塩酸
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塩素酸」とは異なります。

この項目では、水溶液について説明しています。気体については「塩化水素」をご覧ください。

塩酸




IUPAC名

クロランのオキシダン溶液[1]
別称.mw-parser-output .plainlist--only-child>ol,.mw-parser-output .plainlist--only-child>ul{line-height:inherit;list-style:none none;margin:0;padding-left:0}.mw-parser-output .plainlist--only-child>ol li,.mw-parser-output .plainlist--only-child>ul li{margin-bottom:0}

Muriatic acid[2]

Spirits of salt[3]
Hydronium chloride
Chlorhydric Acid

識別情報
CAS登録番号7647-01-0 
PubChem313
ChemSpider307 
UNIIQTT17582CB 
EC番号231-595-7
E番号E507 (pH調整剤、固化防止剤)
国連/北米番号1789
ChEMBLCHEMBL1231821 
特性
化学式HCl(aq)
外観無色透明な液体、濃度の高いものは煙を発生させる
匂い独特な刺激臭
融点

濃度に依存 ? を見ること
沸点

濃度に依存 ? を見ること
log POW0.00[4]
酸解離定数 pKa?5.9 (HCl gas)[5]
危険性
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード危険[6]
HフレーズH290, H314, H335[6]
PフレーズP260, P280, P303+361+353, P305+351+338[6]
NFPA 704031
関連する物質
関連物質

フッ化水素酸

臭化水素酸

ヨウ化水素酸

特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

塩酸(えんさん)とは塩化水素水溶液であり強酸の一種である。オランダ語Zoutzuur或いはドイツ語Salzsaureの直訳。本来は塩化水素酸と呼ぶべきものだが、歴史的な経緯から酸素を含む酸と同じように、塩酸と呼ばれている[7]。 無色の液体で独特な辛い匂いがする。人間を含むほとんどの動物の消化器系において塩酸は胃酸の成分となっている。塩酸は重要な実験用試薬および工業用化学物質とされている[8][9]
歴史

10世紀初頭、ペルシャの医師で錬金術師アル・ラーズィー (865?925年頃、ラテン語:ラーゼス) は、塩化アンモン石 (塩化アンモニウム) とビトリオール(英語版) (さまざまな金属硫酸塩水和物)を用いて実験を行った。混合して蒸留したところ、塩化水素ガスが生成された。そうすることで、アル・ラーズィーは塩酸の発見に非常に近づいたが、彼は実験のガス状生成物を無視し、代わりに残留物に影響を与える可能性のある色の変化に集中したようである[10]。アル・ラーズィーの実験に基づいて、De aluminibus et salibus (『ミョウバンと塩について』、誤ってアル・ラーズィーによるものとされた11世紀または12世紀のアラビア語の文書。クレモナのジェラルドによって12世紀の後半にラテン語に翻訳された。) では、金属のさまざまなの加熱について説明されていて、水銀の場合には塩化水銀(II) (昇汞) が生成されることが記載されている[11]。この過程では実際に塩酸が生成され始めるが、すぐに水銀と反応して昇汞が生成される。De aluminibus et salibusが主要な参考書の1つであった13世紀のラテン錬金術師は、昇汞の塩素化特性に魅了され、ビトリオール、ミョウバン、塩の加熱の過程で金属の脱離の際に強鉱酸を直接蒸留することができることをすぐに発見した[12]。鉱酸の発見から生まれた重要な発明の1つには、硝酸と塩酸の1:3の比率の混合物であり、を溶解できる王水がある。王水は偽ゲーベル(英語版)による De inventione veritatis (『真実の発見について』、1300年頃以降)で最初に記載された。ここでは、王水は塩化アンモニウムを硝酸に添加して調製された[13]。しかしながら、塩酸自体の生産 (つまり、すでに硝酸と混合されているのではなく、分離された物質として) は、その後の数世紀ではじめて開発されることとなる、より効率的な冷却装置の使用に依存した[14]。したがって、塩酸の製造法は16世紀後半になって初めて登場し、最も古いものはジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ (1535?1615) 著Magia Naturalis(英語版) (『自然の魔法』) や、アンドレアス・リバヴィウス (1550?1616頃)、ジャン・ベガン (1550?1620)、オズワルド・クロル(英語版) (1563?1609頃) のような他の同時期の化学者の著作で見られるものである[15]。塩酸などの鉱酸の知識は、ダニエル・セナート(英語版) (1572?1637) やロバート・ボイル (1627?1691) のような17世紀の化学者にとって非常に重要なものであった[16]
語源

ヨハン・ルドルフ・グラウバーの方法に従って岩塩から製造されたため、塩酸は歴史的にヨーロッパの錬金術師によってspirits of salt (塩の精) または acidum salis (salt acid、塩の酸) と呼ばれていた。特に他の言語では、ドイツ語: Salzsaure、オランダ語: Zoutzuur、スウェーデン語: Saltsyra、スペイン語: Salfuman、トルコ語: Tuz Ruhu、ポーランド語: kwas solny、ハンガリー語: sosavそしてチェコ語: kyselina solnaのようにこれらに由来する名称が使用し続けられている。英語では、ガス状のHClはmarine acid airと呼ばれていた。muriatic acidという名称は同じ由来であり (muriaticは塩水または塩に関係するを意味するため、muriateは塩化水素を意味する)、この名称は今でも使用されることがある[2][17]。英語における現在の一般的名称であるhydrochloric acidに相当する語は、1814年にフランスの化学者ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックによって造られた[18]
産業の発展

ヨーロッパの産業革命の間に、塩基性物質の需要が増加した。イスーダン (フランス) のニコラ・ルブランによって開発された新しい工業的生産法により、炭酸ナトリウム (ソーダ灰) の安価な大量生産が可能になった。このルブラン法では、硫酸石灰石石炭を使用して塩化ナトリウム炭酸ナトリウムに変換し、副産物として塩化水素が放出される。英国1863年のアルカリ法(英語版)および他の国での同様の法律が制定されるまで、余分なHClはしばしば大気中に放出されていた。初期の例外としてはボニントン化学工場(英語版)があり、1830年にHClが捕集され始め、塩化アンモン石 (塩化アンモニウム) の製造に使用されていた[19]。法案の成立後、炭酸ナトリウムの生産者は廃ガスを水中に吸収する義務が生じたため、工業規模で塩酸が生産されることとなった[20][21]

20世紀には、ルブラン法が塩酸副産物のないソルベイ法に効果的に置き換えられていった。塩酸はすでに多くの用途で重要な化学物質として完全に定着していたため、商業的関心により他の製造方法が開始され、その一部は現在でも使用されている。2000年以降、塩酸は主に工業用有機化合物の生産で副産物として生成される塩化水素を吸収することによって作られている[20][21][8]
構造と反応

塩酸はヒドロニウム塩化物イオンの塩である。 そのイオンは陽イオンは実際には他の分子と結合していることがよくあるもののH3O+ Cl-と書かれる[22]。濃塩酸の赤外分光法ラマン分光法X線、および中性子回折を組み合わせた研究により、これらの溶液中のH+(aq)の主要な形態はH5O2+であり、いくつかの方法で、塩化物イオンとともに隣接する水分子水素結合していることが明らかになった[23]。(この問題についてのより深い議論についてはヒドロニウムを参照すること)
酸度

強酸なので、塩化水素のKa (酸解離定数) は大きい。理論的な推定では、塩化水素のpKaは-5.9であることが示唆されている[5]。ただし、塩化水素ガスと塩酸を区別することが重要である。水平化効果により、高濃度で挙動が理想から逸脱する場合を除いて、塩酸 (HCl水溶液) は、水中で利用可能な最強のプロトン供与体であるアクアプロトン (一般にヒドロニウムイオンとして知られる) と同じくらい酸性が強い。NaClなどの塩化物塩をHCl水溶液に添加してもpHへの影響はわずかであり、Cl-が非常に弱い共役塩基であること、HClが完全に解離していることが示される。 HClの希薄溶液は、水和したH+とCl-への完全な解離を想定して予測されたpHに近い値となっている[24]
物理的性質

質量分率濃度密度モル濃度pH粘度比熱容量蒸気圧沸点融点
kg HCl/kg kg HCl/m3ボーメ度kg/Lmol/LmPa・skJ/(kg・K)kPa°C°C
10%104.806.61.0482.87?0.51.163.471.95103?18
20%219.60131.0986.02?0.81.372.991.40108?59
30%344.70191.1499.45?1.01.702.602.1390?52
32%370.88201.15910.17?1.01.802.553.7384?43
34%397.46211.16910.90?1.01.902.507.2471?36
36%424.44221.17911.81?1.11.992.4614.561?30
38%451.82231.18912.39?1.12.102.4328.348?26
上記の表の基準温度圧力は、20 °Cおよび1気圧(101.325 kPa)である。蒸気圧の値は国際臨界表から取得され、溶液の全蒸気圧を参照している。
水中のHCl濃度による融解温度の変化[25][26]

沸点融点密度水素イオン指数 (pH) などの塩酸の物理的特性は、水溶液中のHClの濃度またはモル濃度に依存している。それらは、0% HClに近い非常に低濃度の値から40% HClを超える発煙塩酸の値までの範囲で定義されている[27][28][29]

HClとH2Oの2成分の混合物としての塩酸は、HClの濃度が20.2%の時に108.6 °C (227 °F)で一定になる沸騰共沸混合物である。[H3O]Cl (68% HCl)、[H5O2]Cl (51% HCl)、[H7O3]Cl (41% HCl)、[H3O]Cl・5H2O (25% HCl)、そして氷 (0% HCl)の結晶形の間には、塩酸の4つの一定結晶化共晶点がある。氷と[H7O3]Cl結晶化の間には、24.8%の準安定共晶点もある[29]。これらはすべてヒドロニウム塩である。
製造

塩酸は産業的には塩化水素を水に溶解させることで調製されることが多い。塩化水素はさまざまな方法で生成されることがあるため、塩酸の前駆体はいくつか存在する。 塩酸の大規模生産は、ほとんどの場合、水酸化物水素塩素を生産するクロルアルカリプロセスなどの工業規模の他の化学物質の生産と統合されている。この時発生する水素と塩素を利用してHClを生成することができる[27][28]
産業市場

塩酸は、最大38% HCl (濃縮グレード) 溶液として生産される。化学的には40%をわずかに超える高濃度にすることは可能だが、蒸発率が非常に高いため、保管と取り扱いには、加圧や冷却などの特別な予防措置が必要である。


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