堆肥
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この項目では、肥料・土壌改良剤の一種について説明しています。生ごみ堆肥化容器については「コンポスター」をご覧ください。

「コンポスト」はこの項目へ転送されています。バンドについては「コンポスト (バンド)」をご覧ください。

堆肥(たいひ)とは、易分解性有機物が微生物によって完全に分解された肥料あるいは土壌改良剤のこと。有機資材有機肥料)と同義で用いられる場合もあるが、有機資材は易分解性有機物が未分解の有機物残渣も含むのに対し、堆肥は易分解性有機物が完全に分解したものを指す。

英語ではコンポスト (compost) と呼び、本項でも堆肥とコンポストを同義として扱う。なお、生ごみ堆肥化容器の生成物である堆肥(コンポスト)が転じて、生ごみ堆肥化容器をコンポストと呼ぶ場合がある。

堆肥が出来る過程は堆肥化を参照。
堆肥の効果

堆肥には土壌の化学性、物理性、生物性を改善する効果がある[1]
土壌の化学性の改善
窒素リン酸カリウム肥料の三要素)の供給[1]。さらに石灰や苦土(マグネシウム)等の多量要素やホウ素や鉄等の微量要素を含めて、肥料分の直接供給源になる[1][2]。また、堆肥が分解される過程で生成される土壌有機物は保肥力の向上にも効果がある[1]
土壌の物理性の改善
土が軟らかくなるため通気性、水持ち、水はけが良くなり、植物の根の伸長や養水分の吸収が改善される[1]。土壌の団粒形成を促進して土壌の物理性を改善し、作物の根圏の環境をよくする[2]
土壌の生物性の改善
堆肥の分解者(土壌動物や菌など)が増えることで生物相が豊かになり害虫や有害な病原菌の繁殖を抑える[1]

以上は相互に関連しており、堆肥によって土壌の通気性や保水性など物理性が改善することで微生物の活動環境がよくなる効果もある[3]。また養分を吸着保持し、作物に有害なアルミナや重金属と結合して植物の根を守る効果もある[2]

生産面では環境に配慮した安全・安心な農産物を求める消費者ニーズに対応することができる効果もある[1]。植物体の活力が高まるため生産物の食味や色、貯蔵性などがよくなる効果もあるとされる[3]
堆肥化の過程市販の堆肥入れ「堆肥化」を参照

堆肥化とは堆肥を作ることであり、その定義は「生物系廃棄物をあるコントロールされた条件下で、取り扱い易く、貯蔵性良くそして環境に害を及ぼすことなく安全に土壌還元可能な状態まで微生物分解すること」である (Goluke, 1977) 。あるコントロールされた条件下とは、堆肥化を行う微生物にとって有意な環境を人為的に作ることを意味している。また、有機物分解が不完全な状態では肥料として様々な問題を持つ。これらの問題が起こらなくなるまで人為的に分解を進めることが堆肥化である。

堆肥化微生物の活動を活発にするためには、次の条件を整えることが必要となる。炭素窒素のバランス(C/N比)、含水率pH温度及び酸素である。上記の条件が最適ではなかった場合、分解速度が落ちたり、製品の品質低下につながり、作物の窒素飢餓を招く。
速成堆肥

化学肥料を使って作られる堆肥で、1960年代に地力を維持させるうえで堆肥の必要性が再認識されたことから、無蓄農家で余る藁と市販の窒素肥料を使用して普通より早く腐熟させた堆肥である。
作り方は積み上げる前日までに十分湿らせた藁375sに対し、腐熟を促進させる窒素肥料(特に石灰窒素がよい)1.5s(重量比250:1)を交互に加えて積み上げ、保温と乾燥を防ぐため被覆し、2-3週間目に一度積み替えかき混ぜ、約6週間ほどで中熟堆肥となる
[4]
堆肥の熟度

作物により必要な堆肥の熟度は異なる[1]。堆肥の熟度が進むと原料の形状はほとんどなくなり水分も50%前後になる[1]
堆肥の品質基準

家畜ふん堆肥など堆肥の原料は様々で、肥料成分も多様であり、堆肥の使用目的や要求される条件も異なるため、どの堆肥がよいかは作物や土壌の状況に合わせて総合的に判断する必要がある[5]。堆肥を作る立場では流通・散布時の取り扱いやすさが重視されるため、発酵が進み、水分が少なく、手触りがサラサラとしていて、においが少ないほうがよい堆肥とされる[5]。また、堆肥を使う立場では、堆肥の肥料成分や土壌改良効果、安全性、価格や入手面のコストが重視され、堆肥に期待する効果が肥料成分の供給か土壌改良(土壌の物理性の改良)かによっても異なる[5]
有機物
「家畜ふん堆肥の推奨基準」(全国農業協同組合連合会、1994年)での推奨基準値は60%以上である[5]
C/N比
堆肥中の炭素と窒素の割合を示したもの。堆肥中の炭素は炭水化物に由来し、わらや落ち葉、おがくず、バークなど植物質を主原料とする堆肥は炭素を多く含むためC/N比の値が大きい[3]。一方、堆肥中の窒素はたんぱく質に由来し、家畜糞や肉や魚の残渣など動物質を主原料とする堆肥は窒素が多いためC/N比の値が小さい[3]。窒素が多くC/N比の値が小さい堆肥は「肥料効果型」の堆肥とされている[3]。ただし、C/N比の値が小さすぎると発芽時の濃度障害、根の発達不良、土壌病害発生などを起こすおそれがある[3]。窒素が少なくC/N比の値が大きい堆肥は、土の団粒化による通気性や保水性の改善に効果がある「根づくり効果型」の堆肥とされている[3]。ただし、C/N比の値が大きすぎると有機物分解のために窒素が消費されてしまい作物が成長不良となるおそれがある[3]。「家畜ふん堆肥の推奨基準」(全国農業協同組合連合会、1994年)での推奨基準値は30以下である[5]
重金属濃度
銅と亜鉛の濃度。これらは、作物にとって必要な微量要素であるが多すぎると作物に害を与える。「家畜ふん堆肥の推奨基準」(全国農業協同組合連合会、1994年)での推奨基準値は銅600ppm以下、亜鉛1,800ppm以下である[5]
電気伝導率(EC)
堆肥に含まれるイオンの量。「家畜ふん堆肥の推奨基準」(全国農業協同組合連合会、1994年)での推奨基準値は5.0dS/m以下である[5]
堆肥の種類
家畜ふん堆肥

最も堆肥化が行われているものが、家畜ふんの堆肥化である。使用されるのは主に牛ふん堆肥、豚ふん堆肥、鶏ふん堆肥である。

牛ふん堆肥は水分が高く速効性の肥料成分は少ない一方、難分解性有機物含量と緩効性の肥料成分が高い[6]。牛ふん堆肥では牛に給餌する飼料に粗飼料が多いとカリウムは高くなる一方、窒素、りん酸、石灰は低くなり、土壌中での分解も遅くなる[6]。一般的に豚ふん堆肥、鶏ふん堆肥よりもリグニンや炭水化物が多く窒素の肥効率は低い[6]

豚ふん堆肥は、窒素は鶏ふん堆肥よりは少なく、牛ふん堆肥よりは高く、石灰は牛ふん堆肥よりも高く、カリウムは牛ふん堆肥よりも低い傾向にある[6]。また、豚ふん堆肥は、一般的に銅や亜鉛含量が他の畜種の堆肥よりも高い[6]

鶏ふん堆肥はC/N比が小さく、石灰含量が他の畜種の堆肥よりも高い[6]。鶏ふん堆肥には木質系資材を混合したものと混合していないものとがあり肥効が異なる[6]。なお、堆肥は日本では肥料の品質の確保等に関する法律上の特殊肥料に分類されるが、肥料成分の含有量等が保証された一部の鶏ふんは普通肥料である「加工家きんふん肥料」として登録・販売されている[5]

豚ふん堆肥と鶏ふん堆肥は水分が低く、特にりん酸の肥料成分が多いが難分解性有機物含量は少ない(炭水化物は豚ふん堆肥と鶏ふん堆肥で同程度)[6]。豚ふん堆肥と鶏ふん堆肥は肥料系、牛ふん堆肥は土づくり系の資材とされている[6]
稲わら堆肥

稲わらは堆肥化しやすいがC/N比が60?70程度となるため、窒素源を加えてC/N比を30?40程度まで低下させて腐熟を進行させる必要がある[6]
もみがら堆肥

もみがらは稲わらに比べて堆肥化しにくく、C/N比調整の窒素源として家畜ふんを用いて腐熟を進行させる必要がある[6]


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