地図混乱地域
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地図混乱地域内の住宅地。自治体による十分な整備が受けられないため、地域内に未舗装の私道が残る事例も見られる(画像は滋賀県大津市住吉台地区)。

地図混乱地域(ちずこんらんちいき)とは、日本の一定の地域において、不動産登記事項証明書[† 1]法務局(登記所)が備え付けている地図公図のこと、また地図に準ずる図面を含む)に記載されている内容と、実際の土地の位置や形状が相違している地域をいう。俗に「地番錯綜地」、「地図混乱」は必要に応じて公図混乱(こうずこんらん)、字図混乱(あざずこんらん)とも表記される。
概要

具体的には、「その土地について、登記記録のある者と実際に使用している者が別人で、両者に何の関連もないため、その土地に対する地権者が誰なのかが分からない」(地権者不明)、「登記記録のある地番が、具体的にどの場所に存在するのかが分からない」(不存在地)、「同一の土地に複数の登記記録が重複して存在しており、どの記録が正しいのかが分からない」(重複登記)などの事例が挙げられる。発生原因としては次の通り考えられる[1][2][3]

宅地造成で登記手続はされているが、登記に対応する土地の位置区画が、地図と現地とで相違しているもの。

自作農創設特別措置法(農地改革の根拠法)の施行に伴い、強制的に処分された農地に係る地図の不備によるもの[† 2]

民間による土地区画整理事業が途中で中止され、登記手続はされていないが現地の形状が変更されているもの。

水害地震山崩れなどの自然災害によって、土地が変形したことによるもの。

軍用地として強制買収された民有地が、境界不明のまま返還されたため、原状回復が不可能になったもの。

その地図自体が、作成当初からまったく現地の土地の位置区画を反映していないもの。

これらの地域においては以下の通り、実際に地域住民の財産権や生活環境などが著しく侵害、制約される事態を招いている[2]

土地の売買はもちろん、土地を担保とする融資が実行されにくい。

同一の土地の上に複数の登記記録が存在する場合、地権者も複数存在することから、権利紛争の原因となる。

地図実態が不明確で土地の特定ができないため、住居表示が実施されず、郵便物の誤配が頻発する[4]

官民境界(けいかい)が画定できず、自治体が管理する道路として収容されないため、地域内の私道部分には、自治体による道路整備や公共下水道の敷設が行われない[† 3][5]

正確な土地の面積が不明なため、適正な固定資産税を課税できない[† 4][6]

地図混乱地域は、2002年平成14年)の段階で全国に約750地域、面積で約820 km2[7][8]に上ることが分かった。

11 haにわたる六本木ヒルズ市街地再開発の折には、5枚にわたる公図ほか古い公用地境界査定図が現状と合っておらず、官民境界を始めとする土地の境界や面積の画定に多大な時間を要し[9]、地権者約400人、約600筆の土地買収にあたって約4年が費やされた。このような地図の未整備のために再開発が妨げられる事例は、決して少なくない[10][11]
時代背景地図混乱地域内の側溝 自治会で補修している(画像は大津市住吉台地区)。

太平洋戦争の終結直後の日本は、全国にわたって産業基盤が壊滅された状況にあり、大多数の国民が衣食住に事欠いた困窮生活を強いられていた。しかし、朝鮮戦争特需に始まる戦後の復興により、人口が急増するとともに、所得や消費が急激に活発化。1950年代半ばには、人口や産業の都市圏への集中が進むことから近郊地域の住宅需要が急拡大し、「衣食足り、次はマイホーム」と、持ち家を夢見る多くの人が世にあふれるに至った。一方、住宅が絶対的に不足する中、良好な住宅地環境を形成するために必要不可欠な計画立案や法整備は、大きく立ち遅れていた[12]

そのような状況下、一部の宅地造成業者により、区画整理や地図訂正などの業務が適正に行われないままに、造成や販売が行われる事例が多発した。具体的には、見取図的な山林原野の地図と、縮尺や精度の異なる平地部の地図を混用し、現地照合を怠ったまま分筆をし続けて、土地の細分化を進めたのである[13]

地図は、土地の現況を正確に反映したものでなければならない。本来であれば、登記機関が現地に赴いて、その土地の所在や形状を確認する実態調査を行わねばならず、手続的にもその旨が規定されている。しかし、各地で新興住宅地が建設されたこの時期、法務局を主とする登記機関はあまりの登記申請の多さに、実態調査を十分に行わないまま登記許可を出してしまう事例が相次いだ[5][14]

1985年(昭和60年)以降、国会の法務委員会を主として、この問題がしばしば取り上げられるに至る。法務省は登記を確認しきれなかった責任を認め、「地図混乱地域の土地を善意で取得した住民に、直接の責任はない」と言及した[15]

速やかな問題解消を図るべく、2003年(平成15年)6月に内閣官房都市再生本部において「主として全国の都市部における地籍整備を今後10年間で概ねなし遂げよう」との方針が示された。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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