賛)一等書記官に対し、営利誘拐容疑で出頭を求めたが外交特権を盾に拒否。日本はペルソナ・ノン・グラータを発動。

1984年4月 - ロンドンの在英国リビア大使館(英語版)は、大使館前で反カダフィ政権デモを行っていた群衆に対し、リビア大使館内より警告なしに自動小銃を発砲。これによりイギリス警官Yvonne Joyce Fletcherが死亡、イギリスはリビアと断交した。本日まで犯人は明らかにされていない。

2006年、駐日インド大使館職員の男がビザの申請に訪れた日本人女性に無理やりわいせつな行為をした疑いがあるとして、警視庁が捜査。警視庁は強制わいせつ容疑で逮捕状をとったが、男は既に帰国していた[2]


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