地名
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地名が記された標識(新潟県岩船郡関川村蛇喰)

地名(ちめい、: geographical name, place name[1])は、土地に対して付けられた固有名詞[1]
概説

地名は、広義には住居地名、行政地名、自然地名などがあるのだが、狭義には自然地名を含まない[1]

地名は厳密に言えば(あくまで厳密に言えばだが)、地表面のある部分やある範囲につけられた呼称であり、(広さという観点からは)地点(点)を指す名称から、一定の地域を指す名称、そして広大な地域を総称するいわゆる「地方名」まである[1]

古く「地名」という言葉は一国の領土の中にある比較的小さな部分の名と考えられており、国名や海名が地名の一部と考えられるようになったのは20世紀の半ばを過ぎてからである[2]

なお住民の生活に密着した地名のほかに、学術分野で取り上げられるだけでほとんどの住民が知らない地名もある[3]
地名の構成と言語

地名は普通、「富士山」の「山」のようにそれが何であるかを表す総称詞と、「富士」のように他の山と区別してどのようなものかを形容する固有詞で構成されるが、総称詞を欠いて用いられることもある[4]。どのようなものが、どのような場合に総称詞を欠くかは、各地名個別の問題でもあるが、言語によっても違ってくる。

中国語では、集落村落都市)名には漢字二字からなる地名が圧倒的に多く、山や川などの自然地形は一字が多い。字数が多い地名はたいてい外国語に由来する地名である。地名専用の字が多いのも中国語の特徴である[* 1]

日本朝鮮中国の影響で漢字二字に地名を改めた歴史を持ち、その後も長く二字表記が暗黙の規制として働いた。日本は713年和銅6年)に発音はそのままで好ましい字二字で地名を表記するよう一斉に表記を改めた[* 2]。朝鮮は三国時代には漢字の音を借りて地名を表していた(吏読文字と呼ぶ)が、統一新羅757年景徳王が中国風の漢字二字の地名に変更した。

日本語の地名は漢字と仮名の2本立てでできているので、両者が乖離したり片方に引き寄せられたりして複雑な様相を呈する。713年の好字二字令のときに発音と乖離した文字を付けられたのが古い例で、これが字に引きずられて読みが変わることもあった[* 3]。この種の変化は誤解から生じることも、意図的に変わった表現をとろうとする趣向から生じることもあり[* 4]、一つの地名で複数の表記や発音が競合することも珍しくない[* 5]難読地名)。

定冠詞を持つ言語では、どのような地名に定冠詞を付けるかが言語ごとに異なっている[* 6]
地名の由来

地名の由来の探求は、地名学の中心課題である。信頼できる文献で残されている由来や、実地形との対照などから確実視できる由来もあるが、諸説あって定まらないもの、まったく不明とするしかないものも多い。判明した由来は非常に多様であるが、言語・地域や時代による傾向の違いを見出すことはできる。命名の方向から大きく二分すれば、その場所の特徴からとったものと、命名者の願望・思想を付けたものに分かれる[5]
地形や土地の特徴

地形の特徴から地名を作るのは、数多い一般的な命名方法である。特に小範囲の地形、古い時代に付けられた地名に多い。自然改変の結果やその場所の施設・機能に由来する地名が付けられるのは、その種の活動が出現しなければ出てこない[6]

地形のほかにも、その場所の様々な特徴から地名は作られる。そこにある動植物のような自然物、田畑など半ば人工的に作られた特徴も地名の一部になる。由来となった特徴が消えても地名はなかなか変わらないので、地名が過去の様子を推測する手がかりになることがある。

「山」や「小さな山」など普通名詞そのものが地名になる場合もある。地元の人しか言及しないような小地形では、それだけで場所の特定ができるため、この種の地名が多くなる。こうした地名でも、その言葉が死語古語になっていたり、外国語起源であったりすると、他の場所と区別する固有名詞としての機能が具わり、地名として定着しやすくなる。
人名

発見者、偉人聖人のほか、命名者が個人的に愛着する人の名を採った地名である。の名を付けたものも命名の動機は人名に似る。南北アメリカ大陸には特に多い[* 7]。起源になるのはヨーロッパ系の人物だけとは限らず、先住民の名を採ったものもある[* 8]

古くからの地名を捨てて偉人の名に改めることもある。近代には革命などの体制転換の度に地名が変わる事例が多く見られた[* 9]20世紀ソビエト連邦を始めとする社会主義国では、旧来の地名の相当数を革命家の名に改称したが[7]、その多くは体制崩壊後に戻された。

ヨーロッパと南北アメリカでは、個人を顕彰する目的で通り公園の名を付けたり変えたりするのがごく一般的である。日本や中国にそのような習慣はなかったが、中国には20世紀になって西洋文明の影響でそのような命名が広まった[8]

日本では江戸時代新田の名に開墾者の名をつけることがあった。明治時代以降にも開拓地の地名で人名から地名を付けることがあったが、数はあまり多くない。

地名と人名は相互に転化しうる密接な関係を持っているが、人名から地名になる例より、地名から人名が作られる例のほうがおそらく多い。イングランドでは居住地名でを生まなかったもののほうが珍しいと言われ[9]、日本も事情は同じである。
人間集団と組織

人間集団と広域地名の関係は個人名と地名の関係より密なものがあり、部族民族の名と地方・国の名が対応するのはごく一般的であり、例えば、地名「日本」と民族名「日本人」、民族名「蝦夷」と地名「蝦夷地」などがそうである。

氏族や一族の居住や移住によって比較的小さな村落名が人間集団の名で呼ばれることもある。中部ヨーロッパには民族大移動時代の痕跡を残した小地名が多く残されており[10]、中国にもある一族が集まって住んだところにその姓を冠して付けた地名が残っている[* 10]

住民の職業から地名を付ける場合もある。日本では近世城下町の建設期に、職業を冠した町に職人を集住させた(「肴町」「鍛冶町」など)。集住はやがて解消されたが、町名は各地で残った。
施設・団体

、大きな公園など広い面積を占める施設の名称は、その範囲を指す地名としても用いられる。施設がめだった目標となってその周辺の地名になることもある。この場合、施設名に「前」「脇」などを添えることもあるが、施設名をそのままを地名とすることもある[* 11]

また、かつて城や寺院があった場合、門、堀、土居、木戸など文字が変えられている場合もあれど、かつてあった事を示す名もある。

少数であるが、会社宗教団体の名から採った地名もある[* 12]
地名

地名そのものも地名の由来となる。これにはいくつかの方法があり、まず、新しく発見、開拓した土地に故郷の地名を付けることがある。発見・開拓で命名された地名を多く擁している南北アメリカ大陸には特に多い。イギリスヨークからアメリカ合衆国ニューヨークなどがその典型例として挙げられる。日本の陸奥国や郷には関東地方の郡や郷と同じ名のものがいくつかあるが、それらは関東からの集団移民が作った郡だと考えられている。元の地名に「新」を意味する語を冠することもあるが、そのまま採ることもある。

そうしたことと別に、山や川の名を都市の名にするなど、ほぼ同じ場所にある別の地名から名を採って総称詞だけ変えることもよくある。時おりは近くとはいえない距離で採られることもある(例:「札幌市」から「札幌岳」など)。


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