地震予知
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地震予知(じしんよち、英語: Earthquake prediction)とは、科学的方法により地震の時期・場所・規模の3要素を論理立てて予測すること[1][2]。厳密には短期的な事前避難や危険防止行動に繋がるもの(決定論的予測)を指し、長期の地震危険度は含まない[3][4]

日付・時間を指定するような短期的・決定論的な地震予知は、現時点では出来ない[5][6][7]。地震は唐突にやってくるという前提で、日頃から備えておくことが望まれる[8]
「地震予知」の定義
従来の定義

従来より地震予知の定義は、地震がいつどこでどれくらいの大きさで起こるか、つまり発生時期・発生場所・規模の3つの要素を地震が発生する前に予め示すこととされていた。

しかし、地震予知研究が進んで多様化していく中で、長期的な発生確率なども「地震予知」と呼ぶ傾向が広がっていった。長期的な発生確率は警報のような緊急性を持たず、情報の活かし方が決定的に異なるため、「地震予知」で一括りにして議論をすると話がかみ合わないという問題が生じていた。そのため、予測期間により区分する場合があった[4][9][10]

予知の情報を入手したら、応急的な被害回避の対応を取るようなもの、例えば「何日後に地震が起こる」「X月X日に地震が起こる」というように狭い範囲(概ね地震の数か月前以内)で日時を指定するものを「短期予知」、日本国政府地震調査研究推進本部が示す「30年以内にN%の確率で地震が起こる」のように長期的で、建築物の耐震化などの恒久的な対応に資するものを「長期予測」または「長期予知」とする区分が比較的よく使用されていたほか、短期予知のうち地震発生の2-3日前程度以内に予知を行うものを「直前予知」としてさらに区別することもあった[4][9][10][3]。そのほかにも、別の基準から「長期予知」「中期予知」「短期予知」の3区分や「長期予知」「中期予知」「直前予知」の3区分とする例もあった[11][12][13]

また、地震予知の中の長期予測に限って「地震予測」と呼び分ける例もあれば、「地震予知」と「地震予測」を同義で用いる例も珍しくなかった[14]

このように、研究者や専門家の間でも用語は統一されておらず、混乱が見られた[9][11][14]
新しい定義

IASPEIと日本地震学会の定義の違い警報につながる確度の高いもの確率で表現され日常的に公表可能なもの
IASPEI
(2009年)"deterministic prediction"
(決定論的予知)"probabilistic forecast"
(確率論的予測)
日本地震学会
新しい定義地震予測
地震予知
日本での
従来の定義地震予知
(直前予知/短期予知/中期予知/長期予知 等に区分)

2009年4月のイタリア・ラクイラ地震で地震予知情報に関する騒動が起きたことを受けて、翌2009年国際地震学及び地球内部物理学協会(IASPEI)の部会として「市民保護のための国際地震予測に関する検討委員会(CCEP)」が開催された。この勧告において、従来「地震予知(earthquake prediction)」と呼ばれていたものは2種類に区分できる事が明確に示された。2区分とは、決定論的予知(deterministic prediction)と確率論的予測(probabilistic forecast)である。前者は「警報につながる確度の高いもの」、後者は「確率で表現され日常的に公表可能なもの」である[5][2][3]

日本地震学会はこの勧告を受けて、従来の「時期・場所・規模の3要素を満たした予測」という定義は決定論的予知にあたり、確率論的予測には当てはまらないという見解を発表した。ただし、報告書の中で言及しただけにとどまるもので、周知されるには至らなかった[5][2][3]

しかし、2011年の東北地方太平洋沖地震の予見ができなかったことに対する反省を契機として、2012年秋に日本地震学会は用語の見直しを正式に定めた。決定論的予知が「地震予知」、決定論的予知と確率論的予測の総称が「地震予測」と定義された。これにより、「警報につながるほど確度の高い決定論的なもの」だけが厳密な意味での「地震予知」と定義されるとともに、従来「地震予知」に含められていた長期的な予測は「地震予測」に分離された。CCEPの勧告では、「決定論的予知」は可能性が無いわけではないが現時点で非常に困難である一方、「確率論的予測」は地震の恒常的リスクを示す手段として社会に有用であることが示されている。日本地震学会の見直しはこれを背景にしたもので、「現時点で非常に困難」である地震予知の定義を絞り、実用化レベルに達している長期的な予測と一線を画することで、地震予知にまつわる市民の誤解を軽減する狙いがある[4][9][10][3][15]

なお、地震の発生後に伝達する地震警報システム緊急地震速報)は、地震予測・予知には含めない[14]
注意点:情報の適切さ

地震予知を考えるにあたって注意すべきとされることがある。それは、予知の3要素の適切さである。発生時間・発生場所・規模のうちいずれか1つでも曖昧に示されていると、地震予知として生かしづらい情報になってしまうことがある。例えば、「日本のどこかで」「今後1年以内」といった広範囲や長期間では現実的に対策が難しいし、「明日、東京で地震が起きる」「東京に大地震が起きる」というように3要素の1つでも欠けると予知の範囲が無制限に広がってしまう[注 1]。また、規模に関してはたとえ明確であっても、被害をもたらさないような小さな規模では意味がない[4][9][10][16]

このほか、特にウェブページや雑誌など巷に溢れている「地震予知」情報に対しては、「予知」の根拠となるデータの観測期間が十分にあるか、「予知」の根拠として地震と異常現象の関連を説明する仮説が立てられており、その仮説は一般的な科学の法則に従っているか、仮説やそれに基づく「予知」は第三者により検証可能か、また基本的事項として問合せ先が明示されているかなど、客観的に十分な検討をすることが推奨されている[17]
決定論的地震予知の特質性

確率論的予測たる地震予測も決定論的予知たる地震予知も、ともに本質的に地震発生の確率を求める事である。しかし、決定論的「地震予知」は、地球物理学が通常扱う問題とは大きく異なっている。決定論的「地震予知」は、不十分な情報をもとに、多くの不確定要素がある中で、時間の制約を受けながら行わなければならず、科学的判断以外のものが要求されるためである[18]。科学的判断以外のものとは、例えば住民の反応や社会影響を考慮した政治的・行政的な判断などである[19]。リンド(A.G.Lindh,1991)はこれを、決定論的「地震予知」[注 2]は「通常の科学的判断よりも医者将軍の下す判断に似ている」と述べている[18]
評価方法

予知評価のための分類[20][21][22]観測した
はいいいえ
予測したはいA.真陽性(TP)
的中, 成功B.偽陽性(FP)
第一種過誤
空振り, 誤警報
いいえC.偽陰性(FN)
第二種過誤
失敗D.真陰性(TN)
正否定, 正棄却
平時の状態

「警報が当たった」「警報が外れた」「警報なしに地震が発生した」という事例は、厳密には二項分類を用いて右表のように分類できる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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