地下水
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地下水のモニタリング

地下水(ちかすい)とは、広義には地表面より下にあるの総称であり、狭義では、特に地下水面より深い場所では帯水層と呼ばれる地層に水が満たされて飽和しており、このような水だけが「地層水」や「地下水」と呼ばれ、地下水面より浅い場所の水は「土壌水」と呼ばれる。このような狭義では、両者を含めた地表面より下にある水全体は「地中水」と呼ばれる。広義の地下水に対して、河川湖沼、ため池といった陸上にある水は「表流水」と呼ばれる[1][2][3]
関連用語類

地盤は水分を吸収する能力(性質)を持っており、これを浸透能というが、この浸透能により地中に地下水が蓄えられることとなる。地下水は、地表に流出して河川などの地表水を形成する。また、生活用水・農業用水・工業用水などに使用されたり、水温の高いものは温泉として利用されたりするなど、人間の生活活動・経済活動を支える重要な資源とされている。人間は井戸によって地下水を得ることが多い。一方、地下水は斜面崩壊地すべり土石流など自然災害の原因ともなっている。

地下水を扱う研究分野には、水文学水理学などがある。

なお、廃棄物最終処分場において、その土壌に含まれる水については地下水とは呼ばず、保有水という。処分場は構造上、一般環境から隔離されており、その内部にのみ保有されているという意味である。
水の循環詳細は「水循環」を参照

地球に限定すれば、水は地上や地下、そして大気中を長い時間をかけて循環しており、地下深くに浸透した水が「涵養」「流動」「流出」という過程を経てふたたび地上に出現する大きな循環系を構成している。このような地球規模での大きなスケールの循環では、地表面や大気中の水の循環は「地表水循環系」と呼ばれ、地面より下の水の循環は「地下水循環系」と呼ばれる[3]
涵養

地下水の大部分は大気中の水分がなどのかたちで地表面に降水となって降ることで、地面の下に流入する。降水に限らずこのように何らかの水が地下への流入することが「涵養」である。天水とも呼ばれる降水は、地表の浸透能によって多くが地中に浸透する[3]

海水を由来とする地下水もある。太古にだった地域が、長い年月の間に陸となり、海水が地中に残存して地下水となったものである。こうした地下水を化石海水(かせきかいすい)といい、アメリカ中西部プレーリー平原の化石水が代表的なものである。化石海水は、数千万年 - 数億年前に形成されたと見られている。化石海水はもともと海水だったため、塩分を多量に含む塩水であることが多く、人間にとって利用しにくい地下水である。しかしながら、日本の関東地方南部の地層中の化石海水は、メタンヨウ素を多量に含むため、千葉県を中心に、資源として産業的に利用されている(南関東ガス田)。東京都区部や川崎・横浜市内の温泉もまた、同じ化石海水を利用している(2007年の渋谷温泉施設爆発事故は、化石海水から分離したメタンガスを適切に処理しなかったことが原因であった)。

また、プレートテクトニクスに由来する地下水もある。大陸プレートが海溝などで他の大陸プレートの下部へ潜り込む際、周辺の海水も一緒に引きずり込まれる。地殻内部へ引きずり込まれた海水は、マグマ熱などにより、地表近くへ上昇して地下水となるものもある。こうした地下水は、高温であることが多く、温泉を形成することがよく見られる。
流動地下の構造(帯水層と難透水層)
1.帯水層 2.難透水層 3.不飽和帯 4.地下水面 5.被圧地下水 6.不圧地下水 7.深井戸 8.浅井戸 9.自噴井

地中へ浸透した直後の地下水は、その場に完全に留まるようなことはほとんどなく、不飽和水であれば比較的早期に地上へ蒸発したり湧き出したりするが、さらに深く浸透して飽和水となれば土の粒子間をゆっくりと流れて土中を遠くまで移動してゆくことになる。流量の多い地下水は「循環地下水」と呼ばれ、流量が少なく一箇所に滞留したままの地下水は「化石水」と呼ばれて区別されることがある[3]
地表近くの流れ
地中に浸透した地下水は、ふたたび地表に湧出して河川や池沼のような地表水となるか、地下のまま海岸線を潜り抜けて沿岸の海底に湧き出る。地中へ浸透せずに地表水となる水流をホートン地表流というが、地表の浸透能は非常に高いため、舗装の多い都市部などでない限り、降水のほとんどはホートン地表流となることなく、一度は地中に吸い込まれて地下水となる。同位体を用いた水文調査の結果によると、洪水時でさえも、地表水は地下水から供給されていることが判明している。すなわち、地中に浸透できなかった降水によって洪水が発生するのではなく、多量の降水が地中に浸透し、それまでの地下水が追い出されて洪水が発生するのである。
流速

帯水層[注釈 1]の中の地下水はゆっくりと流れ、概ね1日に数cmから数百メートル、平均では1メートル/日ほどである。一般に不圧地下水(後述)は被圧地下水に比べて早く流れ、特に河川に沿って流れる地下水は地上の流れに似た動きで比較的早く流れる。反対に被圧地下水の流れは遅く、ほとんど停滞しているものもある[3]

地下水の流速を求めるには、1856年にフランス人技術者、アンリ・ダルシー(1803-1858)が発見したダルシーの法則が用いられる。地下水の流速 = 透水係数 × 動水勾配

透水係数:地層が水を通す度合い

動水勾配:2点間の水頭差を距離で割ることで、傾きとして表したもの

透水係数と動水勾配はその地層の地質構造に左右されるが、地質構造を明らかとするには実際に現地で調査を行うほかない。そのため、地下水の実態把握には、現地調査が重要である。

その調査方法としては、井戸ボーリング孔を掘って地中を調べる方法、地中に電流を通して電気伝導率を調べる方法、pH、水温、弾性波で調べる方法などがあるが、最も効果を上げているのが、地下水に含まれる水素の同位体であるトリチウムを測定して調査する方法である[3]。この同位体測定法により、実際の地下水の流速や流動方向などが、地域によってはかなり詳細に判明することもある。
地下水面詳細は「地下水面」を参照

地中を観察すると、の粒子の間隙に水が浸透している。このとき、水が完全に満たされていない状態(不飽和状態)であれば「土壌水」と呼ばれ、粒子の間隙に水が完全に満たされた状態(飽和状態)であれば「地層水」や「間隙水」、「地下水」と呼ばれる。土壌水と地下水との境界は地下水面と呼ばれる。地下水面には、井戸または掘削孔中に現れる水面としての定義もある [4]

地下水面を境として、上部(土壌水の存在する部分)を不飽和帯、下部(地下水の存在するところ)を飽和帯または帯水層と呼ぶこともある。さらに不飽和帯を二分し、その下部を毛管水帯、その上部を懸垂水帯と呼ぶこともある。帯水層の厚みや状態、水自身の流動によって地下水面の高さには凹凸が生じる[3]

地下水面より上の不飽和帯内と地下水面にある水は、不飽和帯内の土壌の間隙を経て地上と通じているために大気圧とほぼ同じ圧力状態にあり、「不圧地下水」や「自由地下水」と呼ばれる。地下水面より下にある飽和帯内の水は、周囲の土壌や水自身の重みによって圧力を受けるために大気圧より高い圧力状態となっており、「被圧地下水」と呼ばれる[3]

地下水面より下の地下水は、面的あるいは空間的に存在している。「地下水脈」という概念があるが、地下水を線的なものとして捉えるのは正確ではない。ただし、カルストなどの岩盤中の地下水は線的な賦存状況を示す場合もある。

平野部には数十メートルを超える井戸が多数存在し、揚水を行っている。また、地下水は地層構造により第一帯水層・第二帯水層等の幾層にも分かれて重なっている。地下水流向は同一平面位置であっても各帯水層によって異なる場合が多く、全く逆方向の流向も珍しくない。
貯留量

一定地域内に存在する地下水の量は、涵養や他から地下を経由しての流入によって増加し、地表への流出や地下を経由しての流出によって減少する。このような地下水の量は、地上でのダムなどと同様に貯留量で表現される。地下深くに溜まっている大量の地下水の中には、流入量が少ないものがあり、井戸などによって人工的に大量の水を汲み出すと貯留量は急速に減少し、場合によっては枯渇する[3]
滞留時間

地下水が地下に留まっている平均時間は「滞留時間」と呼ばれ、想定される貯留量と流動量から計算される。オーストラリア大鑽井盆地では110万年以上、黒部川扇状地の砂丘では0.14年と推定されている[注釈 2]

滞留時間の例地域帯水層滞留時間
オーストラリア大鑽井盆地1,100,000年(最大)
エジプトサハラ砂漠北東部45,000年(最大)
シナイ半島西端の泉と死海近くの井戸約30,000年
中央ヨーロッパ深度100-800m10,000-10,500年
ベネズエラマラカイボ市4,000-35,000年
南アフリカカラハリ砂漠430-33,700年
旧チェコスロバキア山河小流域からの地下水2.5年
ニュージーランドワイコロププ泉0-20年
米国テキサス州カリゾ砂岩27,000年(最大)
米国ハワイ州オアフ島100年
米国インディアナ州氷河堆積物25年
韓国済州島2-9年
東京湾岸深度200-2,000m2,840-36,750年
岩手火山山麓湧水17-38年
八ヶ岳山麓湧水1-100年
会津盆地自噴井深度30m13年


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