壁
作者安部公房
国 日本
言語日本語
ジャンル中編・短編小説
発表形態オムニバス作品集
刊本情報
出版元月曜書房
『壁』(かべ)は、安部公房の中編・短編集。「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭」(「洪水」「魔法のチョーク」「事業」)の3部(6編)からなるオムニバス形式の作品集である。1951年(昭和26年)5月28日に石川淳の序文を添えて月曜書房より刊行された。
表題作でもある「壁―S・カルマ氏の犯罪」は安部の最初の前衛的代表作で、第25回芥川賞を受賞した[1]。ある朝突然、「名前」に逃げ去られた男が現実での存在権を失い、他者から犯罪者か狂人扱いされ、裁判までもが始まってしまい、ありとあらゆる罪を着せられてしまう。彼の眼に映る現実が奇怪な不条理に変貌し、やがて自身も無機物の壁に変身する物語で[2]、帰属する場所を失くした孤独な人間の実存的体験と、成長する固い壁に閉ざされる空虚な世界と自我の内部が、安部公房特有の寓意や叙事詩的な軽さで表現されている[2]。 「第一部 S・カルマ氏の犯罪」は、1951年(昭和26年)、雑誌『近代文学』2月号に「壁―S・カルマ氏の犯罪」の表題で掲載され、同年7月30日に第25回(昭和26年上半期)芥川賞を受賞した。「第二部 バベルの塔の狸」は同年、雑誌『人間』5月号に「バベルの塔の狸」の表題で掲載(挿絵は桂川寛)された。「第三部 赤い繭」は、前年1950年(昭和25年)、雑誌『人間』12月号に「三つの寓話」(「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」)の表題で掲載され、1話目「赤い繭」は第2回(1950年度)戦後文学賞
発表経過・創作意図
安部公房は、3部作は一貫した意図によって書かれたもので、壁というのはその方法論にほかならないとし[4]、以下のように述べている。壁がいかに人間を絶望させるかというより、壁がいかに人間の精神のよき運動となり、人間を健康な笑いにさそうかということを示すのが目的でした。しかしこれを書いてから、壁にも階級があることを、そしてこの壁があまりにも小市民的でありすぎたことを思い、いささか悔まずにはいられませんでした。 ? 安部公房「あとがき」(『壁』)[4] 壁―S・カルマ氏の犯罪
第一部・S・カルマ氏の犯罪
作者安部公房
国 日本
言語日本語
ジャンル中編小説
発表形態雑誌掲載
初出情報
初出『近代文学』1951年2月号
刊本情報
収録『壁』
出版元月曜書房
出版年月日1951年5月28日
装幀勅使河原宏
挿絵桂川寛
受賞
第25回(昭和26年上半期)芥川龍之介賞
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安部は、この作品について、一般的にはカフカの影響があると見られがちだが、ルイス・キャロルの影響の方が強いと語っている[5]。また、主人公「S・カルマ氏」については、以下のように説明している。このナイーブで平凡な、わが主人公は、私の考えでは一種の実存主義者らしい。