地球寒冷化
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地球寒冷化(ちきゅうかんれいか)とは、英語 "Global cooling" の訳であり、特に1970年代に、エアロゾルと軌道強制力の冷却効果により、地球の差し迫った冷却が広範囲の氷河期に達するという説の事を指す[1]。また、原始地球の全球融解(マグマオーシャン)以後に起こった冷却過程のこと[2]
寒冷化の定義

寒冷化とは、長期にわたり気温が低下することであり、繰り返される地球の気温の上昇下降の下降傾向のことである。地球の寒冷化は約10万年周期で温暖化と寒冷化を繰り返し、その間にも小さな温暖化と寒冷化が繰り返されている[3]。また、現在の温暖化は事実であるが、大きな500万年スケールで見ると現在も寒冷化傾向にあるとされる[4]

また、小氷期の始まりだとする場合もある。ここでいう小氷期とは、氷期(12万年周期で訪れている、気温が現在よりも5度から10度低い時代)でも氷河時代(100万年位前から始まり現在も継続中の、北極南極に極冠がある地球全体が寒い時代)でもなく、数百年ごとに訪れる現在より気温が0.5度ほど低い時代のことである。地球の歴史で最大の寒冷化は原生代の初期と後期に起きたとされ、地球全体が凍結する極端な寒冷化が生じる全球凍結(スノーボールアース現象)が起きたと考えられている[5]。なお、2000年代に入ってから各地で度々異常低温が起きているが、これは寒冷化ではなく、地球温暖化が原因でジェット気流が蛇行し寒気が流れ込んだためだと考えられている[6][7][8]
寒冷化のメカニズム

寒冷化のメカニズムは様々な要因考えられ、それらが複雑に関係していると考えられる[4]
エアロゾル

主に化石燃料の燃焼で発生する副次的な生成物や、一部では土地利用の変化などの人間活動によって大気中の微粒子(エアロゾル)の量が増加する。エアロゾルには、地球のアルベドを増やすことで地球を寒冷化させる「直接的効果」と、凝結核として雲の生成を促進する「間接的効果」がある。1970年代前半には、エアロゾルの寒冷化効果はCO2排出による温暖化の結果を左右する、という予測もあった[9](詳細は、以下のラソールとシュナイダー (1971) の議論を参照)。理論の発展と実際の気温上昇を踏まえ、地球寒冷化のメカニズムにより予測された気温の低下は今では棄却されている。その一方で、温室効果ガスの増加に劣っているが、エアロゾルは寒冷化の傾向に寄与し、地球薄暮化に寄与していると考えられている。
軌道強制力CO2, temperature, and dust concentration measured by Petit et al. from Vostok ice core at Antarctica.

地軸の傾きと地球の公転軌道の変化によって生じるミランコビッチ・サイクルによる軌道強制力もあげられる。ミランコビッチ・サイクルは、太陽光の入射量をわずかだが変化させ、季節変化の時期、強さに影響を与え、氷期・間氷期サイクルの原因であるとされており、1970年代半ばに理解が急速に進んだ。ヘイズらの著名な論文「氷河期の決定要素である地球の軌道変化」[10][1]では、「化石燃料の燃焼など人為的要素を含まず自然要因のみで、また、2万年かそれ以上の周期に関する長期の傾向のみで予測して、この先2万年の長期的傾向は、北半球が広く凍結及び寒冷化することを示している」と予測した。氷河期の周期が予測可能だという考えは、次の氷河期が「すぐに」来るという考えに繋がった。長いタイムスケールを扱い慣れていて、数千年規模を「すぐに」と表現する地質学者らによって表現されたためである。実際には最も短い周期が約2万年のミランコビッチ・サイクルでは、1?2世紀よりも短い急速な氷河期の到来は予測は出来ない。これについて、ナイジェル・コールダーの「スノーブリッツ」論などの説も出されたが、広く支持されなかった。南極大陸のボストーク氷床コアより測定した、CO2、温度、空気中の塵の濃度

現在の間氷期の気温がピークを迎える期間の長さは、前の間氷期(サンガモン/エーミアン (Sangamon/Eemian))における、気温がピークを迎える期間の長さとほぼ等しいと考えることができ、現在の温暖期は終わりが近いだろうとの根拠に薄い断言もよく見られる。この考えは、前の間氷期の長さが一定であるとの事実によっている(付図参照)。ペティット (Petit) らは「MIS5.5の間氷期とMIS9.3の間氷期は完新世とは異なるものではあるが、期間や状態そして規模といった点では似ており、これら2つの間氷期では、それぞれ4,000年の温暖期があり、その後に比較的はやい寒冷化が起こる」と指摘している[11]。今後の軌道の変化は過去のそれらと同一ではないと指摘されている。
深層循環の停止

海洋の深層循環は、熱塩循環やコンベヤーベルトと呼ばれる海水の水温と塩分による密度差によって駆動している。この循環が気候に影響を与えてると考えられ、深層循環が弱まり循環が停止すると寒冷化するとされる。

表層の海水が北大西洋のグリーンランド沖と南極大陸の大陸棚周辺で冷却され、重くなった海水は底層へと沈み込み、世界の海洋の底層へと広がり、その後、潮汐により乱流が起き海が混ぜられると表層の温かい海水と接する、すると低層の海水は温められ、軽くなってゆっくりと上昇し表層へと戻る[12][13]という循環が約1000年以上かけて行われている。これがポンプの役割を果たし北の冷たい海水は底層を通って南へ、南の暖かい海水は表層を通って北へと運ばれその熱は北の大気へと放出される。このように深層循環によって熱が循環している。しかし、地球温暖化や気候変動などの影響により、海水の昇温や、降水の増加や氷床の融解による塩分濃度の低下などにより表層の海水の密度が軽くなり、沈み込みの量が減少し、循環が弱くなったり、停止したりすると、暖かい海水は北へと運ばれなくなり寒冷化する[14][15]。過去にはベーリング・アレレード期と呼ばれる亜間氷期の温暖化が序々に進行していた時代に、深層循環の停止により急激に温度が低下し、それが1000年以上続いたヤンガードリアス期がある[16]

IPCCのAR4では「深層循環の変化についての信頼できる予測はまだない」とするものの、1957年には、1000m以浅の北向きの流量は22.9m3/sだったのに対し、2004年には14.8m3/sなるなど循環が弱まっていることが分かっている[16]。深層循環は数十年規模の自然変動により強まる可能性はあるが、21世紀を通じて弱まる可能性は非常に高いとしており、21世紀以降には停止する可能性はあるとした[14]。2021年IPCC発表のAR6では21世紀中に弱まる可能性は非常に高いとし、一方で21世紀中に停止する可能性は5割の確信度(medium confidence)で無いとした[17]
スベンスマルク効果

スベンスマルク効果とは、宇宙空間から飛来する銀河宇宙線が地球の気候に影響を及ぼすとする仮説。スベンスマルク効果による雲の日傘効果により寒冷化すると考えられている。大阪湾の堆積物コアの花粉の分析から分かった寒冷化時期と、同じ時期にスベンスマルク効果による下層雲による雲の日傘効果により冬の季節風の強化が起こっていることから、この寒冷化にスベンスマルク効果が関係していると考えらえる[18][19]
1970年代の地球寒冷化説の総説

1970年代の地球寒冷化説は当初、この仮説は科学的に強い支持をされたものではなかったが、氷河期の周期性と、1940年代から1970年代の前半にかけての気温低下の理解を進める上で、良い材料として新聞に報告されたため、人々の関心を一時的に集めた。上記の三十年間にはそれ以前の時代と比べ人工的な二酸化炭素の放出は増えた時代であったが、気温の低下がおこったためである。

1970年代には、全球平均気温が1945年から下がってきているとの認識があった。21世紀を通じての気候の傾向に関する学術論文の殆どが将来の気温上昇を予測しているなかで、1割が気温の下降を予測していた[1]。世間では二酸化炭素が気候に及ぼす影響を殆ど認識してこなかったが、1959年のScience Newsでは、1850年から2000年の150年間で大気中の二酸化炭素が25%増加し、その結果としての気温上昇を予測している[20][21]。1968年にはポール・R・エールリッヒが温室効果ガスによる気候の変化について触れている[22] 。地球寒冷化説が大衆紙で扱われた1970年代半ばには、気温の下降は止まりつつあり、気候学者の間では二酸化炭素の温室効果に関心が払われていた[23]。これらの報文を受けて、世界気象機関は「とても顕著な全球規模の温暖化」が起こりうる(probable)とした[24]。現在では、熱塩循環が減少もしくは停止することによる地域的な寒冷化の可能性にもいくらか関心が払われている。これは氷河の融解に伴い、北大西洋に塩分濃度の低い水が大量に流入することによって起きると言われる。これが生じる可能性は非常に低く、IPCCは「熱塩循環が弱まるモデルにおいても、ヨーロッパ全域にわたり気温は上昇する」と報告している。たとえば、放射強制力が増加する全球気候モデル (AOGCM) を総合すると、北西ヨーロッパの温度変化は正となる[25]

しかし近年の科学的かつ世界的に広く認められた複数の調査結果は、長期的には寒冷化ではなく、地球温暖化が進行していると結論付けている[26][27][28][29][30][31][32][33]#現在の知識の水準節を参照)。


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