国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約
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国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約
通称・略称ハーグ条約
起草
ハーグ国際私法会議
署名1980年10月25日(署名開放)
署名場所ハーグ
発効1983年12月1日
寄託者オランダ王国外務省
言語英語、フランス語
主な内容国境を越えた子供の連れ去りへの対応[1]
条文リンク和文 (PDF) - 外務省
英語正文 - ハーグ国際私法会議
仏語正文 - ハーグ国際私法会議
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国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(こくさいてきなこのだっしゅのみんじじょうのそくめんにかんするじょうやく、英語: Hague Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction / フランス語: Convention de La Haye sur les aspects civils de l'enlevement international d'enfants)とは、子の利益の保護を目的[2][3][4][5]として、親権を侵害する[6][7]国境を越えた子供の強制的な連れ去りや引き止めなどがあった時に、迅速かつ確実に、子供を元の国家(常居所地)に返還する国際協力の仕組み等を定める[8][9]多国間条約である。全45条からなる。

ハーグ国際私法会議にて、1980年10月25日に採択され1983年12月1日に発効したハーグ条約のひとつである。

未成年者が連れ出された国家、および連れ込まれた国家の両方が、条約加入国である場合のみ効力を有する条約である[注釈 1]
概要

本条約は、親権を持つ親から子を拉致したり、子を隠匿して親権の行使を妨害したりした場合に、拉致が起こった時点での児童の常居所地への帰還を義務づけることを目的として作られた条約である(条約前文)。あくまでも子供の居住国の家庭裁判所の権限を尊重するために作られたもので、子供の親権や面接交渉権に関して判断を下すものではないが、条約の執行において結果的に居住国側の法律が優先されて執行することとなる。

つまり、国際結婚夫婦間が不和となり、あるいは離婚となった場合、一方の親が他方の親に無断で、子供を故国などの国外に連れ去ることがある。それが子供を連れ去った元の居住国では不法行為であっても、連れ去られた先の国家に国内法が及ばないことから、連れ去られた側が事実上泣き寝入りを強いられる。そういった場合、元の居住国に子供を返還することを目的とする。

この条約は最終的な親権の帰属を規定するものでなく、あくまでも子供を、元の居住国への返還を規定するものであり、親権の帰属については別途法手続きを行うことになる[10]

本条約が適用される子供は、16歳未満までであり、それ以上に達すると、本条約は適用されなくなる(第4条)。また連れ去った先の裁判所あるいは行政当局は、子の返還を決定するに際して、子が反対の意思表示をし、子の成熟度からその意見を尊重すべき場合は、返還しない決定をすることもできる(第13条2項)[注釈 2]

日本では、離婚の際、家族法上子の親権者を夫婦のどちらか一方に決める、単独親権制が取られ、子の養育の権利・責任(親権)は、母親が引き受けることが多い[注釈 3]。一方でアメリカ合衆国フランスでは、両方の親に親権が与える、共同親権制が取られる。こうした欧米諸国と日本での離婚や親権、面会権などについての考え方の相違や、国内法との整合性の問題、家庭内暴力(DV)が原因のケースでは、再びその対象になりかねない懸念があり、日本の自公連立政権では加盟に慎重であった[11]

しかし、国内外において国際離婚に伴う子の略取問題への関心が高まっていることと、欧米、特にアメリカ合衆国連邦政府の強い外交圧力から、日本国政府2011年(平成23年)5月20日に、加入を閣議で了解[12][13]2013年(平成25年)5月22日に条約が国会で承認され、同年6月12日に実施法が成立。2014年(平成26年)4月1日から効力が発生することとなった[14][15]
締約国

地図は2011年10月時点での締約国を示している。Signatory Countries to the Convention (Conference member countries in dark blue).mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  本条約の締約国 (ハーグ国際私法会議の構成国)  本条約の締約国 (ハーグ国際私法会議の構成国ではない国)
条文

CONVENTION ON THE CIVIL ASPECTS OF INTERNATIONAL CHILD ABDUCTION(国際的な子の奪取の民事面に関する条約)(英文)

法制審議会による対訳

子の利益

本条約に基づく子の常住居国への身柄の返還は、原則、子の利益(「子を返還することが子にとって良いことか?」)を考慮することなく行われる[16]。このことに関し、ハーグ国際私法会議が発行する ⇒Explanatory Report on the 1980 Hague Child Abduction Conventionはパラグラフ23で「違法に連れ去られた子の迅速な返還に関して、条約には子の利益を考慮する明文の規定は存在しない」と解説し、その理由として「子の利益は曖昧な概念で法的判断に適さないこと」(パラグラフ21)および、「連れ去られた先の裁判所が子の利益を判断すると、その国の文化的、社会的価値観を反映した子の利益になり、連れ去られた元の国の価値観と合わない」(パラグラフ22)を上げている[17]

ただし本条約は、子の利益に関連して返還をしない決定をできる特例を2つ上げている[18]

「子を肉体的、精神的な危害にさらす」または「子を耐え難い状況に置く」重大な危険がある(本条約13条b)

子が返還に反対の意思を示し、子の意見を聞くだけの年齢に達している(本条約13条2項)

「子を耐え難い状況に置く」という特例は幅広い解釈が可能であるが、「子の利益に反する」より限定された場合にしか適用することはできない。子の意思に関して、何歳から子の意見を聞くべきかについては、条約起草段階でも議論されたが結論が出ず、個別の事案について判断することとされた[19]

なお、この2つの特例は「裁判官が返還を命じなくても良い」特例であり、子の権利として「返還を命じられない」というものではなく、返還を命じるか否かは裁判官の裁量である。このため、十分意思表示できる子が明確に返還に反対の意思表示をしても、返還されない保証はなく、裁判官が裁量で返還を命じた場合にはそれに従わざるを得ない。

一方アメリカでは、「子の意見を聞くことは、子の心に負担をかける。親のうち一方を選び他方を捨てる判断を子にさせるべきではない。」との意見から、子は自分の意見を返還裁判で言うことすら許されない運用をされる場合がある[20]


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