地域振興
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

この項目では、地域(地方)の経済力や意欲の向上、人口を増やすことについて説明しています。地域の形成については「まちづくり」を、安倍内閣の政策については「地方創生」をご覧ください。
常磐線土浦駅(茨城県土浦市)の改札口。天井付近の垂れ幕に「また来ようよ。土浦へ。」と記載されている。

地域おこし(ちいきおこし、地域興し)とは、地域地方)が、経済力や人々の意欲を(再び)向上させる、人口を維持する(再び)増やすためなどに行う諸活動のことである。地域活性化、地域振興、地域づくりとも呼ばれる。
概要

「地域興し」と表現する場合は、地域の住民や団体(商工会農協漁協など)の主体性が強調される傾向がある。「地域づくり」も同様である。いずれも語感の固さを避けるため、「地域おこし」のように「地域」以外はひらがな表記されることが多い。なお、住みよい地域を形成するための諸活動は「まちづくり」と呼ばれることがあるが、「地域おこし」「地域活性化」などとは若干異なったニュアンスで使われることが多い。

(街)の場合は特に「町おこし」、「都市おこし」、「まちおこし」とも呼ばれ、の場合は「村おこし」とも呼ばれる。

英語圏では「vitalization」や「revitalization」などの用語を用いて表現されることが一般的である。[注 1]
沿革

日本では1960年代以降の重化学工業を主軸とした工業化に成功した一部の地域を除き、地方では人口流出が起き、労働力を必要とした大都市圏(特に東京23区政令指定都市都道府県庁所在地および近接する)に産業人口が集中し、地方の郡部中山間地域離島などで、以下のような過疎化の悪循環が深刻になった。
地方の雇用の絶対数が少ない。あるいは減っている。

地方の若年層・労働力人口が大都市圏県庁所在地などへ移動する

若者や労働人口が流出した地域では地元産業の衰退や高齢化が進む

さらに人口流出が加速し、地方がいっそう過疎化する

農村山村漁村では、戦後の過剰人口の状態が原因で、都市部へ労働力人口が流出した。山村では燃料革命とも呼ばれる需要の激減、品質が悪いが安い外国産材の流入により急速に衰退した。

しかし、1973年石油危機によって重化学工業中心の高度経済成長路線、それにともなう首都圏近畿圏中京圏への人口集中は変化を余儀なくされる。日本経済は安定成長へ転換し、三大都市圏へ の人口流入も収まった。こうした中、玉野井芳郎地域主義を提唱し、それに続いて杉岡碩夫清成忠男らも地域主義に関する書籍を出版した。この地域主義は、現在までつながる「地域おこし」「まちづくり」の源流であるとされる。その後、地域主義は、清成忠男ら地域の経済振興を説くグループと中村尚司らエコロジーを重視するグループに分かれていった。前者は主に地方都市で受け入れられ、後者は発展途上国における「もう一つの発展」を探究する内発的発展論と結びついた[1]

地域経済の振興を説く地域主義は行政の政策にも影響を与え、国政では第三次全国総合開発計画1977年開始)、首相大平正芳が提唱した田園都市構想(1978年提唱)、地方では大分県知事平松守彦(1979年)が掲げた一村一品運動などに結実した。1985年には、佐々木信夫が「都市間競争」・「自治体間競争」という概念を提唱し、各都市・各自治体が政策を切磋琢磨させていくことで、地域の活性化が実現できるとした。この頃から、国が地方自治体に指図するやり方が改められるようになり、首相竹下登が掲げたふるさと創生事業(1988年 - 1989年)では、初めて各地方自治体に用途の使途を定めない交付金が与えられた[1]
現状

多くの地方都市では、モータリゼーションの進展やショッピングモールの郊外への進出によって、中心部の都市機能が衰退(郊外化ドーナツ化)し、「大規模小売店」や周辺地域の小売店が経営の危機を迎えた。その結果、商店街が寂れて「シャッター通り」となり、その寂れた雰囲気が余計に客足を遠ざける悪循環にはまっている[2][3]

かつて工業化に成功した地域でも、2度の石油危機、急速な円高の結果、製造原価を下げるために工場が日本国外に移転させられることが増えた。その結果、製造ノウハウが現地の外国人技術者などに流出し、アジア諸国が追い上げたことにより、日本の地域では空洞化現象がみられ、雇用の喪失や低賃金化に見舞われた。

こうした人口減少により、産業や地域活動の担い手が不足した。さらには、地元に伝わる伝統工芸伝統芸能踊りといった伝統的な文化活動の担い手や後継者不足も顕著になり、中には後継者不足から、文献すら満足に保存継承されず消失してしまう地方文化もある。
問題のまとめと対策の目的
次のような問題が複合的に起きている。

産業の発展。雇用の減少

人口の流出。人口の減少

地域文化の伝統の途絶
よって次のようなことのいずれか、あるいは複数、全部を目的としているのが地域おこしである。

産業の立て直しによる雇用の創出や維持

若者の人口流出の歯止め・回復。新規住民の呼び込み。子供のいる家族の呼び込み

地域文化の担い手の確保と継承

主体

地域おこしの主体(企画者、実行者)は次のようなものがある。

民間の団体

特定非営利活動法人

企業

行政組織(地方自治体

産官民に学を加えた共同型のもの

地域に関連した人たちの共同作業で遂行されるもの

なお、2011年7月9日に大分県佐伯市で開催された「国道326号・10号沿線活性化シンポジウム」において、「観光カリスマ」の山田桂一郎[4]は「行政に頼ってはダメ」としたうえで、観光客には新たに開発し売り出した「商品」などではなく、地域のライフスタイル(地域の人々の暮らし)からえり抜いたものに価値を認めてもらう必要性があることを述べている[5][注 2]
手法

以下のようなさまざまな試みが地方自治体や各種団体・組織で行われているが、どこにでも有効な決定的な策というものがあるわけではない。その地域ごとの特色や立地、人口や産業の状況を判断し、独自性のある地域おこし施策の計画・実施が望まれる。他の地域の真似するほど地域ごとの独自の特色がなくなり、同じようなものが増えた分、相対的に魅力が減ってゆく。よって、他の地域と比較した場合の、自地域の特色、本当の強みを見抜く必要がある。

成功したケースにおいては、立地、時代背景、推進したリーダー、関係団体の協力、組織化などに恵まれたケースが多い。そうした要因を考慮せず、成功事例をそのまま真似しただけでは、地域色が出しきれず失敗に終わることが多い。
人口の維持・増加策

地域振興のためには、人口を維持、または増加させる必要がある。そのためには、他地域から人を呼び込むことと、他地域への人口流出を防ぐことが必要である。主な人口の維持増加策として、次のようなものが挙げられる[6](一部は他の節のものと重複している)
当該自治体への移住の推進・支援(たとえばUターンJターンIターンでの移住の推進)

自治体のPR(たとえばインターネットでの情報発信、IターンUターン推進誌での広告、CMキャラクターなどを使ったものなど。いわゆる「お役所仕事」的に形式的に実行しても大抵は効果が無く、民間企業並みに、実際のところどれだけの人数にメッセージや情報が届いているか(リーチ数)、どれだけの人数が反応してくれたか(レスポンス数)、反応した人の心的な反応の内容や態度の変化、などをしっかり把握して、広告効果を厳しく吟味・判定して工夫をないとうまくゆかない。)

居住支援(たとえば空き家公営住宅の提供、家賃補助など)

雇用の確保(たとえば企業誘致・新産業創出・6次産業化など)

結婚支援(たとえば若者の出会い、仲人サービスなど)

育児世帯への経済支援(たとえば出産一時金の上乗せなど)

子育て環境の充実(たとえば保育所整備など)

学校施設、教育環境の充実

インフラストラクチャー整備(たとえばコミュニティバス・道路・下水道などの整備)

コンパクトシティの推進(施設・住居などを分散させず、集約させること]

イベントを開催(幅広い年齢に興味を持ってもらえるような)

ただし、人口減少が激しい自治体ほど、家賃補助のような経済支援による応急処置的な移住策を選択し、子育て環境の充実といった定住促進策を行うのが難しい状況にある。経済的支援は、若い世代の誘引策としては効果が一時的で持続的な定住策としては未知数である。過度に経済支援を行った場合、自治体の財政を悪化させ、かえって地域の弱体化に拍車をかける恐れがある。また、移住の呼びかけが過熱して自治体が人口を奪い合うようになれば、小規模自治体がさらに疲弊することが懸念される。そのため様々な側面から費用対効果を検証し、実態にあった施策をとることが必要であるとされる[6]
産業の振興

地元の
漁業農業の振興

(農業地域)地域の農作物の品質向上・基準策定・地域ブランド化とその広報。新たな有望な農作物品種への挑戦と、成功した品種の地域内の農家への普及

道の駅を設置し、観光客に対し地域の農産物や特産物を直売し、生産者の収入や地元民の雇用につなげる

企業・工場の誘致(「企業が地方へ進出する際に発生する、何らかのメリット(用地確保、減税など)の提示」と「地元の人の雇用割合、地元枠のノルマの要求・確保・契約書のとりかわし」をワンセットで行う。ただ来てもらうだけでは、必ずしも地元の人の雇用につながらない)

観光資源の発掘・創出・再検討(後述

文化戦略

観光によって観光業宿泊業など)が盛んになると、小売業卸売業などにも経済効果が波及し、域内の経済が活発になる。そのため、観光振興は地域経済の活性化につながる[7]

地元住民にとって「当たり前」で「何でもないこと」(山・海・水・田園風景・棚田・雪原・星空・自然環境全般など)が、観光資源になる。

旅行先で人々と交流したり、現地独特の人々の生活様式をじっくり見たり実際に体験することでその人の「人生の一部」になるような旅を好む人々の割合が次第に増えてきている。そこで「農業体験コース」「漁業体験コース」などを設けるという方法もある。

地元民が子供のころから何気なく食べている料理(地元の日常食・家庭料理郷土料理)を、他の地域の人々も食べてみたいと思えるような形で提供し、上手に広報して多くの人々に知ってもらえば、商業ベースに乗ることもある。獣害が深刻な地域では、森や里山に自然の動物が出没するということなので、シカイノシシの肉をジビエとして売り出すという方法がある(和歌山県など)[8]。また、風が吹き抜ける地域では、風力発電機大規模な風力発電所ウィンドファーム)を設置して、当該地域に必要な電力のかなりの割合をそれでまかない、その地域の経済的な強みとしたり、あるいは売電を行うという方法もある。例えば、北海道のオロロン街道(稚内市から留萌市あたりまで、日本海側に面した数百kmの街道)、えりも町襟裳岬)、千葉県の銚子市の海岸の丘の上などでは、風が強い場所に風力発電機が立ち並び、地域に役立つ電力を生みだしている。また、風力発電機が多数立ち並ぶ風景は印象的で、一種の観光資源となり、それを目当てに観光客が訪れるようにもなる。

上手くいけばメディアで話題となるが、他の地域が模倣することで埋もれてしまい、長期的には効果が薄くなってしまうことがある。ミニ独立国・ご当地キャラクター(ゆるキャラ)・B級グルメなどは、あまりに乱立が過ぎて、効果が激減してしまったといわれる。アート産業への多大な税金投入も問題となっている[9]。象徴的な事例ではあいちトリエンナーレの2019年の騒動が挙げられる。
箱物行政

箱物行政とは、日本の地域自治体などが美術館博物館・スポーツ公園・リゾート施設などの公共施設(=箱もの)を建設すること。

安定成長期までは一定の成果があることもあったものの、失われた10年を経て負の遺産と化したものも多い。「箱物」は、各地域で似たようなものが乱立し、相対的に人を引き寄せる力が弱い。また、建造後の毎年の維持費(管理者の人件費、建築物の補修費など)が大きく、赤字になりやすい。そのため、地域衰退の要因のひとつにもなっている。また土建業者と、地元有力議員・助役・市長などの間の賄賂のやりとりや、談合が起きやすい。

目玉施設の整備

都市開発・再開発

インフラ整備

情報インフラの整備(
情報格差の減少)

ニューメディア」「IT革命」などのスローガンが使われた。


交通インフラの整備

利用が減少し、廃止の危機にある鉄道・路線バスへの運行経費や車両購入費用補助、コミュニティバスの運行、タクシー利用補助券の配布。

バスマップ(路線図・時刻表・乗り方・バスを利用して行ける施設を記載)の配布。乗り方教室・無料運行日の実施や、体験乗車券の配布。鉄道との乗り継ぎ時間を極力短くしたダイヤ編成。バスロケーションシステム(走行位置情報)の提供。学生・高齢者・障害者・運転免許証返納者向けに割引した定期券の発行。環境定期券制度の導入。観光施設入場料とセットになった割引乗車券の発売といった利用促進策

鉄道駅への公共施設の移転集約や、待合室・パークアンドライド用駐車場の整備


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:46 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef