堤防
[Wikipedia|▼Menu]
例:江戸時代初期築造の堤防
「伊木の堤」(鳥取市鹿野

堤防(ていぼう)とは、人家のある地域に河川海洋の水が浸入しないように、河岸や海岸、運河に沿って土砂を盛り上げた治水構造物のことである。一部は、土手(どて)とも呼ばれる。
河川堤防
概説

河川の堤防は主に洪水時の氾濫を防ぐ目的で設けられる。
堤防の構造一般的な河川堤防の断面図。
1.計画高水位 (HWL) 2.低水路 3.高水敷(河川敷) 4.表法 5.表小段 6.天端 7.裏法 8.裏小段 9.犬走り 10.低水護岸 11.堤外地 12.堤防敷 13.堤内地 14.河川区域整備中の堤防

堤防から見て河川のある側を堤外(ていがい)といい、その反対側を堤内(ていない)という。一般的な感覚とは内外逆に思えるが、人家のある土地を堤防で囲って護るという考え方から生まれた呼称である。

堤防の平坦になった頂部は天端(てんば)、もしくは馬踏(ばふみ)と呼ばれ、3m以上の計画高水流量により決められた幅にされている。この天端には河川管理のための人車が通行可能な河川管理用通路が設けられ、必要に応じて敷砂利やアスファルト舗装が施されている。

堤防も場所によっては、一般車両の通行可能な国道や都道府県道等の一般道と同等の「併用道路」とされているが、天端は洪水時において水防活動を実施する空間となるため、水防活動を妨げるガードレールや街灯といった構造物は可能な限り設置が避けられる。

このため一般の道路は、天端を区分して平行に設けたり、斜面を1段下がった小段に設けることで、水防活動と一般交通路としての利用を分離している区間も多い。

天端の両端の法肩(のりかた)から下る斜面は法面(のりめん)といい、堤外側の法面を表法(おもてのり)、堤内側の法面を裏法(うらのり)という。法面の勾配は原則として50%以下[1]と定められている。

通常は法面にはを生やすことで表面の崩落を防ぐが、水流が強くなることが予想される箇所の表法面はコンクリートブロックなどで護岸が行われる。

大きな堤防になると(高さ3m以上)、法面の崩壊を防ぎ、安定を図るため、中腹に水平な段が設けられる。これを小段といい、1.5m以上の幅で設けるよう定められている。ただし、小段に水が溜まることを嫌って、最近は流下断面に余裕がある場合、小段を設けずに緩傾斜とした1枚法で改修される場合がある。また、堤防の安定や非常用土砂の確保、環境保全において必要のある場合には、裏法に盛り土を行うことがある。これを側帯という。側帯はときに頂部を公園としたり、並木を植えるなどして利用されることもある。

日本では堤防を完成堤防と暫定堤防、暫々定堤防とに区分している。

完成堤防の定義は「計画高水位に対して必要な高さと断面を有し、さらに必要に応じ護岸(のり覆工、根固工等)等を施したものをいう」としている[2]。暫定堤防は計画高水位に対して必要な高さと断面(幅)を有し、さらに必要に応じ護岸等のうち、どれかは満たす状態の堤防で、暫々定堤防はそのどれも満たしていない堤防である。

前述の断面とは一般に堤防断面と呼ばれ、これは堤防を水流行方向ではなく、横断面方向にカットした際の形状断面である。

暫定堤防のうち、高さがあるが断面幅の狭い堤防のことをかみそり堤と呼んでいる[3][4]

特に隅田川に設置されているコンクリートウォール製の高さがあるが断面幅の狭い鉛直型防潮堤はカミソリ堤防と呼ばれる[5][6][4]

また、計画高水位に対して必要な高さと断面を有する堤防断面を計画堤防断面としており、河川管理施設等構造令では河川の規模(流量規模)に応じて堤防高ほかが規定されているため、これに基づいて各河川の計画堤防断面が決定されている(形状規定方式)[7]
特殊堤・胸壁
堤防の材料は土を基本とする。この場合、土は自立させるために断面を底面の広い台形に仕上げる必要があるが、都市部などで、通常の堤防を作るだけの用地が確保できない場合、主要部分にコンクリートや鋼矢板などを用いた壁状の堤防を造ることがある。これを特殊堤という。また、同様の理由で堤防高が十分に取れない場合、堤防上にコンクリートなどで壁を造り高さを補うことがある。この壁を胸壁という。

尚、同様の特殊堤として、河川構造物に越流堤、囲繞堤(いじょうてい)、背割堤及び道流堤がある。
堤防の種類多様な堤防さいたま市桜区にある荒川左岸の横堤。

本堤洪水を防ぐ役割を主に担う連続堤のことを本堤という。

副堤、控え堤、二線堤本堤の保護やバックアップの目的で設けられる小さい堤防のことを副堤、控え堤、二線堤という。

横堤河道とほぼ直角に、本堤から河川に向かって設けられた堤防のこと。洪水の流れを受け止めて流速を落とし、遊水池のような効果も期待できる。河川敷を広く取った場所に造られ、普段は耕地として利用されている他、天端部を橋に接続する道路として使用されているものもある。埼玉県比企郡吉見町から戸田市にかけての荒川に荒川横堤が設けられた。岐阜県愛知県木曽川流域の猿尾堤では河道とほぼ直角に設けられているが遊水機能はない。また遊水機能がない河道にほぼ直角に設けられている堤防を「突堤」[8]と表記して横提と区別している本[9]もある。

囲繞堤、周囲堤、越流堤遊水池を設けて氾濫した水の受け皿とする場合、遊水池と川を隔てる堤防を囲繞堤(いじょうてい、いにょうてい、いぎょうてい)、遊水池と人家のある土地を隔てる堤防を周囲堤とよぶ。また、遊水池へ水を導くためわざと堤防を低くしてある部分を越流堤(別名:洗い堰)とよぶ。越流堤には流水により浸食されない強固な構造が要求される。

背割堤河川の合流部に、二つの流れを分けるように設けられた堤防。一方の河川で増水があったとき、もう一方の河川への背水(逆流や堰上げ)による影響を小さくするために、互いの河川の水位に大きな差がある場合に設けられる。

導流堤河川の分流・合流地点、河口などに設置される堤防。流れと土砂の移動を望ましい方向に導くために設けられ、背割堤は導流堤の役割を兼ねていることが多い。

霞堤堤防が不連続となっており、上流側堤防の終端部の堤内側に平行して下流側堤防が始まる構造の堤防。堤防が折り重なる様子を霞に見立ててこの名がある。『霞堤』という単語自体は、明治時代に常願寺川のある急流河川の不連続堤を形容して作られたものであった。単語が普及していくにつれて豊川の緩流河川にある鎧堤、羽衣堤と呼ばれていた不連続堤防も『霞堤』と呼ばれるようになった。

尻無堤集落や耕地を上流から水が流れてくるのを防ふせぐために上流側に設けられた堤防。その後、水が下流から入りこむことを防ぐために下流側に「懸廻堤(かけまわしてい)」といわれる堤防をつくるようになり、それらが輪のような形となり「輪中堤」となりました。[10]

輪中堤集落や耕地の周囲をぐるりと囲うように設けられた堤防。堤に囲まれた部分は輪中とよばれる。木曽川長良川揖斐川の合流する濃尾平野につくられたものが有名。三重県桑名市長島町などに見られる。

山付堤山の尾根など、地形の高まりに接続するように造られた堤防。河川から氾濫した水が、山や台地内にある低地(開析谷など)に入って起きる内水氾濫を防ぐため設けられている。

堤防の整備

日本において河川堤防は、河川法に定める河川管理施設の一つとされ河川区域に含まれるため[11]、私有地内にあったとしても工作物の設置や土地の掘削、竹木の植栽・伐採などには河川管理者の許可が必要となる。ただし、高規格堤防特別区域(後述)では規制が緩和される。
設計河川堤防(断面図)

堤防の大まかな設計は、位置と高さ、幅より構成される。以下では日本の事情について記述する。

位置多くの河川では、過去に氾濫した時の堆積土砂である自然堤防が堤体として利用できるため、堤防の設置位置はこういったものの形状と量に左右される傾向が強い[12]。また、人工河川では用土確保の他にも周囲の交通路への影響や無理のない河川の流れも考慮される。

高さ堤防の高さは「計画高水位」に基づいて決められ、安全に流せる最大の流量「計画高水流量」から導かれる。計画高水流量は、河川流域の「対象降雨量」に、設計に用いる最大の雨量が発生する確率「計画確率」[13]を適用した上で、流出計算を施すことで「基本高水流量」を求め、これからダムや遊水地での「洪水調整量」を引いたものである。計画高水位は計画確率で用いた雨量時に発生する高水位のことであり、計画高水流量など時間による変化で表したハイドログラフなどを用いて決定される[12]

幅堤防の幅は、越水・浸透・浸食に対する十分な安全性が保たれるように考慮されて提体の断面幅が決められる[12]


流水部を含めた計画横断面は定規断面と呼ばれるが、堤防定規断面は[14]、河川工事で盛土や切土を行う際に定規となる堤防の最小限必要となる[15]つまり計画高水流量を流すために必要な河川断面[16]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:97 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef