変圧器
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発・変電所の大型変圧器電柱に取り付けられた変圧器

変圧器(へんあつき)は、交流電力電圧の高さを電磁誘導を利用して変換する電力機器電子部品である[1]変成器(へんせいき)、トランスとも呼ぶ。電圧だけでなく電流も変化する。変圧器は静的な(可動部がない)機械であり、周波数を変えずに電力をある電気回路から別の電気回路に転送する[2]

交流電圧の変換(変圧)、インピーダンス整合平衡系-不平衡系の変換に利用する。
理論
原理変圧の基本原理

変圧器は、磁気的に結合した(相互誘導)複数のコイルからなる。コイル内外に磁気回路をともなうものもある。コイルに使用する導線を巻線という。

特に2個のコイルから成るものにおいて、入力側のコイルを一次コイル、出力側のコイルを二次コイルという。一次コイルに交流電流を流し、変動磁場を発生させ、それを相互インダクタンスで結合された二次コイルに伝え、再び電流に変換し、出力する。

変圧器によって電圧を変更することを変圧(へんあつ)といい、電圧を上昇させることを昇圧(しょうあつ)、逆に下降させることを降圧(こうあつ)という。

一次側に入力されるエネルギと二次側から出力されるエネルギーは同じである。そのため、昇圧させれば電流は減る。

変圧器の特有の現象ではないが、エネルギー保存則の影響を受けるため、一次側に入力したエネルギは二次側から出力されるエネルギーと熱、音、漏洩した磁束と等しくなる。そのため実際には変換の際に損失があるため二次側でエネルギーが減少する。
変圧、巻数、変流の関係

一次コイルの電圧V1、巻数N1、電流I1をそれぞれ一次電圧、一次巻数、一次電流という。同様に二次コイルの電圧V2、巻数N2、電流I2をそれぞれ二次電圧、二次巻数、二次電流という。

またそれらの比V1/V2、N1/N2、I1/I2をそれぞれ変圧比(へんあつひ)、巻数比(まきすうひ)、変流比(へんりゅうひ)という。巻数比は変成比(へんせいひ)とも呼ばれる。

理想的な変圧器では巻数比と変圧比は等しく、さらに変圧比は変流比の逆数と等しい。すなわち、以下が成り立つ: N 1 N 2 = V 1 V 2 = I 2 I 1 {\displaystyle {\frac {N_{1}}{N_{2}}}={\frac {V_{1}}{V_{2}}}={\frac {I_{2}}{I_{1}}}} ... (a)

前者の等号が成り立つ条件は、1次コイルと鎖交する磁束が全て2次コイルと鎖交することである。より一般に1次コイルと鎖交する磁束のうち割合k が2次コイルと鎖交する場合は、 N 1 N 2 = k V 1 V 2 {\displaystyle {\frac {N_{1}}{N_{2}}}=k{\frac {V_{1}}{V_{2}}}}

が成立する。この値k のことを1次コイルと2次コイルの結合係数という。従って (a) の第一の等号が成り立つ条件は結合係数が1になることであると言い換えられる。

一方 (a) の第二の等号が成り立つ条件は、変圧器で電気的なエネルギーが保存されることである。実際エネルギー保存が成り立てば I 1 V 1 = I 2 V 2 {\displaystyle I_{1}V_{1}=I_{2}V_{2}} であるので、第二の等号が成り立つ。なお回路中に1つでも抵抗があればそこからエネルギーが熱として逃げてしまうので、電気的なエネルギーは保存せず、第二の等号が言えない。しかしこうした熱が十分小さければ第二の等号は近似的に成立する。
励磁電流

鉄心に主磁束を形成する電流が励磁電流(れいじでんりゅう)である。理想的な変圧器では、励磁電流の位相は一次電圧よりも90°遅れる。実際には鉄心の磁気飽和やヒステリシスにより励磁電流の波形は主に奇数次の高調波ひずみを含む。

電源周波数を高くすると励磁電流は減少する[3]
損失
無負荷損
鉄損
通電(励磁)している場合、負荷の大きさに関係なく生じる損失。
負荷損
負荷電流の2乗にほぼ比例する損失である。
銅損
巻線による電気伝導体電気抵抗によるジュール損
漂遊負荷損
漏れ磁束による変圧器各部に生ずる渦電流損
変圧比と巻数比の関係の導出

変圧比と巻数比の前述した関係式 N 1 N 2 = k V 1 V 2 {\displaystyle {\frac {N_{1}}{N_{2}}}=k{\frac {V_{1}}{V_{2}}}}

マクスウェル方程式から導出する。

1次コイルに交流電流を流すと、電圧 V 1 {\displaystyle V_{1}} の変化に応じて1次コイル内の電場 E 1 {\displaystyle {\boldsymbol {E}}_{1}} が変化する。電磁誘導の法則により E 1 {\displaystyle {\boldsymbol {E}}_{1}} の変化は磁束 Φ 1 {\displaystyle \Phi _{1}} を生じさせ、磁束 Φ 1 {\displaystyle \Phi _{1}} は変圧器の芯を通って2次コイルへと到達し、一部の磁束は漏れ経路を通りながら2次コイルへと到達せずに一次コイルに戻る。1次コイルから発生する全磁束 Φ t {\displaystyle \Phi _{t}} のうちの有効磁束 Φ g {\displaystyle \Phi _{g}} が2次コイルに到達する。有効磁束の割合は漏れ係数 σ {\displaystyle \sigma } として表される。すなわち、 σ = Φ t Φ g {\displaystyle \sigma ={\frac {\Phi _{t}}{\Phi _{g}}}}

として、 Φ 2 = σ − 1 Φ 1 {\displaystyle \Phi _{2}=\sigma ^{-1}\Phi _{1}} ...(1)

が成立する。磁束 Φ 2 {\displaystyle \Phi _{2}} は1次コイルの場合と逆の過程をたどることにより、2次コイル内の電場 E 2 {\displaystyle {\boldsymbol {E}}_{2}} と電圧 V 2 {\displaystyle V_{2}} とを変化させる。

1次コイル、2次コイルの断面をそれぞれ S 1 {\displaystyle S_{1}} 、 S 2 {\displaystyle S_{2}} とし、さらに1次コイル、2次コイル内の磁束密度をそれぞれ B 1 {\displaystyle {\boldsymbol {B}}_{1}} 、 B 2 {\displaystyle {\boldsymbol {B}}_{2}} とすると、i=1,2に対し、 d Φ i d t = ( 2 ) d d t ∫ S i B i ⋅ d S = ( 3 ) − ∫ S i ∇ × E i ⋅ d S = ( 4 ) − ∫ ∂ S i E i ⋅ d s ≒ ( 5 ) V i N i {\displaystyle {\frac {\mathrm {d} \Phi _{i}}{\mathrm {d} t}}{\underset {(2)}{=}}{\frac {\mathrm {d} }{\mathrm {d} t}}\int _{S_{i}}{\boldsymbol {B}}_{i}\cdot \mathrm {d} {\boldsymbol {S}}{\underset {(3)}{=}}-\int _{S_{i}}\nabla \times {\boldsymbol {E}}_{i}\cdot \mathrm {d} {\boldsymbol {S}}{\underset {(4)}{=}}-\int _{\partial S_{i}}{\boldsymbol {E}}_{i}\cdot \mathrm {d} {\boldsymbol {s}}{\underset {(5)}{\fallingdotseq }}{\frac {V_{i}}{N_{i}}}} ... (6)

ここで (2)、(3)、(4) はそれぞれ磁束の定義 Φ i = ∫ S i B i ⋅ d S {\displaystyle \Phi _{i}=\int _{S_{i}}{\boldsymbol {B}}_{i}\cdot \mathrm {d} {\boldsymbol {S}}} 、ファラデー=マクスウェル方程式 ∇ × E i = − ∂ B i ∂ t {\displaystyle \nabla \times {\boldsymbol {E}}_{i}=-{\frac {\partial {\boldsymbol {B}}_{i}}{\partial t}}} 、ストークスの定理から従う。


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