地域猫
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地域猫(ちいきねこ)とは、「地域の理解と協力を得て、地域住民の認知と合意が得られている、特定の飼い主のいない」を指す[1]。地域猫活動(ちいきねこかつどう)とは、「不妊去勢手術を行ったり、新しい飼い主を探して飼い猫にしていくことで、将来的に飼い主のいない猫をなくしていくことを目的とした活動」であり[1]、頭数抑制効果を得るには、地域の野良猫全体の 51%以上に不妊去勢手術を施す必要がああるとされる[2]。そのような活動により管理されている野良猫が地域猫と呼ばれることになる。管理実態によっては飼い主のいる猫、または飼い主のいない猫として判断される場合もある[3]。本項では地域猫および地域猫活動について記す。コンドイ浜竹富島)の人間とネコ。
活動の定義

自治体や地域、団体ごとに地域猫や地域猫活動の定義は多少の違いがあるが、以下の点がポイントとなる。
飼い主のいない猫の抑制

不妊手術や地域などによる数の管理[4][5]、飼い主の募集などを利用して[6]、最終的に飼い主のいない猫をなくすことを目的とした[1]、過渡的対策である[7]

その際に捕獲(Trap)・去勢(Neuter)・返還(Return)を行うTNR活動(英語版)を通して野良猫の繁殖を防ぐなどの手法が取られる[8]。自治体によっては避妊手術のための助成金が出るケースがある[9]。手術が施された猫は手術されていない猫との判別がつくように、片方の耳にV字の切り込みが入れられる[10]。この耳の形が花弁のように見えることから[11]、地域猫のことをさくら猫とも呼ぶと、児童文学作家の今西乃子は称している[10]。この猫の数を維持しつつ地域の管理下に置き、猫はそこで一生を送る[12]。同時に猫を含む動物の遺棄が動物の愛護及び管理に関する法律において禁じられていることを周知し、新しい猫が増えるのを防ぐ必要がある[13]。一般的にはメスが左耳、オスが右耳に切り込みが付く。
地域住民とのトラブル防止
公衆衛生

猫への餌やりと給水、糞の処理[4][5][14]、猫が餌を確保するためのゴミ漁りの阻止の他[4]、餌の後始末の不備による害鳥・害獣・害虫被害[15]、地域住民の健康被害になりうる猫アレルギーやトキソプラズマ症などの人獣共通感染症などへの対策が必要となる[16][17]
糞尿被害
協力者によるトイレの設置やその片付けが必要となる[18]
猫の餌
手術を予定している、あるいは手術の終わった猫に対して特定の時間に最低限の餌を与え、後片付けを徹底する必要がある[19]。特に置き餌を続けると猫の流入が止まらず、取り組み自体が破綻する[20]
生活圏への侵入

猫が民家の庭などに入り、排泄や行動によってガーデニング[16]農作物などに被害を及ぼすケースもある[21]。また住宅で飼っているペットが襲われることもある[22]
地域住民の理解の獲得コンドイ浜にて撮影された少女と猫コンドイ浜の猫小屋

猫の飼育義務は「家庭動物等の飼育及び保管に関する基準」に記載はあるものの[23]、犬のように狂犬病予防法に基づいた係留義務や登録制度などが設けられていない[24]。行政が所有者のいる猫を無断で処分した場合、窃盗罪[23]占有離脱物横領罪[23]器物損壊罪に該当する可能性があるほか[23]、民法の使用者責任に基づいて損害賠償請求の可能性や[23]、公務員の不法行為責任に問われる可能性を横浜市職員で地域猫の発案者である黒澤泰は指摘している[23]。また地域住民それぞれの立場や状況が異なることから、地域の中で問題を共有し、人間の問題であることを理解してもらうことが地域猫活動には必要とされる[25][5]。その際に不妊手術の徹底と周辺地域で守られるルールの制定などが重要であることを黒澤は述べている[26]
実施事例
日本での事例

殺処分については、動物愛護の観点から批判的に捉えられることが多く、自治体によっては殺処分される猫をなくすことを目標とする地域もある[27]。日本において地域猫運動を条例の制定や飼い主のいない猫の不妊化手術費用の援助・捕獲器の貸し出し・講習会などで支援している行政を対象に行ったアンケート調査(2008年度)では、「(保健所などにおける)猫の処分数が減った」と解答した行政は13.2%であった[28]。前述した2008年の調査では地域猫の定義自体に関する意見もあったが、「住民間の親密度が増した」(23.1%)や「猫に関する苦情が減った」(20.1%)とする意見が見られた[28]

東京都足立区において、2015年から2017年に帝京科学大学大学院の研究グループが、地域猫活動を実施した地域と実施しなかった地域とで双方の猫の頭数変化や生態を比較した。地域猫活動の実施地域の面積は0.16?、1433世帯、人口3225人、去勢率44%でであり、非実施地域の面積は0.264?、1903世帯、人口3802人、去勢率15%であった。結果としては両方の地域で似た様な割合で猫の頭数が減少しており、当該地域における地域猫活動は猫の頭数を殊更に増加も減少もさせなかったと考えられ、地域猫活動の効果によって頭数を減らすには更なる去勢率の向上と、猫の譲渡数を増やす事が必要だとされた[29]

茨城県では地域猫活動を支援しており、その効果として2019年に活動を実施した25市町村から、繁殖の防止・野良猫の数の減少(55.0%)、糞尿被害及び糞尿被害に関する苦情の減少(26.8%)、鳴き声及び鳴き声に関する苦情の減少(26.8%)といった実質的な被害の改善が報告された[30]

神奈川県横浜市において、九州保健福祉大学の研究グループが2001年から2011年までに行われた地域猫活動の内容分析を行った。活動した14の団体中で地域猫の頭数に減少傾向が見られたのは6団体、あまり変化が見られなかったのは2団体、増加傾向が見られたのは6団体であった[31]。横浜市は地域猫運動の発祥の地であり、古くから運動に取り組んできた[32][33]。横浜市が公開している健康福祉事業年報の動物愛護管理の項目によれば、飼い主不明猫(野良猫)による苦情件数は2003年の3683件から2019年の1478件まで減少した[34]

長野県松本市あがたの森公園において2002年から2006年の間に地域猫活動を実践した。活動以前は毎年多数の猫が公園に捨てられていたが、行政とボランティアが共同して不妊手術や猫の捕獲や生態を調査管理し、収集したデータを地域猫飼育管理カードなどで記録するなどの地域猫活動を行った結果、4年間で猫の頭数は30頭から5頭にまで減少した[35]

大阪府大阪市では2010年度から大阪市の管理区域である都市公園で去勢・避妊手術済みの猫を地域の合意に基づいて管理するという「所有者不明猫適正管理推進事業」を制定・施行した[36]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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