垂直離着陸機
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縦軸が馬力毎の浮上効率、横軸が回転翼面荷重F-35の垂直離着陸システム解説図

垂直離着陸機(すいちょくりちゃくりくき、英語: Vertical Take-Off and Landing aircraft, VTOL機[注 1])は、全く滑走しないで垂直方向に離着陸する航空機[1]飛行船気球などの軽航空機回転翼機を含む場合もあるが、固定翼機に限定するのが一般的である[2]

また、電動のものはeVTOLと呼ばれるが、こちらは一般的に回転翼をもった機体が扱われる。
特徴と分類

固定翼機が垂直離着陸を行う場合、離着陸時にはエンジンの動力のみで機体を浮揚させるパワード・リフトを行う必要がある[2]。このため推力重量比を1以上に引き上げられるよう、軽量な機体と強力なエンジンの組み合わせが求められる[2]。また、離着陸時や遷移飛行中は空力的に安定を保つことができないため、動力による機体制御装置を備える[2]。VTOL機の形式は、パワード・リフトの方式と遷移飛行での推進方式の組み合わせ等によって多様であり、飛行に成功した機体だけでも、15?20種類に分類される[2]

コンバーチプレーン

ティルトローター

ティルトウイング


テイルシッター

推力偏向

リフトエンジン

なお、垂直離着陸機の多くは、垂直離着陸(VTOL)だけでなく短距離離着陸(STOL)にも対応しており、このような機体は垂直/短距離離着陸機と称される[3]
歴史

1928年にはニコラ・テスラがフリーバー(Flivver)と言う名前の空中輸送装置の特許を得たが、それが垂直離着陸の最初期に当たる。なお、これは現代のティルトローターに近いものであった。第二次世界大戦後期、連合国軍からの爆撃に常にさらされることになったナチス・ドイツは、滑走路なしで運用できる迎撃機の開発を急いだ。ドイツの各航空機企業はハインケル ヴェスペ(英語版)やハインケル レルヒェ(英語版)、フォッケウルフ トリープフリューゲルなどを提案したが、いずれも実用化されずに終戦を迎えている。

これら航空機は、いずれも「機体を立てて」の垂直離着陸方式を取っており、戦後に連合国も、近いシステムでの実用化を目指し、アメリカ合衆国XFYXFV-1を製作し、フランスC450コレオプテールを開発した。しかしXFY以外は垂直離着陸に成功せず、XFVは一応は飛行にも成功したものの、性能と実用性に問題があり(超音速戦闘機の時代において、いまだ亜音速未満であった)実用化には至っていない。これら、機体を立てて垂直離着陸を実現しようという方式は、テイル・シッター方式とよばれる。一番の問題とされたのは垂直着陸時にパイロットがミラーを利用してでしか地面を見る事ができないため、垂直着陸が非常に困難なことであり、この方式での垂直離着陸機の実用化は無理であるという結論に至った。 ショート SC.1

1953年、イギリスロールス・ロイスは、スラスト・メジャリング・リグ(英語版)とよばれる物を開発した。「空飛ぶベッドの骨組み(flying bedstead)」とよばれたこの代物は、まさにベッドの骨組みのような風貌であり、外見的にも航空機とは言いがたい代物であったが、これに使用されたエンジンの思想は、ショート SC.1(英語版)に使われたエンジンに引き継がれている。さらにこのシステムは、画期的な推力偏向式のジェットエンジンであるペガサス・エンジンの開発へつながった。ペガサス・エンジンは推力偏向可能なノズルを4ヶ所持ち、単発でも安定を保って垂直離着陸を可能とした。

イギリスはこのペガサスエンジンを装備するホーカー P.1127の開発を進め、1960年にはホバリング飛行に成功している。さらにその発展型であるホーカー・シドレー P.1154を計画したが、これは試作直前にキャンセルされた。しかし、ホーカー P.1127の開発は続けられ、改良型であるケストレル、そして、それの実用型であり、世界初の実用垂直離着陸機であるハリアーを生み出した。ハリアーは多くの国に採用され、開発国のイギリスを含め、正規空母が導入できない海軍において、軽空母をもって代替する際の搭載機として用いられた。 AV-8B

アメリカはイギリスが開発したハリアーにいち早く関心を示し、強襲揚陸艦の搭載機として海兵隊が採用した。さらには発展型のハリアー IIを開発し、元の開発国であるイギリスに逆輸出されるに至っている。1960年代から1970年代にかけて、大型空母の代替として制海艦構想が生まれ、搭載機としてマッハ2級の超音速戦闘機XFV-12を開発したが、結局実用化には至らず、制海艦構想も実現しなかった。ただしその構想は、強襲揚陸艦を必要時に空母の代替として運用するという形で活かされ、また他国の海軍の軽空母に影響を与えた。 初の実用ティルトローター機 V-22

NASAは1977年にXV-15(en)というティルトローター機を開発した。ニコラ・テスラのフリーバーから始まり、1950年代にはXV-3やXV-15といった実験機で実験が続いていたこの方式は、JVX計画により本格的な実現に向けた開発が始まった。これには以前から同システムの実験機を開発していたベルなどが開発に携わっている(V-22の原型ともいえるX-22もベルが製作)。この計画はV-22として結実し、同機体は現在配備が進められている。また民間機としては、この方式のノウハウを多く保有するベルがBA609を開発、初飛行に成功している。アメリカではほかに、シコルスキーS-72という機体を開発している。Xウイングともよばれるこの機体はヘリコプターと固定翼機のあいのこといった機体であり、ヘリコプターとほぼ同様の形で垂直離着陸を行った。また、ボーイングが開発したX-50もこれに近い形を取った航空機であるが、カナード・ローター/ウィング(CRW) という形式を取っている。

1960年代には、フランスがミラージュIIIを基にして、ミラージュIII Vバルザック Vという機体を開発した。この機体は音速飛行が可能であり、水平飛行でマッハ1.3という速度を出すことができた。同機体は1966年3月に垂直離陸から水平飛行への移行に成功した。しかし水平飛行用と垂直上昇用に別のエンジンを用い、かつ垂直上昇用エンジンを8基搭載するという、極めて実用性に乏しい機体であり、あくまで試験機であり、実用化はされていない。 世界初の4発垂直離着陸機、ティルトウィング式のXC-142

同じ頃、アメリカではXC-142という機体も開発されているが、試作された5機は全て事故を起こしている。

1号機はテイルローター関係の事故で3人死亡などである。この機体の事故原因は致命的な欠陥ではなく充分に改良が可能だった。だが、ベトナム戦争が緊迫していたために、実用化には至らなかった。

1960年代から1970年代初頭にかけて、西ドイツF-104を基にして、実験機であるVJ 101を開発し、X-1、X-2という2機の試作機が作られた。翼端に搭載されたエンジンそのものを90度方向転換して垂直上昇し、かつコックピット直後のリフトエンジンを併用する方式である。この機体は音速飛行が可能であったが、コスト高と政治的な都合から実用化されなかった。西ドイツは同時期にVAK 191B軽戦闘機、ドルニエ Do 31輸送機といった、VTOL機を開発しているが、いずれも量産には至ってはいない。

日本では1970年に航空宇宙技術研究所が開発していた実験機(FTB)が離陸および滞空に成功したが実用化には結びつかなかった。FTBは全長10m、長さ7m、高さ3mのジュラルミン製の骨組みの中央にターボジェットエンジンを2基搭載したもので、高度1.5mに上昇して3分弱滞空できる性能を有していた[4]

東側諸国では、ソビエト連邦(ソ連)がYak-38を実戦配備した。これは実験機であるYak-36を実用化したものであり、ソ連のキエフ級航空母艦などの艦載機として設計生産された。この機体のエンジンは前述のペガサスエンジンと異なりノズルは2ヶ所しか持たず、安定して垂直上昇するには別にリフトエンジンを2基が必要であった。また当初はSTOVL機能を有していなかった。この方式は水平飛行時にはデッドウェイトを生み出すという欠点があり、またVTOL性能自体が安定性が悪く、生産された200機中20機以上がVTOL時の事故で失われたとされる。また、ソ連は後継としてYak-141を開発した。Yak-38同様のリフトエンジン併用式だが、メインエンジンは一段と優れた推力偏向ノズルを備え、超音速戦闘機として一流の能力を持っていたが、ソビエト連邦の崩壊によって予算がなくなったこと、試作機が事故で喪失したことなどを理由として生産されずに終わった。ソ連崩壊後のロシアでは新型空母向けにV/STOL機を開発しているとされているが、詳細は不明である。

アメリカが開発中のF-35Bは、同一機体の派生型に垂直離着陸機能を付与するというものだが、一部燃料タンク部分を廃して垂直離着陸のための装備を付加するという方式で、航続距離以外は他の型(A/C型)にさほど劣らぬ能力を持つ予定である。メインエンジンに推力偏向ノズルを持つ点では、従来の他の多くの垂直離着陸機と同じだが、リフトエンジン併用ではなく、メインエンジンから伸びたシャフトで駆動されるリフトファンを用いる方式である。ジェットエンジンは静止時の効率は低いものであるため、垂直上昇にファンを用いればより効率は高くなる。

個人向けのVTOL機としては、カナダのポール・モーラー(英語版)が「スカイカー」というものを開発している。skycar(空飛ぶ車)は現状浮かぶことはできているが、水平飛行への移行試験が完了していない上、有人での飛行も行っていない。一方で、日本でも長野県松本市にあるGEN CORPORATION(英語版)が開発したGEN H-4が存在しており(後述)、実際に販売もされた。

ほかには、地球外での使用を想定したものの中にもVTOL機が存在する。LLRV(Lunar Landing Research Vehicle)というもので、滑走路や平面が存在しない地形での、VTOLによる運用を想定している。
実用機「垂直離着陸機一覧」も参照

ハリアー

ハリアー II

Yak-38

V-22ティルトローター

F-35B(STOVL機)

開発中

AW609(ベル/アグスタ・エアロスペース社) - 民間用。胴体はSUBARUが製作。

ベル V-280 - 2017年12月初飛行、ティルトローター方式。

Lilium Jet(リリウム・ジェット) - 垂直離着陸可能な100%電気動力の小型電気エアタクシーとして2017年に世界初の飛行テストに成功。2019年に有人飛行テスト予定。

ジョビー・アビエーション - エアタクシーサービスを目指すアメリカのベンチャー企業。

主な形式

回転翼機以外の垂直離着陸機は、国際民間航空機関(ICAO)ではパワード・リフトと類別している。
コンバーチプレーン

メインエンジンのノズルの噴射やプロペラの主軸の方向を変え、推力を離着陸時には下方に、水平飛行時には後方に変更するもの。飛行特性を固定翼機から回転翼機へ転換できることから『転換式航空機』(Convertible Aircraft)と呼ばれていた[5][6]
ティルトローター

垂直離着陸機において、エンジン(とプロペラ)の方向を転換する方式のもの。推力転向式とも呼ばれる[6]

垂直離着陸時(と低速飛行時)には、上方を向いたプロペラは、ヘリコプターのローターのように用いられる。そのため、通常のプロペラ機よりかなり直径が大きなプロペラを用いる(ただしローターとみなせば、通常のヘリコプターよりは小型となる)。詳細は「ティルトローター」を参照
ティルトウイング

垂直離着陸機において、エンジン(とプロペラ)のみならず、主翼も同時に方向転換するもの。後流偏方式とも呼ばれる[6]。詳細は「ティルトウイング」を参照
リフトエンジン

水平飛行用のエンジンとは別に、垂直離着陸専用のエンジン(リフトエンジン)を持つもの。複合推進式とも呼ばれる[6]

フランスが開発したバルザック Vに代表されるように、この方式では水平飛行用と垂直離着陸用にそれぞれ専門のエンジンを用いるが、後述の欠点も大きく、完全な実用性を持つものは前節で述べた推力偏向式のエンジンとリフトエンジンを併用する場合が多い。

リフトエンジンは水平飛行時には推力源として用いないため、デッドウエイトとなって全体的な性能低下を招くが、エンジンとしては短時間駆動させるだけで用が足りるため、同じ推力の通常のジェットエンジンよりも小型軽量化が可能であり、ある程度はこの欠点は緩和される。しかし、ジェットエンジンは静止時の効率が悪いという欠点があり、リフトエンジンにジェットエンジンを用いることにはその点で問題がある。また、リフトエンジンを集中して配置すると機体全体の重量バランスとの兼ね合いが難しいが、分散配置すると各エンジンの推力を完全に同調させなければならない(同調が不完全では体勢を崩して墜落してしまう)、という技術的困難があった。

この方式の航空機の開発には特にソビエトが熱心で、ヤコブレフ設計局がほぼ専任的に担当していた。


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