実効再生産数(英: effective reproduction number)とは異なります。
いくつかの感染症に対する集団免疫のしきい値(縦軸)と基本生産数(横軸)の関係
基本再生産数(きほんさいせいさんすう、英語: basic reproduction number、R0と表記され、R nought
あるいはR zeroと読まれる[1])とは、疫学において、感染症に感染した1人の感染者が、誰も免疫を持たない集団に加わったとき、直接感染させる人数の期待値である[2]。1人の患者が平均して何人に感染を広げる可能性があるかを示す[3][4]。また、人口学においては女性が生涯に生む期待女児数(純再生産率)を指す[5]。女性が1人だけ娘を産むときには人口は単純再生産であって、1人より多く産めば拡大再生産となる[5]。すなわち母親世代とその娘世代の総数比を指し、R0 が1より大きければ人口は拡大再生産されるが、1より小さければ縮小再生産される[6][7]。
基本再生産数は、人口学で生まれた概念であるが、感染症疫学でも基本概念である[6]。R0 は、人口学では人口増加の閾値として用いられ、進化生物学においては侵入生物ないし突然変異体の適応度と解釈され、感染症疫学では感染症の侵入条件や臨界免疫化割合を定量化するものと見なされる[8]。
疫学 R 0 {\displaystyle R_{0}} は、1人の人間から感染された人数の平均値である。たとえば、エボラの R 0 {\displaystyle R_{0}} は2であるため、平均するとエボラに感染した1人の人間は他の2人の人間にエボラを感染させる。
定義)[注釈 1]をもつ集団内で、一感染個体により直接生み出される感染個体数の平均と考えられる[9][要非一次資料]。この定義は他の個体はすべて感染しておらず、(先天性の、あるいはワクチン接種による)免疫をもっていない状況を記述している。オーストラリア保健省(英語版)による定義などでは「感染症の伝播に対する計画的な介入」のないことが付け加えられてる[10]。
定義により基本再生産数 R0 はワクチン接種により変更することはできない。また基本再生産数 R0 は無次元数であり、倍加時間[11] のような時間の単位[12] をもつ割合ではないことに注意が必要である。
基本再生産数 R0 は、環境因子や感染集団の行動による影響も受けるため、病原体に対する生物学的な定数ではない。さらに、基本再生産数 R0 の値は通常、数理モデルから推定されるので、推定値は使用されたモデルや他のパラメータの値に依存する。したがって、文献における値は特定の文脈においてのみ意味があり、古い値を使用したり、異なるモデルに基づく値を比較したりするべきではない[13]。また基本再生産数 R0 自体は集団内における感染症の蔓延する速度を推定するものではない。 基本再生産数 R0 の最も重要な用途は新興感染症が集団内に蔓延するかどうかを決定することと、感染症を撲滅するためには集団のどのくらいの割合にワクチン接種をして免疫化すべきなのかを決定することである。一般に使用される感染症モデル
感染症モデル
を超えなくてはならない[14];一方でエンデミックな定常状態における感受性個体数の割合は 1/R0 である。
基本再生産数は、感染個体の感染力の持続時間・微生物の感染性・感染個体が接触している集団における感受性個体数を含むいくつもの要因による影響を受ける。
疫学上、感染症流行を予測・抑制することは公衆衛生上で重要な課題であり、その問題に対して、個体群生態学で使用された数理モデルの安定性分析などが感染症疫学でも流用できたことから、この研究分野が発展する事となった[15]。
感染個体が単位時間あたり平均 β の感染を生み出す接触をし、感染性期間が平均 τ であると仮定する。このとき基本再生産数はR0 = βτ
で与えられる。この単純な式は R0 を減らし、最終的には感染の伝播を減らすいくつかの方法を示唆する。単位時間あたりの接触を減らす(たとえば、伝播が他者との接触を必要とする場合には、家に留まる)、または(防護具などによって)感染を生み出す接触の割合を減らすことで、単位時間あたりの感染を生み出す接触の平均 β を減らすことができる。また感染個体をできるだけ早く発見し、隔離/治療/殺処分(動物の場合によくある)することで、感染性期間の平均 τ を減らすことができる。
区画モデル「疫学における区画モデル」を参照
疫学における区画モデルの代表例としてSIRモデルがある。