地獄_(キリスト教)
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A detail from ヒエロニムス・ボス's depiction of Hell (16th century)

地獄(じごく、英語: hell)ではキリスト教における地獄について詳述する。

旧約聖書新約聖書まで、地獄に関する内容が数十箇所に現れる。ギリシャ語聖書の記事中に、「地獄」と訳されることがある語彙は、「ゲヘンナ」(γεεννα、現代ギリシャ語ではゲエンナ)と「ハデース」(?δη?、現代ギリシャ語ではアディス)の2種類がある。欽定訳聖書英語)においては "hell" がいずれに対しても訳語として用いられていて訳し分けられていない。日本語訳聖書においては、この2種類はギリシャ語原文に従って訳し分けられる傾向がある。

最終的な永遠の地獄(ゲヘナ)と、不信仰な死者が最後の審判を待つ黄泉(ハデス)は区別されている。この2種類の語彙・概念をどの程度違うものとして捉えるかは、教派・考え方によって異なっていて、聖書中の訳語も異なる場合がある。本記事では、この2種類の語彙をいずれも扱うが、教派ごとに地獄についての理解が異なるため、概念概要と語義について詳述したのち、教派ごとの理解に移る。
概念

キリスト教での地獄は一般的に、死後の刑罰の場所または状態[1]、霊魂が神の怒りに服する場所[2]とされる。

他方、地獄を霊魂の死後の状態に限定せず、愛する事が出来ない苦悩・神の光に浴する事が出来ない苦悩という霊魂の状態を指すとし、この世においても適用出来る概念として地獄を理解する見解が正教会にある。この見解はドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に登場するゾシマ長老の台詞にもみえる。地獄を死後の場所に限定せず、霊魂の状態として捉える理解は、楽園が霊魂の福楽であると捉える理解と対になっている[3]
語義・訳語
ギリシャ語における二つの語彙の概念差

ギリシャ語においては、英語で "hell" と訳される語彙として、γ?εννα(古典ギリシャ語再建音:ゲヘンナ、現代ギリシャ語転写:ゲエンナ)と、?δη?(古典ギリシャ語再建音:ハデース、現代ギリシャ語転写:アディス)の二つの語彙があり、両語彙とも旧約聖書新約聖書に使われている[4]"地獄": ゲヘナの語源となった「ヒンノムの谷」(2007年撮影)

ゲヘンナは原語では「ヒンノムの谷」の意である。この谷ではアハズ王の時代にモロク神に捧げる火祭に際して幼児犠牲が行われたこと、ヨシヤ王の改革で谷が汚されたことがあり、町の汚物の捨て場とされた。このような経緯から、新約聖書ではゲヘンナは「来世の刑罰の場所」として考えられるようになった[5]。一方、ハデースはギリシャ語の「姿なく、おそろしい」の意から派生したもので、ヘブライ語のシェオルに当たる。古代の神話では死者の影が住む地下の王国とされた[3]

キリスト教内でも地獄に対する捉え方が教派・神学傾向などによって異なり、ゲヘンナとハデースの間には厳然とした区別があるとする見解と[4]、区別は見出すもののそれほど大きな違いとは捉えない見解[2]など、両概念について様々な捉え方がある。

厳然とした区別があるとする見解の一例に拠れば、ゲヘンナは最後の審判の後に神を信じない者が罰せられる場所であるとされる。一方、ハデースは死から最後の審判復活までの期間だけ死者を受け入れる中立的な場所であるとする。この見解によれば、ハデースは時間的に限定されたものであり、この世の終わりにおける人々の復活の際にはハデースは終焉する。他方、別の捉え方もあり、ハデースは不信仰な者の魂だけが行く場所であり、正しい者の魂は「永遠の住まい」にあってキリストと一つにされるとする[4]

上述した見解例ほどには大きな違いを見出さない見解からは、ゲエンナ(ゲヘンナ)、アド(ハデース)のいずれも、聖書中にある「外の幽暗」(マタイ22:13)、「火の炉」(マタイ13:50)といった名称の数々と同様に、罪から抜け出さずにこの世を去った霊魂にとって、罪に定められ神の怒りに服する場所である事を表示するものであるとされる[2]
各言語における訳し分け

ギリシャ語から他言語に翻訳するにあたりこの二つの語彙をどのように処理するかについて、二つの語彙を当てて訳し分けるか、それとも同じ語彙を当てるか、いずれかの方策が各種各言語翻訳によって採られる事となっている。

カトリック教会で広く使われたヴルガータラテン語聖書では、Γ?εννα に g?henna を、?δη? に Infernum を当てている[6]スラヴ系の正教会で広く使われる教会スラヴ語訳聖書では、Γ?εννα に Геенна を、?δη? に Адъ を当てている[7][8]

しかしながら、英語訳である欽定訳聖書ではこのような訳し分けがなされず、いずれも "hell" と訳されている。英語の "hell の語はかつてギリシャ語のハデス、ヘブライ語のシェオルに対応していたが、17世紀以降にゲヘナをあらわす意味に変化した[9]
日本語訳聖書における訳し分け

日本語訳聖書においては、ギリシャ語における両語彙を訳し分けるものと訳し分けていないものとがあるが、近年のものは訳し分ける傾向にある。日本正教会訳聖書は漢字では訳し分けていないが、ルビを振ることで読みを変えて訳し分けを行っている。

以下の対照表における聖書の並びは、左から翻訳が古い順としてある。以下の対照表に挙げた箇所以外にも、多数の箇所に「地獄」「陰府」が出て来る。

日本語訳聖書における訳し分け対照表
ギリシャ語聖書箇所日本正教会訳聖書ラゲ訳聖書大正改訳聖書口語訳聖書新改訳聖書新共同訳聖書
γ?ενναマタイ
5:22地獄
(ルビ:「ゲエンナ」)地獄ゲヘナ地獄ゲヘナ地獄
マタイ
18:9地獄
(ルビ:「ゲエンナ」)地獄ゲヘナ地獄ゲヘナ地獄
マルコ
18:9地獄
(ルビ:「ゲエンナ」)地獄ゲヘナ地獄ゲヘナ地獄
ルカ
12:5地獄
(ルビ:「ゲエンナ」)地獄ゲヘナ地獄ゲヘナ地獄
?δη?マタイ
11:23地獄
(ルビ:「ぢごく」)地獄黄泉黄泉ハデス陰府
ルカ
16:23地獄
(ルビ:「ぢごく」)地獄黄泉黄泉ハデス陰府
使徒行伝
2:31地獄
(ルビ:「ぢごく」)冥府黄泉黄泉ハデス陰府
黙示録
1:18地獄
(ルビ:「ぢごく」)地獄陰府黄泉ハデス陰府
黙示録
20:13地獄
(ルビ:「ぢごく」)冥府陰府黄泉ハデス陰府

聖書箇所

旧約聖書においても新約聖書においても、地獄について記された箇所がある。

新約聖書において地獄に言及される箇所として以下が挙げられる。


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